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第2話向けられた好意

シャーリィが俺の部屋に目的は俺と一緒に暮らすためとの事で、俺はどうすればいいのか分からなかった。


「この話、マスター......お父さんには話したのか?」


「ううん。話したらぜったいはんたいされるもん」


「だろうな」


マスターというのはシャーリィの父親であり、冒険者ギルド『雲雀』のマスターをやっている人だ。多分だけどマスターは自分の娘のこと気づいていると思われるけど、話したらどういう反応をするか容易に想像できる。


「なあ流石に一緒に暮らすというのは、無理があると思うんだ」


「どうして?」


「まずシャーリィには住む家があるだろ?」


「いつもギルドで寝させてもらっているからだいじょうぶ!」


「マスターだって心配するだろ?」


「おとうさんしばらく帰ってこないよ?」


「そうだった......」


今シャーリィが自由にここに来れるのは、ギルドマスターが仕事でしばらく帰らないからだ。そして彼女の母親は、シャーリィが産まれて間もなく病気で亡くなったらしい。


(つまり家に帰っても一人、ってわけか)


ギルドに人は沢山いるだろうけど。


「シャーリィはどうしてそこまで俺を」


「そんなのルークが好きだから、だよ。変かな?」


「それは......」


うまく言葉が返せない。


『恋愛は人それぞれ自由』


いつか聞いたあの言葉を思い出す。俺とシャーリィは年が十も離れている。それでも彼女自身が自分で好きと言ってくれる。


(俺が気にしすぎなのか?)


ならシャーリィの気持ちも汲み取って選択すると、今妥協できる方法は......。


「ルーク?」


そこまで考えたところで、シャーリィの声で我に返る。


「わ、悪い。そうやって告白されるの初めてだからさ」


「いつもルークは怖い顔してるもんね」


「余計なお世話だ」


自覚はしているんだから。



気を取り直して。


「......とりあえず考えたんだけどさ、一緒に暮らすっていうのは流石に難しいと思う」


俺はたどり着いた結論を彼女に話した。


「やっぱり駄目、なの?」


「その代わり、今日みたいに遊びにきてはいい」


「え?」


ただ悪いことだけではなく、妥協したのがそこだった。彼女が好意を向けてくれるのは純粋に嬉しくはあるし、彼女と接するのは悪い気分じゃない。


「ルークの部屋にきていいの?!」


「その代わり、ギルドの仕事はしっかりやってくれ。あと以前のように人前で抱きつくとかはやめてくれ」


「しごとは頑張るけど、抱きついちゃだめなの?」


「駄目だ」


「ぶーぶー」


頬を膨らませるシャーリィ。


「それだけ守ってくれればいつでも遊びにきていい」


「ルークに会えるなら......がまんする」


「よしよし」


少し不満げなシャーリィの頭を撫でてやる。やっぱりこうしていると彼女とかそういうのより娘の感じしかしない。


(それが不満なんだろうな......)


「これからよろしくねルーク!」


「こちらこそな、シャーリィ」


ともかくシャーリィには納得してもらえたので、俺達の奇妙な関係はこの日始まったのだった。


■□■□■□

翌日。


「へえ、面白いじゃない」


「何も面白くないって」


二日ぶりにギルドにやって来た俺は、顔見知りの受付嬢サクナに事の顛末を話した。


「だってあのルークが、誰かに好かれるなんて考えられないでしょ?」


「知っていたくせに余計なお世話だ」


「まあ誰でも気づくでしょ。あんなにあからさまだったら」


「まあな......」


酒場で料理を運んでいるシャーリィを眺めながら呟く。


「三年くらい前だったっけ、シャーリィちゃんがルークにくっつくようになったのって」


サクナも受付カウンター越しに彼女を眺めながら答える。


「もうそんな前になるのか?」


「ルークってあの頃もっと暗かったから、そういう覚えてないんでしょ?」


「人に避けられてばかりで、へこんでたんだよ」


「それは今もでしょ」


「やかましいわ」


適当な会話をしながら少しだけ三年前のことを思い出す。


『おにーさん、きょうもひとりなの?』


それがシャーリィが俺にかけた最初の言葉だった。彼女はまだ当時七歳。もっと小さい頃の彼女にそんな事を言われてすごくショックだったのを今でも覚えている。


『うるせえ、俺だって好きでこんなことしているんじゃないんだ』


『もしかしてそのお顔のこと?』


『なっ』


おまけに自分の顔のことまで言われ、俺は大人げなく怒りそうになった。


『わたしは好きだよ、おにいさんのお顔』


『え?』


けどその怒りも消えてしまうくらい、少女の純粋な言葉が心に響いた。今までそんなこと誰からも言われなかったのに、シャーリィは言ってくれた。


この顔が好きだと。


「物好きよね、シャーリィちゃん」


「それを本人の前で言うか?」


「だってルーク、冒険者になって五年が経つのにろくな仕事もできてないでしょ? おまけにシャーリィちゃんとイチャついてるし」


「イチャついてないし、あれはシャーリィが一方的にスキンシップを取ろうとしてるだけで」


「ならどうして遊びに来ていいなんて言ったの?」


「それは別に他意とかはなくて、こうでもしないと帰らなかったからで......」


「照れ隠し?」


「ち、ちがっ」


「まあそうする以上、そろそろ頑張りなさいよルーク。気持ちは分かるんだけど、貴方も前進しないと」


「......分かっているよ」


受付カウンターから離れ、シャーリィを見ながら外に出る。


(前進、か......俺も変わらないと駄目だな)


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