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死神の指先  作者: nao 11
9/12

私らしく

 「真白ちゃん、どうする?」


 少しだけ迷った。

 だけどそれは、私だけの事じゃないから。

 だから答えを出す為に聞いた。


 「その前に一つだけいい? 二人はこの世界に来て、生きて、今が楽しい?」

 「オレは前の世界じゃ生きてても死んでる様なもんだったからな。そりゃこんなに自由に生きられる今が楽しいぜ」

 「……私も同感だな。あの破滅的な生き方があったからこそかもしれないが、今この世界で真っ当に生きていることが、本当に幸せに思うよ」


 ならば、決まりだ。


 「それはきっと、この世界の人も同じなんです。そして、シュウさんとカロンの存在を知っているのは私達だけ。なら私は、“やる”選択をします」


 前の世界であんなことをしたけど、人間は誰でも生きていたい。

 生かされていたいのではなく、生きていたい。


 「やり遂げるのはとても難しいだろう、それでもかい?」

 「最悪、失敗して死んでしまっても、私はそれで大丈夫です」


 何もせず、目と耳を塞いで逃げ続けること。

 自分には出来ないと全てを諦めること。


 「見ていないフリをするなんて、そんな『私』を『私』が許しません」


 理屈はとても簡単だ。

 初めから、私の行動原理なんて決まっているのだから。



 「ふむ、では行動を起こすということで皆も異論は無いかな?」

 「ま、オレ達をここまで引っ張って来たのは真白ちゃんだからな。不安ではあるけど、反対なんてしねーよ」

 「私は真白さんに救われました。始めからずっと、真白さんに付いて行くつもりですよ」

 「全会一致、だな。私も協力しよう」

 「あれ? マイケルさんは乗り気じゃないんじゃ」

 「私は選択肢があると言っただけさ。正直、どちらでもいいというのが本音だがね」

 「うーん、なんともクールでドライなお答え」

 「知恵をつけると、考え方に温度が無くなってしまうものさ」


 笑いながら答えるマイケルさんだけど、その笑顔は少し自嘲気味に見えた。

 シュウさんとカロン、この二人と勝負ないし説得するという方向でまとまった私達だが、まだ大きな問題がある。

 シュウさんをどうやって引き入れるかだ。

 既に軍とも言えるほどの魔族を率いている人だが、多分前に会ったあの雰囲気だとシュウさんさえ説得できれば反対する魔族は出ないだろう。

 その説得が一番大きい問題だけど。


 「さて、どうやって彼の方針を変えさせるかだけど、誰か良い案はあるかい?」

 「殴り合い…… じゃ勝てねえよなぁ。そもそも魔族に勝てる人間が少ねえもんな」

 「あの人は絶対力じゃ考えを変えない様に思えますけど」

 「だよなー。話で聞いてるだけでも不器用さと実直さが服着てるみてーな感じだし」

 「……ここでもう一つ、残酷な提案をしてもいいかい?」


 再び真剣な顔で告げるマイケルさんを皆が見つめた。

 少し嫌な予感がした。


 「倫理感を無視したどこまでも最低な案だが、もしも説得が失敗した場合、反対する魔族を真白ちゃんの力で殺してしまえば話は早い。シュウ殿も含めてね」

 「おい、いくらなんでも言い過ぎじゃねーのか」

 「では焔君、何か他に不安要素を補完する案があるのかい」

 「そういう問題じゃねーだろ。真白ちゃんがその力をどんな想いで使ってきたと思ってる!!」

 「そういう問題だろう。やると決めたならば、実現する為の可能性を突き詰める。無策に実行して『駄目でした』では洒落にもならない」


 ヒートアップする二人に、私は迷わず口にした。

 これは最初から迷いなんて一切無い、私の在り方。


 「絶対に力は使いません」

 「……ならば説得できる自信があるんだね?」

 「自信はありませんけど、そんな風に力を使うくらいなら私は死にます」

 「なっ」

 「私はこの力を、自分の正義を貫く為に理不尽を捻じ伏せる力だと言われて与えられました。でも私はそんなことの為に使う気なんて欠片もありません。気に入らないモノを力で好きにするなんて、私の嫌いな人間だから」


