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死神の指先  作者: nao 11
7/12

それぞれの行先

 「「「真白さん! スミマセンでした!!」」」

 「いや、はは、大丈夫ですから」


 二人の言葉に感動して塔に戻ると、号泣しながら土下座している皆さんが出迎えた。

 あんなに落ち込みながらここを出たのが笑えるくらい、心が温まる。


 「ようし、飯だ!! 腹に食い物入れて今日も頑張ろうか!!」

 「「「ウッス!!」」」


 二人と机を囲み、朝食を頂く。

 不思議と、昨日よりもおいしく感じられた。


 「さて、今後どうするかだな。前に魔王と会った時は、向こうから来てくれたんだろう? なんとかして今度はこっちから会いに行かなきゃならんが」

 「でもあの時は正直ビックリしっぱなしで、周りの景色も何も覚えてないんですよ。移動だってシュウさんのワープだったし」

 「それだよなぁ、そもそも馬車とか徒歩で行ける場所なのか? 魔王城っていうと、空の上とか海の中とか、そういうとんでもない場所にありそうじゃね?」

 「そんな場所だったら真白さんも無事に帰ってきてないですよ」

 「少なくとも、普通に陸地だったけどね」


 なんか空で黒い雲が渦巻いていたりした気がするけど、地面は普通だったし周りが崖だったわけでもない。

 どこかにヒントでもないものか。


 「モニカ、シュウさんっておとぎ話になってたけど、魔王の城がどこか分かるタイプの童話って無いの? ほら、地域によってお話変わったりするじゃない」

 「うーん、どうなんでしょう。ノーラさんも流石に色んな童話を集めてるとかは無いでしょうしねぇ」


 三人でうんうんと唸る。

 本当に瞬間移動みたいなものだったから、通り道が分からないのが痛すぎる。

 しかしモニカの言葉を聞いて、焔さんが声を上げた。


 「あっ、童話とか本がヒントになるかもしれないなら、とりあえず本が多い場所に行けばいいんじゃねえか?」

 「アステルムに図書館なんてあるんですか?」

 「あの街には無いけど、街から北の街道をずっと進むと、王都のグレートアークがある。そこには国を挙げて資料を集めた図書館があるんだ。その図書館なら何かあるかもな」

 「どれくらいの距離なんですかね」

 「馬車で二日くらいだな。行ったこと無いから噂で聞いた程度だが、それでも場所の分からない魔王城へ向かうよりマシだろ? 早速メシ食い終わったら準備だな!」

 「そうですね…… うん? 焔さんも行くんですか?」

 「お? そりゃモチロン」


 自然な流れで同行するつもりだった焔さんを見る。

 目を丸く見開き、『何か問題でも?』と言わんばかりの顔だ。


 「いや、ここの人達大丈夫ですか? あんなことあったばかりですし、焔さん居ないとまとまらないんじゃ」

 「いや逆なんだよ。あいつ等、前から何かと突っかかってきててなぁ。その度に殴ってたんだが、行くとこも無いし追い出すまではしてなかったんだよ。それがまさか悪い結果になると思わなかったんだが、怪我の功名で反感を持ってた奴等はこれでいなくなったんだ」

