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捏造の王国

捏造の王国 その39 トラベルキャンペーンはトラブルキャンペーン?パンデミックに豪雨災害、こんな時期に旅行行けなんて言うんじゃねえよ!

作者: 天城冴

パンデミックに豪雨が猛威を振るう中で景気回復の名目でうったニホン国のトラベルキャンペーン。その事前調査を兼ねタニタニダ副長官は山奥の老舗旅館に向かっていた…

風情ある梅雨を通り越して、阿鼻叫喚の豪雨に見舞われたニホン国。だが、そんな災害がてんこもりの状況をまるで無視して、ニホン政府は旅行料金半額国が持ちますというトラベルキャンペーンを実施しようとしていた、そして

「ああ、その前に調査をかねて旅行してね。ってまあ、普通の旅行ならいいんだが」

ため息をつくタニタニダ副長官。着替えや身の回りの物をつめたバックパックを背負い、山道をひたすら上っている。

「どっかの長官のように不倫相手もとい、お気に入りの美人部下をつれて旅行ならまだしも、家族ってなあ。今更だよな」

いや、そこは本来家族でしょ、と主張する人類の大半とは、真逆なことをのたまうタニタニダ副長官、さすがすべて逆張りニホン政府、アホだからこそアベノ総理を選ぶ与党ジコウ党のトップクラスにふさわしい男。アベノ総理が危ないとみてアトウダ副総理にもすりより、直属の上司であるガース長官のご機嫌もとろうと動き回ったのが裏目に出た。


「ったく、首都の感染者が数百でさすがのオオイケ知事も青くなって、都民は首都から出るなと言い出し、地方の首長もくるなっていうのに。政府主導のトラベルキャンペーンを強硬って。結局首都は外され、旅行キャンセル分は国が補償まで出てきて、右往左往の挙句の大失敗とまで言われてるのに。まあ官邸のメンツもあるんだろうけど」

メンツだけでなく旅行業界に媚び売るつもり、ではあるだろうが

「肝心の旅行業界だって、ウイルスのせいで従業員が集まりにくい。まあ安くつかってたうえ、休業補償もロクにできない。おまけにウイルス感染リスクありじゃあな、家族に反対されたパートさんってもいるだろうし。しかし、パートがいなくて、部屋の掃除も女将だけでするから迎えの車はだせないって、どれだけ経費を切り詰めてんだろう、大きな老舗の旅館だって聞いたけど」

はあ、はあ、と息をきらしながら、野草だらけの山道を登るタニタニダ副長官。

「ほ、ほんとに、この奥に高級宿があるのか、近道と言ってたけど。やっぱりカネコと一緒にタクシーを待つべきだったか」

妻を駅前において、観光案内所に置いてあった、古い地図を信用したことを後悔するタニタニダ副長官。家族をおいて一人で先に行ったバチだーという声がどこから聞こえてきそうだが

「あー、まったく新型肺炎ウイルス対策とかいって、案内所も駅も無人って、建物は立派なのになあ。まあトイレとか、待合所はキレイだったからカネコもこんな山奥よりはいいだろう。そのうちタクシーも来るだろうしな。ウイルスのおかげで運転手が不足して

三時間待ちってのはきついけど。カネコは普通のパンプスだったから、坂道なんて歩けないだろうし…」

言い訳じみた独り言をつぶやきながら、ひたすら上るタニタニダ副長官。あまりの苦しさにマスクもずらした彼の前が急に開けた。

「や、やった、ついた。これが老舗のコウヤメイブツ旅館か」

目の前にあらわれた古びているが立派な日本家屋、の裏側。その周りには手入れされた庭…のはず

「なんだか、荒れてないか?コケが多すぎるし、カエデとかのまわりに草が生えてるし…」

どうも庭の手入れが行き届いていないようだ。タニタニダ副長官は玄関に回り、引き戸を開けた。

「ごめんくださーい、予約してたタニタニダですがー」

「ひゃあ!」

とちいさな悲鳴。

そこには着物の裾をまくって雑巾がけをしていた20代後半の女性が

「あ、あの、いらっしゃいませ、コウヤメイブツ旅館はようこそ」

ぎこちない笑顔を作って立ち上がった女性。

「す。すみません、わ、わたくし、若女将のコビエと申します。いま、その人手が足りませんで」

「は、はあ」

と曖昧な返事をしながらタニタニダはマスクをして会釈した。

「す、すぐお部屋にご案内します」

と、コビエに促されて靴を脱いで、廊下にあがって中に入る。

コビエについて進んでいくと、廊下の派手ではないが繊細なつくりの装飾が目に入った。どれもうっすらと埃がかぶり、花瓶に活けられた花はしおれていた。

「さあ、どうぞ」

と、通された部屋は広くて、掃除は行き届いていた。

「あ、い、いいお部屋ですねえ、ははは」

タニタニダ副長官は笑いながら窓を開けると、

「う…」

と、黙り込んだ。そこにはすさんだ日本庭園が

「も、申し訳ありません」

コビエが部屋にはいるなり三つ指ついて謝った。

「新型肺炎ウイルスで、お義母様が入院されてえ、治ったのにまだ退院できないんですう。お、お客さんも来なくて、ずっと休業してて、お給料も払えなくて、休業補償の手続きとかあ、できなかったんですう、ずっと雇用保険とか加入してなくて」