 自分でも珍しく語気が強いのが分かる。

 皆目を丸くして私の顔を見ていたけど、やがて口を開いた。


 「なぁマイケル、付き合いは浅いけど、多分こうなった真白ちゃんはテコでも動かないと思うぜ?」

 「……だろうね。それは今日会ったばかりの私でも分かる」

 「真白さんは頑固ですからね!!」

 「あんまり嬉しくない褒め方だなぁ」


 なんと言われても、この生き方は変えたくない。

 私は私らしく在りたい。


 「私は、私を嫌いになりたくないから」


 それは前の世界から、いつの間にか染みついていた私の意地。


 「フフ、よし! 実に良い答えだ。意地悪なことを言ってすまなかったね。何せ相手が魔王と神だ、最悪のことを考えなければいけないと、つい口を出してしまった」

 「いえ、それも大事なことだとは分かりますので」

 「嗚呼、慈悲深く可愛らしい。やはり君には笑顔が似合うな!」

 「おい、真面目なモードが終わっちまったぞ」

 「ははは、でもその方がマイケルさんらしいや」


 再び無駄に歯を光らせてマイケルさんは笑う。

 それはきっと、目を背けてはいけないことをふざけずに教えてくれたのだ。

 私はまだ子供だ。

 突きつけられる理不尽だったり、受け入れたくない現実から逃げたくもなってしまう。

 だから、この宣言は必要だったんだ。

 私が私である為に。



 「しかし、そうなるとやはりシュウ殿をどうするかだが。真白ちゃん、具体的な交渉材料とかはあるのかい?」

 「あの人は多分、この世界の人の為だって心から伝えれば、少し揺らぐと思います。何と言っても泰平の世を目指すって言った人ですから。後はもう一つ、カロンに有効だと思えるかもしれない材料があるって手札をチラつかせるんです」

 「あのチャラ神様に効くような手があるのか!?」

 「正直自信は無いけど、何も無いよりはマシくらいには」

 「ほう、しかし一体どんな手を」

 「それはまだ秘密で。あの覗き魔、多分私達がここで頭を悩ませてるのも見てるだろうし。最後の最後まで、具体的な中身は内緒でお願いします」


 それは私にしか出来ないとっておき。

 ここで見せてやるもんか。




 「ふーん、面白いじゃん。まさか真白ちゃんにそこまで度胸があったなんてね」


 何度もやられたからか、流石に俺のことを分かってる。

 心を読めないのが今は楽しい。

 そんなことしたら折角のイベントが興醒めだからな。


 「あー、やっぱり可愛いなぁ。力を使えば自由に振る舞えるのに、相変わらずそれは良くないって自制してるし。今だって俺にこの世界の縛りを解かせるってわたわた動いてるし、見てて飽きないわぁ」


 この世界の百年縛りは、はっきり言って俺が面倒くさいからだ。

 世界の管理というのはなんというか、大した労力ではないが細かく様子を見なければならない、そんな感じ。

 庶民的な例えだけど、お風呂にお湯を貯めようとして溢れないようにちょこちょこ様子を見るような。

 世界には給湯システムなんて付いてないから、天災とか一つの勢力が急増とか、手を加えないとバランスが崩れることが結構ある。

 リセットはこれらの煩わしさを解決するいいアイデアだった。

 安定して継続した百年を見付けて、それを繰り返すだけだから管理なんて何もいらない。

 椅子に座って画面を眺めてるだけで仕事が成り立つ好条件だ。


 「こんな最高の条件を、どうやって止めさせる? 真白ちゃん」




 時間が遅いこともあり、私達は宿に帰りしっかりと休んだ。

 どうなるか不安で、あまり眠れなかったのが正直なところだけど。

 そして翌朝、私達は準備して街の外に集まった。

 戦いではなく、話し合いに行く為に。


 「さて諸君、これから私の転移魔法で噂の魔王城まで行く訳だが、心構えは大丈夫かい?」

 「昨日あんだけ話したんだ、今更だろ」

 「私は、あんまり寝れませんでしたけど……」

 「安心してモニカ、私もだから」


 あっけらかんとしている焔さんに比べ、申し訳なさそうにしているモニカに笑いかける。

 自分だけじゃないと分かったからか、少し安心した様に微笑んでくれた。


 「体調は万全、とは言えないかもしれないな。だが、言葉に詰まったら私がフォローするさ。なんて言っても、頭にだけは自信があるからね!」

 「朝から元気ですね。でも、ありがとうございます」


 この底抜けの明るさもありがたい。

 マイケルさんが今回の事にとても冷静に考えを巡らせていたことは十分に理解している。

 無駄に輝く笑顔も、朝から響く大声も、私達の緊張を解す為なんだ。


 「さぁ皆集まって。長々と唱える文言が無いのはいいんだが、一言呪文を唱えればそれで起動してしまうからね。間違って取り残されない様にしてくれ」

 「うっし、腹ァ括れ。戦い以上に、話し合いは度胸がいるぞ」

 「みんな始めに言っておくけど、向こうがきちんと話をしてくれるなら、私は力を使う気は無い。話も聞かずに力尽くだったら考えるけど、ちゃんと向き合ってそれでもダメなら、穏便に終わる様に頑張ろう」