 「うーん、なんというか大変ですねぇ……」

 「近場のゴブリンはもういないし、輪を乱す奴もいなくなった。今の状態ならここの皆もまとまる筈だ。それに、オレも噂の魔王を止めるつもりだしな」


 サムズアップに眩しい笑顔で答える焔さん。


 「……まぁ焔さんがいれば心強いし、いっか」

 「そうですね。人が多い方が賑やかですし」

 「よっしゃ!! それじゃ、今後とも宜しくな!」


 こうして、私とモニカに加えて心強い仲間が増えたのだった。





 満月。

 魔族の力が最も強まるその時に、我々は魔貴族の一角、アスラと対峙していた。

 お互いに配下の軍を従えてはいるが、双方共に大将の姿しか見据えていない。


 「あれがアスラか、なんとも荒々しい姿よ。まるで地獄の鬼ばい」

 「オニ、ですか?」

 「俺らの世界の魔族みたいなもんじゃ。角があって筋骨隆々、いっつも怒った顔ばしとる」

 「成程、それは納得です」


 魔貴族。

 それは数ある魔族の中でも特に力を持った者が、己を既存の魔族とは異なる上位の存在であると公言し、その力を世界に認められた称号。

 我らの様な木っ端の魔族とは根本の力が違う、上に立つ者の証。

 その一角を、この方は落とそうと言うのだ。


 「しかし、これを着込むのも久しぶりたい。カビとらんで良かったわ」

 「貴方の為に皆で作った鎧です。手入れも欠かしておりませんよ」

 「本当に助かるばい。俺は出来た仲間に恵まれて果報者じゃ」


 我々は皆、この方に負け、命を拾われた。

 魔族にとって敗北は死、力こそ全てを捻じ伏せ、自分を確立する手段だ。

 だがこの方は、喰い潰し合うだけの我々に新たな生き方を示して下さった。

 だから我らは、この方の道を作る。

 兵は兵と、強者は強者と戦えるように。


 「おおう! ぬしが大将じゃろう!? 俺と勝負せえ!!」

 「思い上がるな人間崩れが!! 貴様程度の半端者が、我に挑むなど不遜の極み。その首を詫びに置いて行け!!」

 「無礼も不遜も上等。今すぐ行くからよう、構えんと死ぬぞ!!!」


 閃光。

 地を蹴り飛び出したその姿は、凄まじい衝撃と風圧を巻き込みながら敵軍の中心に飛び込んで行く。

 先頭のオーガを踏み台に、一息にアスラまで距離を詰める。


 「よう、構えは出来とるか?」

 「ぬかせ!!」


 拳と剣がぶつかったとは思えない衝撃波が爆発の様に広がった。

 我々も臆していく場合ではない。


 「シュウ殿に続け! 勝負の邪魔をさせるな!!」


 たとえ木っ端の存在でも、同等の奴らの足止めは可能だ。

 上空と地上、二つの戦が始まった。




 刃を受け止めているのは拳だというのに、まるで鉄の塊を打ちつけている様な手応え。

 両手を使って振り下ろしても尚、武具らしい武具のない素肌に傷も付けられん。


 「ちぇぇええええい!!」

 「浅い! 浅いな半端の魔王よ!! 如何に人を超えて魔族に成り果てたとて、所詮初めから手を伸ばせる領域は決まっておったのだ。ここで滅ぶは必定よ!!」

 「はっ、一度で足りんなら、幾度でも斬るだけじゃああああああ!!」


 俺が生きていたあの時代には考えられん戦じゃ。

 燕よりも速く、虎よりも強く、ぶつかり合う勢いで爆ぜる様に風が舞う。

 これは殺す為の戦に非ず。

 しかしどうしても、強い奴との一騎打ちは心躍るものよ!


