短篇集「長編にするかどうかとりあえず短編として投稿してから考えてみるシリーズ」
懲役一万年の脱獄囚─β版─
なんかいつの間にか第5弾がきちゃいましたこのシリーズ。
これにてこのシリーズの更新はすべて終了ですが、まずお詫びを申し上げます。
この「懲役一万年の脱獄囚」はこのままだと、あまりにも文字数が多いためか読みに来る人がいない四作目を余裕で超えてしまうため、分割します。ただし、短編の連作だと私が見辛いため後日頑張って書き直して「欲の鏡」と同じ形式で投稿します。
そのため、今回の話は一話だけを短編として投稿します。御了承ください。
——別にまだ書き終わっていないわけではありませんよ。
ミラは牢屋の中でこれまでの人生を思い返していた。
彼女は王都から遠く離れた辺境にあるが、比較的平和な村に暮らしていた。
たまに翼を生やした大きな蜥蜴と出くわすこともあったが、それなりに平和で明るい人生を過ごしてきたと思う。
そんなある日、祖父がぎっくり腰になったことで自分もお金を稼がなくちゃと思い立って、彼女は冒険者ギルドの門をたたいた。
そしたら、見た目はいかつくて怖い人がいっぱいいて少し怖かったが、それなりにやさしい先輩方で蜥蜴をぶちのめすくらいの力はあった彼女もそれなりに仕事ができるようになった。
彼女が翼が生えた少し大きめな蜥蜴を鍬で退治していたときに彼女を見る先輩たちの怯えているような目が少し気になったが、これくらい当然のことだと思っていた彼女は大して気に留めなかった。
そして、二日や三日寝たままなら分からないが、今日も先輩方と仲良くゴブリン退治をしていたと思う。それなのに、どうして私は捕まっているのだろうか?
ゴブリンを退治するのは犯罪どころか村の人ににこやかな笑みで頭をなでてもらえるくらい良いことだし、蜥蜴を倒すと偉い人にほめたたえられてお金をもらえる。
——そう。自分は悪いことをしていない。
——なのに、どうして私は捕まっているのだろう?
——ひょっとして、酒場のミルクをツケにしちゃっていること? それは、酒場のご飯が美味しいからであって、払おうと思えば払えるけどついつい食べすぎて、泣く泣くツケにしていただけ。それに、おじいさんから「お前は女の子だからせめていい宿に泊まりなさい!」と言われた通りに上等な宿に泊まっていたのに。これはしょうがないことじゃない!
なお、普通の宿にすれば余裕で払える額なのだが、彼女の思う良い宿は文字通りお金のかかる宿のことなのだ。まぁ、おじいさんも借金までして良い宿に泊まりなさいと言ったわけではないと思うのだが、彼女がこれまで安全に生きて来れたのだからいいことなのだろう。
ただし、今の現状はまったくいいことではない。
彼女はなぜか捕まっているのだ。
そう。気づいたら、彼女は牢屋の中に居たのだ。
——どうして、ここに居るのだろう? ツケはまだそんなに貯めていないし、どこかに迷惑をかけた覚えはない。宿の備品は少しばかり壊したかもしれないけど、それもすぐに弁償したし問題ない。それなら、どう「ねぇねぇねぇねぇ。君ってさぁ、ひょっとしていいとこのお嬢さんかな?「ギャー!」」
彼女が振り向くとそこには紫色の髪で背が低く、隈の深くて舌の長い男が立っていた。暗い牢屋の中で彼を見ると、どう考えても化け物の類にしか見えなかった。
怯える彼女に男は溜息をついた。
「人を垢舐めを見たような顔しないでくれないかな?」
「アカナメって何ですか?」
「あれ? 君ってそんなことも知らないの?」
「私が生まれた村の近くにある大きな龍の巣についての言い伝えなら知っていますが、アカナメは知りません!」
彼女がきっぱりとそう言うと、男はげんなりとした。
「世間知らずってことか。ならいいよ。なんか東の方ではボクみたいな人は垢嘗めって呼ばれるたしいんだよ。別にボクは人の体を舐め回すような変態じゃないのにねぇ。——ねぇ、そこで端の方に行くのはやめてほしいなぁ」
「——だって、人の体を舐めたがる変態なんでしょ?」
「だから違うって言ってんだろうがぁ、このアマ!」
「そんなことよりも、どうして私はここに居るんですか?」
「ボクの顔を見てぇ、垢舐め呼ばわりすることの方が重大さぁ!」
「——だって、あなたは私の体を舐めたいほどの変態じゃないんでしょ?」
男は彼女にそう言われ、彼女の体を見回した。
短く不格好に切った髪だが、少し日に焼けているがニキビやあばた一つない均整の取れた美しい顔に、胸も尻も出るところは出ているという男なら、だれしも見惚れてしまうようなプロポーション。
彼は赤面して、咄嗟に彼女から視線をそらした。
「——ま、まぁそうだけどねぇ」
「ちょっとどこ見ているんですか?」
彼女は自分の体を男の視線から守るかのように抱きしめ、男をじーっと睨みつけた。
「見てないから! 見てないから!」
男は焦りながら、こう答えた。
「そんなことよりも、どうして私を捕まえたのか早く話してくれませんかね?」
男は彼女が急に話を変えたことに一瞬、面食らったが、すぐに正気を取り戻して憤慨した。
「さっき、聞いたでしょうが! 君が高貴な生まれかって!」
「まぁ、そうですね。わたし、言っておきますが、王都から真反対の田舎村の生まれですよ」
「——なら、違うか」
男はそう言って、牢屋から離れようとした。
「ちょっとどこに行くんですか! いい加減、早く教えてくださいよ!」
「商談相手の情報はいちいち語らないんだよねぇ。だって、ボク、信頼第一の人攫いだからねぇ」
「人攫いに信頼もクソもありますか?」
「あるよ! どうして、君はそんなことを言うんだ!」
「だって、人攫いって悪いことじゃないですか! そんなことしている人が信頼なんて語れますか?」
男はしばらく思いをめぐらした。そして、こう反論した。
「ボクはこの仕事でようやく食っていけるんだよぉ。君なら、分かるだろぉ? 辺境に暮らす魔法紋持ちがどんなに苦しい生活を送っているかぁ? ボクたちは騎士に登用されなかったら、冒険者かこういう商売に手を染めるしかないんだよ」
「いえまったく。——って、ちょっとなんで私が魔法紋を持っていることを知っているんですか? ひょっとして、見たんですか? 見たんですよね?」
彼女は咄嗟にお腹の方を隠して、赤面しながら怒った。
「そんなわけないでしょ! ボクには女性の部下がいて、彼女に見てもらったんだ」
彼は赤面して、彼女から視線を逸らした。
——この人ってなんかいい人みたいな感じがする。本当に悪い人なの?
