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第1話看板娘と冒険者

 赤い髪の小さな少女は俺に微笑んだ。


「おかえりなさい、ルーク」


 俺の腰くらいの身長の彼女はいつもお客さんに向ける笑顔と同じものを向けてくれる。


 まるでその場に花が咲いたような気持ちだ。


「いや、シャーリィ、何でお前がここにいるんだ?」


 けどその花は今ここにあるはずのないものだった。


 ■□■□■□

「シャーリィちゃん、可愛いよなぁ」


 酒場の喧騒の中で、一人のおっさん冒険者が言葉をもらす。それに仲間の一人だと思われるオッサンが答える。


「分かる分かる。小柄で笑顔も可愛くて明るいし、文句なしだよなぁ」


 二人の視線の先には酒場......というより、このギルドに設けられている酒場にある小さな舞台で舞っている一人の赤髪の少女。


 名前はシャーリィという。


 このギルドの看板娘だ。先程の会話の通り、彼女は天真爛漫で人気も高い。看板娘と呼ばれるのも頷ける。


 それとは逆に一般冒険者の俺ルークはどうだ。


 かれこれ冒険者を始めて五年は経つ。それだというのに未だに大きな依頼も達成できていない上に、仲間もいない。


 原因は多分だけどこの顔にある。


 不細工とかそういう話ではないのだ。


「ひっ」


 怖がられるのだ。

 一日に三回も子供に泣かれた事もあるくらい、俗に言う強面なのだ。


(自分で言うと悲しくなるな......)


 だから俺は今現在一人ぼっちなのだ。だから彼女と俺とでは光と影、陰と陽。正反対の世界に住む人間だった。


 彼女の方から話しかけられるまでは......。


「あ!」


 そんなことを考えていると舞台上の小さな彼女と目が合ってしまう。


「今日も会いに来てくれたの? 嬉しい!」


 俺を見つけるなりシャーリィは舞台から降りると、俺に駆け寄り何とそのまま抱きついてきた。


「なっ!しゃ、シャーリィ、こういうのは人前で」


 周囲のシャーリィファン(仮)からの冷たい視線が突き刺さり、俺は居たたまれない気持ちになる。


「照れちゃって可愛い!」


「て、照れてるとかそういう話じゃないんだよ! 沢山の人が見てるから!」


「わたし気にしないよ?」


「俺が気にするんだよ!」


 何とかシャーリィを引き剥がし、ため息をつく。俺が彼女をすぐに引き剥がしたのには理由があった。


「あのなシャーリィ、自分の年齢忘れてるだろ?」


 それは彼女の年齢だ。これが大の大人ならまだ多少はセーフかもしれない。


 けど彼女は違う。


「今年で十歳だよ?」


「それが問題なの!」


 十歳、つまり子供だということだ。俺とは十五歳も歳が離れてる。


「問題?」


「いいかシャーリィ。俺は今年で二十五歳だ」


「うん、知ってる」


「そしてお前は今年で十歳。つまり十五歳の年下だ」


「うん」


 十五歳も年下の少女に抱きつかれて、ニヤニヤする男性。


「いくらギルドの看板娘とはいえ、アウトだろ完全に」


 犯罪臭しかしない。


(おまけにこの面じゃ一発で捕まるよな......)


「だから俺には近づかないでくれ」


 そんな犯罪者にだけは決してなりたくないので、俺は徹底して彼女を遠ざけたい、


「ルークは......」


 のだが、


「ルークはそんなにわたしと一緒が嫌?」


 涙を滲ませそんなことを言われてしまったら、俺の胸が締め付けられる。


(毎度の事なのに、なんだって俺はいつもこう)


 純粋に泣いている彼女を見たくないって気持ちがあるからだろうけど、毎度これに騙されてしまっては埒が明かない。


(心を鬼にするしかない、か)


 俺は辛い気持ちを抑え、彼女を優しく諭す。


「い、嫌とかじゃないんよ。だけどな、これはシャーリィの為なんだ」


「わたしの為?」


「いつかは分かるときがくるから、今は我慢してくれ」


 大人になればきっと今の俺の気持ちも分かる、そう願いながら俺は彼女に背を向ける。


「あ、る、ルーク!」


「じゃあな、シャーリィ」


 ようやく言えた彼女との別れの言葉。こう言ってしまった以上はこのギルドにももう来れないだろうし、シャーリィにも会うこともないだろう。


(これでいいんだ、これで)


 ようやく別離できたのに、俺の心は晴れなかった。


 ■□■□■□

 というのが昨日の出来事。


「あ、おかえりルーク」


 そして今。俺の目の前に彼女はいた。


「えっと、シャーリィ?」


「どうしたの?」


「いや、何でお前がここにいるんだ?」


 彼女がいたのは俺が今現在宿泊している宿屋の一室。


「昨日言わなかったか? 全部シャーリィの為なんだって」


「うん。でもわたしそういう難しい話わからないから、ルークを探したの。そしたらここに泊まっているって」


「あのなぁ」


 こればかりは予想外だったので、俺は言葉が見つからない。


「だってあのまま別れたらルークともう二度と会えないと思ったんだもん。だからお別れ、したくなくて」


「だからって宿を探し当てる必要は......」


「あったよ。だってきょうからルークといっしょにここで暮らすんだもん」


「......へ?」


「わたしギルドで働きながらルークと一緒に暮らす!」


 ドウシテコウナッタ。


(シャーリィの愛が重すぎる......)


 俺はいつの間にかとんでもない子に愛され始めてしまっていたらしい。

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