 なんて頼りない言葉だろうか。

 だけど皆、笑って頷いてくれる。

 やってみよう、出来るか分からないけれど。




 「思ったより普通…… かと思ったけどそうでもねえな」

 「あれが普通なのはシュウ殿くらいだろうね」

 「それで、これどうやって行くんですか?」


 マイケルさんの転移魔法は成功し、私達の目の前には以前連れて来られたあの城があった。

 ただ明らかに、周囲を巡回している魔族が増えている。

 私達は近場の岩陰で動けなくなっていた。


 「これ、肝心の魔王さんに会う前に大変なことになりません?」

 「あの時は皆シュウさんの言うこと聞いてたけど、正直『この人が言うならしょうがないか』って感じだったし、目の届かないところだとちょっと怖いかも」

 「私の転移魔法はあまりお勧めできないな。内部についての情報が無いから、最悪取り囲まれたところに飛び出す可能性もある」


 悪い方に悪い方に考えてしまうけど、いつまでもこんなところで固まっている訳にもいかない。

ここは焔さんが言っていた通り、『腹ァ括って』行くしかない。


 「いや、弱気になっちゃ駄目だ。別に襲いに来た訳じゃないし、正面から行こう。それが礼儀としても正解のはず……」

 「ふむ、お客さんなら歓迎するけど、君は黒宮真白さんかな?」

 「……今誰か話した?」

 「ここさ、ここ。僕の体は小さいから、見えにくいのは仕方ないけどね」


 聞き慣れない優しい男性の声。

 そこには、ネズミが一匹いた。

 見た目は何の変哲もない普通のネズミ。

 だけど明らかに普通ではない点がある。

 それは目を点にする私達を前に、流暢に話している点だ。


 「黒宮真白さん、君のことはシュウ殿から聞いている。よければ僕が案内しよう」

 「そ、それはご丁寧にありがとうございます。その、貴方は?」

 「ああ、自己紹介が遅れたね。僕はアルジャーノン、これでも魔貴族を名乗らせてもらっている」


 言葉の響きから強者のオーラしか感じられない。

 普通どころか、とんでもないネズミだったようだ。


 「すげぇ、周りの魔族が並んで引いていくぜ」

 「体は小さいが、それなりの力はあるつもりだからね。真白さん、手に乗せてもらって助かるよ」

 「いえ、それはどうも……」


 ネズミを手に乗せるのはどうかとも思ったけど、普通のネズミではないし歩くスピードを合わせるのが辛そうだから手を貸しておくことにした。


 「あの、ちなみに私のことはどんな風に聞いてるんでしょうか……」

 「とんでもない力を持つけれど、力に飲まれることの無い強い人間だと聞いているよ。シュウ殿もお気に入りの様だったし、もしかしたら来るかもしれないと事前に知らされていたから分かったのさ」

 「……真白ちゃん、水を差して悪いが、相手はかなり強大な様だぞ。まだ城門から入って間もないというのに、魔貴族が他にも数人いる」

 「さっきも言ってましたけど、魔貴族ってなんです?」

 「簡単に言えば、魔族の中でもトップクラスに強大な力を持つ魔族だ。今君が手に乗せている彼も、先程そう名乗っていたね」

 「へ、へぇ……」

 「心配する必要は無いよ。僕達は皆シュウ殿に負けてしまってね、彼の仲間ではあるが実際は配下の様なものだ。彼が命じなければ君達を攻撃することはないよ」


 そう言ってはくれるのだが、やっぱり何十もの魔族に囲まれるのは生きた心地がしない。


 「見てごらん。あそこで腕を組んでいる派手なオーガがアスラ。エイみたいに上を漂っているのがディベリウス。姿は見えないけれど、あの柱の影の中にはブラックがいるね。そして通路の隅でジャグリングしているピエロがジェスター」

 「……揃い踏みか、恐らく今この城は、世界で一番危険な場所だな」

 「君は中々豊富な知識を持っているようだね。人間ながら感心するよ」

 「それは光栄だな。知識だけが取り柄なものでね」


 マイケルさんと手の上のネズミが静かに牽制し合っている気がする。

 案内に従って玉座の間に向かうにつれ、見た顔も現れて安心した。

 いや、知っている顔も見れてよかったと言う意味で危険度はあまり変わらないけど。


 「やあレオニール君。城の近くまでいらっしゃっていたから案内したよ。主はこの先かな?」

 「アルジャーノン殿、それは申し訳ありません。しかし本当に来るとは」

 「ど、どうもお久しぶりです」

 「玉座でシュウ殿がお待ちだ。貴様があの方と何を以て再びまみえるのか、楽しませてもらう」

 「では僕もここで失礼しよう。ありがとう優しい御嬢さん、できれば君を食い殺すことが無ければ幸いだ」


 穏やかなのに殺意で顔を撫でられたみたいな感覚が通り過ぎていった。

 城のかなりの様変わりに驚きっぱなしだったけど、私が言うことは変わらない。

 両手で顔をはたき、気合いを入れる。


 「行こう、みんな」

 「おう、大丈夫だ。真白ちゃん一人じゃねえからさ」

 「来る前も言ったが、フォローは任せたまえ。君の言葉を届ければいい」

 「真白さん、私なんかに何ができるかわかりませんけど、逃げずにここに居ます。真白さんを支えますから」

 「……ありがとう」


 扉を開ける。

 その先に彼は居た。

 あの時と同じ様に。



 「久しぶりたい。連れの増えたごたっけど、何の用じゃ?」


 口を三日月に歪めながら、袴の魔王が出迎えた


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