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第3話彼女がいる生活 前編

 遊びに来ていいとシャーリィに言ってから、俺はしばらく様子を見ることにした。


(流石に毎日のように来ればその内飽きてくれるだろ)


 あれだけ嫌と言っておきながら、我ながら甘いなと思いながらも、彼女から離れてくれると俺は思った。


 一週間ー


 二週間ー


 三週......


「はぁ......」


「どうしたのルーク。ため息ついて」


「いや......」


 分かってはいたが、彼女に『飽きる』という言葉は存在していなかった。シャーリィ自身ギルドの仕事だって忙しいはずなのに俺が仕事から帰れば、当然のように笑顔で出迎えてくれる。


 ー俗に言う『押しかけ妻』


 今のシャーリィにらその言葉がピッタリだった。この現状をサクナに『ルークって本当に罪深い男ね』なんてからかわれ、察しのいい冒険者には白い目で見られる状況に、俺は疲れていた。


(こんなのギルドマスターが知ったら、半殺しどころじゃ済まないよな絶対)


 俺はシャーリィを見ながら再びため息を吐く。


「またため息。そんなに私といっしよが嫌?」


「うぐっ、そ、そうじゃないよ」


 急に上目遣いで見つめられるとこっちかドキッてしてしまう。しかも目なんか潤まされたら、背徳感かすごい。


(落ち着け、落ち着くんだ俺)


 一歩間違えれば犯罪者になるぞ。


「お、俺が悪かった。考え事してたらため息が出たんだよ」


「考え事って、やっぱり私の」


「違うから! お願いだから泣くのだけはやめてくれ!」


 シャーリィと話すのはやっぱり慣れない。彼女とは長い付き合いなのに、泣かれてしまうと心が大きく揺れ動く。


「とりあえず落ち着いて話をしよう、シャーリィ。ため息を吐いたことは謝るからさ」


「本当に?」


「あ、ああ。本当だ」


 もっと厳しくするべきなのは分かっているのだが、子供相手だとどうしても強く出られない。


「なあシャーリィ、この三週間毎日遊びに来てるが、楽しいか?」


「ルークと一緒だから楽しいよ?」


「そうか。いや、それなら別にいいんだけどさ。毎日来てたら飽きるんじゃないかって。ほら、俺の部屋って何もないし」


「何もなくてもルークとお話ができるよ?」


「......よくそんな恥ずかしいこと、人前で言えるよな」


 純粋なのか天然なのか、シャーリィは何度も俺の心を揺さぶってきて、いい加減こちらの心がもたない。


(年の差さえ、年の差さえなければ俺はこんなにも苦しむ必要なんて)


 シャーリィが俺に向けてくる純粋無垢な笑顔がとても眩しい。


「そうだルーク。ルークって好き嫌いとかある?」


「好き嫌いって食べ物のことか? 特に苦手なものはないが」


「じゃあ今度私がルークのためにご馳走作ってあげるね! 楽しみにしてて」


「......楽しみにしておく」


 どこかで断らないと無限ループするのか、これ。


 2

 シャーリィか毎日家に来るようになってから一ヶ月後が経った。


「なあサクナ、俺もうシャーリィの保護者になった気分だよ」


 俺は今日も仕事をしているシャーリィを眺めながら、サクナに愚痴をこぼしていた。


「気分じゃなくて、もう親子みたいなものでしょ? シャーリィちゃんはそうは思ってないだろうけど」


「じゃあどう思っているんだよ」


「それは本人に聞かないと分からないわよ。でも親子じゃないなら、ねえ」


「何だよ」


「分からないなら結構。ルークの朴念仁は生まれながらだからねー」


「なにもそこまで言わなくてもいいだろ!」


 別に生まれたときからそんな風に言われていたわけではないし。


「とにかく、シャーリィちゃんのことは一度マスターと話をした方がいいんじゃないの? このままだと何をされるか分からないだろうし」


「それなんだよ、今の悩みがさ」


 今俺が最優先しなければならないのは、未だ不在のギルドマスター、シャーリィの父親に今のことを話さなければならない。


「一つ間違えれば命がいくつあっても足りない」


「マスターはどんなに時間が経過しても、シャーリィちゃんのこと溺愛し続けそうよね」


「あの溺愛ぶりは多分世界のどこを探しても見つからないな」


「今のうち言い訳考えておかないと駄目ね」


「そうかもな」


 俺はそう言うと席を立つ。


「珍しく仕事?」


「ああ。働かないと家賃すら払えないからな」


「今からだとシャーリィちゃんの仕事が終わるまでに戻ってこれなさそうだけど」


「シャーリィにはその事は話してあるから大丈夫だ。もし何かあったらサクナが守ってくれよ」


「ほんとう過保護なのか無責任なのか分からないわね」


「言ってろ」


 俺は冒険者だ。仕事をしなければお金を稼げないし、お金を稼げないと生活もできない。

 シャーリィを仕事に連れて行くにはいかないので、彼女には今日は我慢をしてもらうことにした。


「さて、仕事の時間だ」



「ルーク?」


 料理を運んでいる僅かな時間の間に、さっきまでそこにあったルークの姿がなくなっていた。


(そういえばお仕事に行くって、昨日言ってた)


 だから今日は家には帰らないと言っていたから、ルークの家に遊びに行くこともできない。


(寂しいなぁ......)


 一日会えないだけなのに、私の胸はズキリと痛む。皆はルークの顔が怖いって言っているけど、とても優しいし、色々言うけど私を突き放さないでくれる。


(本当に優しくて暖かい。だから)


 今日は会えないの、寂しいな。



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