突然の告白にタニタニダは部屋の中で突っ立ったままだが、頭の中はめまぐるしく動いていた。

(うわ、高級旅館なのに、社会保険もロクに加入してなかったのか。まあそういう中小零細企業いっぱいあるって聞いてたけど)

「それで、従業員さんもやめちゃって。新しく雇おうとしても、そのう、お年寄りのいる家庭の人とか、その中年の人ばかりで首都圏の人がたくさん来る旅館なんて、ウイルスが怖いって、そのう」

(そうだよなあ。田舎はウイルスに罹患したことがわかったら村八分。首都圏の人は帰省するにできないって、5月の時点でそんなニュースが。議員も帰れないって)

「それで、そのう、お金もなくって、夫も板前やってたんですけど、その、都会に出稼ぎに行かなきゃならなくなりましてえ。今は荷物の配達とかで」

(うわ、板前もいないのか、今夜はいったい、ど、どうなるんだ。カネコが怒るかも)

「そ、そうだ、温泉、温泉がありましたね。ほ、蛍の川とか」

震える声で最後の望みを口にするタニタニダ副長官。

「そ、それが、先日の豪雨で、濁って。ほ、蛍の夕べも今年は中止なんですう。温泉は、ま、前から配水管とかちょっと壊れたんですけどお。ああ、やっぱり町長さんからのお頼みとはいえ、お断りすればよかったんだわあ」

コビエの言葉にひょええ、と言葉にしてしまうタニタニダ副長官。

「わあー、温泉もないなんて、どうすりゃいいんだ、なんなんだ、なんでこんなことにい」

タニタニダ副長官の叫びに、コビエはいきなり横になり

「申し訳ございません!こうなったら私をお召し上がりください!こんどの経産省の大臣ニチムラ様は女体盛りがお好きとかあ!」

といいながら帯を解き始めた。

「え、ええ、えええ!」

と驚き戸惑うタニタニダ副長官。一瞬よろめきそうになるが

「あなた!なにやってんのよ!」

と、ようやくたどり着いた妻カネコの金切り声。

「ぎょえええ」

「きゃああ」

「なにしてんのよー」


「と、散々な旅行でした」

とカネコにひっぱたかれて腫れた顔を湿布だらけにしながらタニタニダ副長官はガース長官に告げた。

「つまり、今旅行に行くのは得策でないということか」

「まあ、そうです。特に首都圏からの旅行者は特に忌避されているようで。受け入れようとしても旅館業以外からは難色を示されて、従業員も集まらないようです。何より祭りなどの観光名物は中止で見るところもロクにありません。この間の豪雨で温泉が濁った場所もありますから」

「そうだな、第一地方によっては、避難を余儀なくされているところもあるしな」

ガース長官は不機嫌そうに言った。

「そ、そのう、長官、今日はこれで失礼してよろしいでしょうか。先日の旅行で疲れて、その、妻の機嫌があ」

とそわそわしているタニタニダ副長官。

「わかった、お疲れ様。また明日」

と不愛想に手をふるガース長官。タニタニダ副長官が部屋をでると、ガース長官は大きなため息をついた。

「はあ、トラベルキャンペーンの是非を占おうと、三副長官にお試しで旅行に行かせたら、結果がこれか。ニシニシムラ副長官は帰省しようと実家近くのホテルをとったものの、ウイルスが怖い親族の要請で缶詰め状態。シモシモダ副長官は友人のハーブ畑を手伝いに近くのペンションを予約したが、ペンションでなく友人宅に軟禁状態。宿から一歩も出られんとは、すでに旅行の意味がない」

冷ました麦茶をすすりながら嘆くガース長官。

「くう、旅行業界からのつきあげがあったから、このキャンペーンをひねりだしたんだ。便通他の広告費中抜きもできるし。息も絶え絶えの業界再生を狙ったつもりが、現場はかえって迷惑ということか。まあオオイケ都知事が首都の感染を抑えられていないせいでもあるが」

ウイルス対策の専門家会議を事実上つぶしたり、なぜか女体盛り好きのニチムラ大臣が迷言で国民を右往左往させたことを棚に上げ、再選されたオオイケ都知事だけにウイルス感染拡大の責任をなすりつけるガース長官。

「ああ、しかし我々官邸側が推進したトラベルキャンペーンがやる前から大不評だ、このままではトラブルキャンペーンになってしまう。被災した豪雨被害者や倒産寸前の旅館業者に直接配れと言い出すし」

野党、リベラルのもっともな意見を無視しキャンペーンを強行するため、三副長官にお試し旅行をさせたものの、ものの見事の期待外れ。

「ああ、調査結果は散々だったか。し、しかし、副長官たちの行き先が悪かったのだ、他のところは。いや、私も帰省は止められているし、他の議員も、うーんキャンペーンは」

頭を抱えるガース長官。麦茶をがぶ飲みするが

「くう、ぬるい、やはり氷をいれるべきだったか」

麦茶を最初から半分凍らせておくという簡単なアイデアも思い浮かばないほど疲れ切ったガース長官であった。


どこぞの国では国民の大半が止めてーといおうとも、ウイルス感染拡大を助長したと訴えられる恐れがあろうとも、旅行キャンペーンを強行するようです。どこの事業者が対象となるのか、登録ってどうするのか大混乱ですが、果たしてどういう結果になるんでしょうねえ。また壮大な税金の無駄遣いになるのではと心配しております。

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