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エッセイシリーズ

落とし物

作者: 夢野亜樹

サクラが舞っていると、その一つを掴みたくなる。昔、誰かにそれを掴むと良いことがあると言われたような…この季節になると私はそれを思い出し、ふと手を伸ばす。しかし手の中にサクラはない。

帰り道、親子らしい人が歩いていた。4歳くらいの女の子と母親だ。ピアノのレッスンに遅れちゃうとの声が聞こえ、小走りしていた。私はどこのピアノ教室だろうかと近くピアノ教室を何件か頭に浮かべた。

すると女の子の荷物から何かが落ちた。女の子はそれに気が付かないし、その母親も急いでいて気が付かない。私はちらっと後ろを見たが人はおらず、その落とし物に気付いたのは私だけだと悟った。

私はその落とし物を手に取った。白い毛のキツネのストラップだ。胸から首元の毛が禿げていて、中の茶色の布が見えていた。正直言って可愛くなく、ゴミ箱にそれがあっても何も問題ないだろうと思った。もしかしてわざと捨てたのかも知れなかった。

一瞬、そのキツネのストラップを道に置き直そうとも考えた。しかし、私はその落とし物を大切に握り、あの親子のところまで走った。

「すみません、これ、落としませんでしたか?」

私は母親に声を掛けた。

「あら、〇〇ちゃんのじゃない?ありがとうございます」

私は頭を下げて立ち去った。家族以外の人に声を掛けたのは一年振りだった。

道の端でさっき解けた靴紐を結ぶ。良かった、捨てたんじゃなくて。人の役に立てたなら良かった。私は自分を誇らしく思った。そして自然と微笑んでいた。

帰路に着くと、またサクラが大きく舞った。

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