 「練気掌!!!」

 「ぬうううん! ふっ、とても拳一つとは思えんばい。惚れ惚れする強さじゃあ」

 「よく喰らい付いている。力は及ばずとも、その気合いは見上げたものよ。ここで頭を垂れ願うなら、我が配下として加えてもよい」

 「そいつは嬉しかばってん、俺にはやることがある。その為にぬしの力が必要でな、出来るなら死なせず仲間にしたかったばってん……」

 「ほう」

 「手を抜いて勝てるほど、甘い訳無かよなぁああ!!!」


 この世界に来てようやく覚えた、まともに使える唯一の魔法。

 間違いなく切り札、ばってん出し惜しみなんて出来ん。

 ぶつけてみたい、俺の全力を。



 あの人間崩れの魔力が跳ね上がる。

 ビリビリと肌に直接響くほどに。

 あの半端者、我ら魔貴族の足元にも及ばぬ下等な存在で、今我の前に笑って立っておる。

 久しく無かった“敵”の感覚。

 力の大小など関係無い、明確な意志と覚悟を持ってこの我に立ち向かう者。


 「……名前を聞こう、元人間」

 「俺はシュウ。この世界を進める者じゃ」

 「大きく出たものよ。だが、その意気や良し!!」


 恐らくは奴の全力、ならば我も本気を出そう。

 嗚呼、このぶつかり合う戦意と気合い、なんと心地よいものか。


 「これより迎え撃つは『鬼神烈火掌』。間違いなく我の全力よ、恐れぬならば掛かって来い!!」

 「当然じゃあ!! 鬼に会うては鬼を斬り、神に会うては神を斬る。俺が目指すはその修羅よ!!!」



 上段に刀を構え、念じる。

 天から全てが流れ込む意識を持て。


 ≪えんちゃんと 建御雷タケミカヅチ


 宿り給え、そして疾れ、雷よ。


 「キィィエエエエエエエエエイイイッッ!!!!」

 「消し炭になれいいいッ!!」



 正しく電光石火。

 斬られた、この魔拳ごと。

 矮小な人であった者が届いた、この我に。


 「まさか、我がこれほどの傷を負うとは…… 何より、我が奥義を斬るとは。見事なり」「はぁ、はぁ、なぁに、これが俺の出来る全力ばい。ケロッと口を利けるぬしが言うな」


 肩で息をしながら眼前の男が笑う。

 足は震え、顔も苦しさを噛み潰した様な笑いが張り付いていたが、手に持った剣は構えたままだった。


 「……皆の者よ!! 勝負は我の敗北で決した。矛を収めよ」

 「なんじゃあ!? まだ一太刀浴びせただけばい!」

 「いや、我の敗北である」


 それは錯覚だろう。

 だが確かに我は見てしまった。

 こやつが剣を振り下ろす瞬間に、その姿に背負った月が、両断される光景を。

 そんなものを見てしまえば感じてしまう。

 己が斬り伏せられる未来を。


 「なぁんか納得いかんのう」

 「何を言おうと我の敗北だ。それで、貴公は我の首と魔貴族の座が目的か」

 「それは違う。俺はなぁ、ぬしに仲間になって欲しかったい」

 「……ほう、仲間と」

 「俺はまだまだ強くならんといかん。その為には、俺が知らん強さを取り入れんといかん」

 「己の糧、という訳か」

 「おうよ。それに、魔族には人間と食い合わなくても生きていける様になってもらわんば困る。それにはぬしみたいな強い奴等の賛同が必要なんじゃ」

 「何故魔族の生き方を変えようとする。既に貴公は人間では無いぞ」

 「それはそうじゃ。ばってん、俺が目指すのは泰平の世じゃ。襲われる人間も、襲わなければ生きていけない魔族も、楽に生きられる様にしたかったい」


 その目に曇りは無く、こやつは本気で言っていると見える。

 食い合い、いがみ合うのが常の種族を変えようと言うのだ。

 なんという大言壮語。

 だが、不思議と今は見てみたくなった。


 「残りの魔貴族は3人。ぬしにも協力してもらうぞ!」

 「フッ、敗北者は何も言えぬ。その夢物語、付き合おう」


 この魔王がもたらす泰平とやらを。





 「着いた着いたぜグレートアーク! たった二日、されど二日だったなぁ。体がバキバキだぜ」

 「ほ、本当に体痛い。主にお尻が」

 「そういうこと言うの、はしたないですよ。真白さん……」


 馬車に揺られて二日間、私達一行は王都グレートアークに到着した。

 現代の車とか新幹線って最高の乗り物だったんだなぁ。


