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Step2 自己紹介をしましょう

 竜の国から出発して約二時間、私達は学園諸島に到着した。

 サキ皇子の飛行能力は予想以上で、予定よりも早くの到着だ。


「到着です。お疲れ様でした、皇子」

「案内、ありがとう! 楽しかったぁ。外って、風の感じ方、全然違うんだね!」


 皇子は今にも歌い出しそうな調子。どうやら、初めての国外での飛行は気に入ってくれたようだ。


「楽しんで頂けたようで何よりです。ワイバーンは、皇子について行くのはしんどかっただろう? すまなかった」

『良いってモンよ! オイラとしちゃあ、随分と貴重な体験をさせて貰って満足だ。楽園のドラゴンと並走するってのぁ、オイラ達みてぇな一般のドラゴンにゃあ、一生に一度有るか無いかみてぇなモンだからな!』


 ヘトヘトになっているワイバーンを労いつつ、竜舎へ向かう。と、その時、鹿の様な角に長く白い髪の老人――学園諸島の長であるインヨウ学長がこちらへ駆け足でやって来た。


「おお、ツキカゲ。良いタイミングで帰ってきた! ……と、そちらが件の皇子じゃな? ワシは学園諸島の長、インヨウと申す。今はこんな老いぼれじゃが、昔は名の知れた冒険者だったのじゃ!」


 走って来た学長は、年老いているにもかかわらず息切れひとつおこしていない。相変わらずの体力だ。

 しかし、初めて会う人みんなに同じ昔話をするのはどうかと思う。現に、世間の物事に明るくないサキ皇子は少し困惑気味だ。


「はじめまして、インヨウ、さん! えっと……ボーケンシャ……?」

「冒険者は、様々なダンジョンで貴重な素材を回収する職業です。危険ではありますが、未知との出会いが魅力で人気の職種ですね」

「そう、なんだ! カッコいい!」

「おお、おお! 楽園の皇子にそう言っていただけるとは! ありがたいのぅ……っと、そうじゃった。ツキカゲ、お主に頼みがあるのじゃよ」


 冒険者の職種について、ざっくりと知った皇子が目を輝かせて学長を絶賛した。学長も、よほど嬉しかったのか、いつもより頬を緩ませている。だが、なぁ。学長の頼みか……絶対に碌でもない事になるぞ。


「頼み、とは一体?」

「うむ。お主には、皇子の他にも三人の勇者候補生の面倒を見てもらいたいのじゃ」


 ドーンといった効果音の鳴りそうな勢いで学長が言い放つ。一瞬、反射的に頷きそうになったが、私は調教師であって教師ではないのだが?


「学長。お言葉ですが、私は教師ではなく調教師ですよ?」

「わかっておるわい。じゃがの? 島も人手不足でなぁ……。何も、勉強をつけずとも良い。奴らはもう、筆記試験はパスしておるしの。それにお主、勇者免許は持っておるじゃろ?」

「そりゃあ、竜種の調教師になるには、勇者免許は必須ですし……。まあ、人手不足なら仕方がないですね。わかりました」


 人手不足の事を言われれば断れない。学園諸島はここ最近、若者の人手不足が目立って来ているのだ。それにしても、学長の言う事って、滅茶苦茶なのに正論なんだよなぁ……。


「ねえ、ツキカゲ、先生。ユーシャって、何? ボーケンシャの、仲間?」


 ああ、そうだった。冒険者も知らない皇子だ。勇者についても知っているハズがない。期待をした目の皇子に勇者についても説明しなければ。


「その認識でおおむね正解です。勇者と冒険者の違いとしては、免許の有無ですね。技術と体力さえあればどんな人でもなれる冒険者と違い、勇者とは、厳しい試験を合格する必要があるのです。人の命を守る職業ですから」

「そう、なの!? すごい!」

「ウグゥッ……!」


 眩しい……! 何も知らないが故に、皇子の期待の目が眩しすぎる!

 私がたじろいでいると、学長が豊かな髭を撫でながら言った。


「ウムウム、頷いてくれて助かったのじゃ。それでは、入ってくると良い!」


 学長の声と共に、三人の男女が入ってきた。

 左から、燃える様に紅い角と髪の竜人、腰から羽の生えたペガサスの獣人、エメラルドの髪を腰まで伸ばした神官風のエルフだ。


「ではお主達、自己紹介をするのじゃ」

「ハイ! オレ、魔王国勇者村から来ました。ヒュドラの竜人のノキシです!」

「俺様は輝きの国ギルド街出身、ペガサスの獣人のトウジ様さ! よろしく、レディ」

「私は花園の国にある神官村から来ました。エルフのチーナと申します」


 うーん……。やると言った手前、断る事は出来ないが、見事に国も種族もバラバラだな……。本当に私で大丈夫なのか、不安になってきたぞ。

 そうは言っても、先ずは自己紹介。相手だけに名乗らせるのは失礼だ。


「私はドラゴン調教師のツキカゲ。今日からお前達に稽古をつける事になった者だ。それと、皇子。皇子も自己紹介をしていただけますか? 彼らは、貴方と共に勉強をする者達です」

「ボク? うん。ボクは、サキ! 竜の国の、第三皇子、だよ!」


「マジ!? 竜の国の皇子!? スッゲェ! なあなあ、竜の国ってさ、ヒュドラは居るか?」

「うん、居るよ! お医者さん、なんだ」

「竜の国では、国一番の美女はどんな娘だい?」

「うーん……ビジョ? お母様、かなぁ」

「お近付きの印にこの花でもどうぞ」

「わあぁ! すっごく、可愛い、お花だね!」


 やはりと言うか、人の出入りがほとんど無い竜の国から来た皇子、と言うと三人とも驚いている。だが、勇者を目指すだけあって、みんな思考が柔軟だ。もう皇子と馴染んでいる。それに、皇子自身も楽しげだ。

 この様子なら、皇子が逃げようとする事も無いかもしれないな。


「それじゃあ、今日……はもう遅いな。明日から、このメンバーで学んでいく事になる」


 私は厳しいぞ、とニヤリと笑いながら付け加える。四人は緊張と期待の滲み出た表情で応えた。


「ハイ! よろしくお願いします!」


 明日は、そうだなぁ……この世界の基礎知識から、おさらいしていこうか。

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