 「さあて図書館っとその前に、まずは宿と観光だな!」

 「えっ、焔さん?」

 「この街はオレも来たことないし、まずは街の事を知らないとな。それに、楽しいことが無いとモチベーションが下がるってもんだ」

 「……そうですね」

 「いいんですか真白さん。その、時間とか……」

 「こういう先が見えない時って、きちんと休憩を取れるかで効率が変わるものよ。人間って結構その時の気分で変わるものだし」

 「ようし! 真白ちゃんのお許しも出たし、軽くメシでも食うか!!」


 それにしてもデカい。

 門だけでもアステルムの倍はありそうだ。


 「御嬢さん方、観光ですかい?」

 「一番の目的は図書館だけどな。あ、運ちゃんどっか美味いメシ屋知らない? 喫茶店でもいいけど」

 「それなら門から真っ直ぐ行った広場に良い店があるよ。アララトって名前だ」

 「おっちゃんありがと!」


 どこに行けばいいかと考えたところで、焔さんが馬車の運転手から丁度いい情報を聞きだしてくれた。

 会った時から思ってたけど、焔さんってコミュ力お化けだな。


 「うし、店の目星も付いたし行くか!」

 「焔さんって、凄いですよね」

 「うん? 何が?」


 店に入るとなかなかの賑わいだ。

 お茶とサンドイッチをつまみながら休憩していると、周りから一つの会話が耳に留まる。


 (荷物運び疲れたー。次なんだっけ)

 (図書館で調べものでしょ。ちゃんと許可証持ってる?)

 (あーそうだった、持ってる持ってる)

 (それが無いと入れないんだから無くさないでよ)


 「聞いた?」

 「うん。許可証がいるのかぁ、面倒だなぁ」

 「でも無理矢理入るなんて出来ませんし、きちんと発行してもらいましょう」

 「モニカの言うとおりそれがいいわね。一度図書館に行って話を聞きましょうか」


 歩くことしばらく、整った道だから特に苦労せず辿り着けた。

 それは前の世界で見た図書館の数倍、まるで城の様な建物。


 (観光地でもこんなの見たことないなぁ。テレビで見た海外の美術館より大きい)


 流石は国を挙げて建てられた図書館だ、入り口も装飾がされてやたら豪華な雰囲気が漂っている。


 「すいません。図書館を利用したいんですけど」

 「ええと、許可証はお持ちですか?」

 「いえそれが、この街に来たばかりで仕組みが分からなくて、よろしければ教えて頂けませんか?」


 受付の人曰く、国を挙げて集めた資料なので利用するには『使用許可証』が必要で、その申請は王城で受け付けているとのこと。

 しかし、


 「発行までに一ヶ月!? 流石に掛かり過ぎじゃないです?」

 「いやー、身分の確認とかその保障とか、それに申請の数が多くて大変なんですよ」


 (お役所仕事……!!)


 私達は一度外に出た。

 このままでは情報を集め始めるまでにシュウさんが行動を起こしてしまう。


 「どうしよっか。オレは流石に書類のどうこうっていうのはさっぱりだ」

 「偽造…… いやそんなこと出来るわけないし、きちんと申請するのが一番だけど、一ヶ月かぁ」

 「いくらなんでも待てませんよねぇ……」


 いよいよ方策が煮詰まった時、私達は突然声を掛けられた。

 ずいぶんとご機嫌な調子で。


 「お嬢様方、見たところ図書館を利用できなくてお困りかな? もしよければ、私に付き合って入ってみない?」

 「……真白ちゃん、ナンパだよこれ。あっち行こう」

 「真白さん、怪しいのであっち行きましょう」

 「待った待った! 怪しさなんて微塵も無いぞ。それに、私と一緒に行けば君達にメリットもある」

 「メリットってなんです?」



 「私も君達と同じく一度死んでこの世界に来た、と言ったらどうだい?」

 「……! それって!!」

 「名を名乗ろう、私はマイケル・リーガン。君達と同じ立場にして、この街の図書館、その司書でもある」


 そう言い放った彼は、整った姿に様々なアクセサリーを纏った大柄の男。

 そして、少しキザで底抜けに明るい、同じ世界の外国人だった。


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