彼女は少し彼に対する評価を変えてしまったが、すぐに自分を捕まえた張本人であることを思い出して、こう尋ねた。
「そういえば、どうして私を捕まえられたんですか? 腕っぷしは自慢があるんですが?」
「ボクは付加魔法が得意でねぇ。一応、魔法使いの魔法紋があるのさ。だから、君を捕まえられたってわけ」
「そうですか。なら、これもかなり頑丈な付与が掛かっているわけですか」
彼女はそう言って、金属製の手枷を強く握りしめた。すると、飴細工のようにあっさりと手枷が割れてしまった。
「「……」」
彼女はにこやかな笑みを浮かべて、牢屋の檻に手をかけ、それを捻じ曲げようとした。
男は慌てて、「こら、開けようとするんじゃない!」と言いながら、付与魔法をかけ始めた。
「だって、この手枷が簡単に壊れたってことは多分、この檻も弱いってことですよね」
「だからって、開けようとしていいもんじゃないよ! ——あぁ、ハードネス。ハードネス」
「もっと強くかけられないんですか? もう開けられますよ」
彼女が焦る男を煽っていると、牢屋の前の壁が壊れた。
すると、そこには黒髪で隈のある背の低い少年が立っていた。
「——外れか」
そう言って、彼は立ち去ろうとした。
「外れじゃないですよ! ほら、この背の低くて気持ち悪いおじさんがか弱い美少女を檻に閉じ込めてあんなことやこんなことをしようって思っているんですよ!」
「ボ、ボ、ボクがそんなことするわけないでしょうが! ボクは信頼第一の人攫いですよ!」
「——どっからどう見ても檻で暴れる獣を閉じ込めようとしている弱い魔法使いにしか見えないな」
「「そんなわけないでしょ!」」
少年の失礼な一言に彼らは反論した。
「——だが、そこにいる魔法使いがここのトップってことはたしかなんだよな」
「え、えぇ、そうですともぉ。それがどうかしたんですかぁ?」
男は付与魔法を止めて、少年の方に近づいた。
「なら、一つ聞く。黒い両手の魔法紋をつけたやつは知らないか?」
「そ、そんな魔法紋を持っている人なんて知りませんよ! そこのお嬢ちゃんが左脇腹に金色の大猫の魔法紋をつけていたのは知っていますが」
「ねぇ! 本当に私の体を見ていないでしょうね!」
「だから、見ていませんってば!」
じーっと男を見つめる彼女に男は猛反論した。
少年は少し溜息をついてから、男に尋ねた。
「へぇ……。——で、アンタはこいつを捕まえて何をしようってしたわけ?」
「彼女を捕まえたら、偉い騎士様がお金をやるって言われたんですよ! ——で、あなたは腰につけていた短剣を持って何をしようとしているんですか?」
「こういうときって女を助けるのが男ってもんじゃないの?」
「ギャー!」
少年が短剣を一振りすると、男は牢屋の檻ごと体を真っ二つに斬られた。
「ほい。開いたぞ。さっさと出ろ」
少年は男を斬ったにも関わらず、飄々とした態度で手を差し伸べた。
ミラは彼の手を掴んで、「ありがとう」と言ってから、「ところで、あなたは?」と尋ねた。
「——ウェリック。しがないギルドの一員。言っとくが、お前より年上だからな!」
ミラは笑いながら、少年の肩を叩いてこう言った。
「その背で私より年上って無理がありますよ。私は16ですけど、あなたは?」
少年は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、小さな声で呟いた。
「——26だよ」
「え? この身長でですか?」
「ほんと、ガキだから見る目がないな。てめぇも一応、どっかのギルドの一員なんだろ?」
「えぇ、そうですとも。私は有望株って言われていますよ」
「それで力量差が理解できないのか? ——あぁ、こんな雑魚魔法使いに捕まるんだから無理もないか」
「そ、それは、私は武闘派なので、付与魔法とかそういう姑息な攻撃は効いてしまうんですよ」
ミラは人差し指を合わせてもじもじさせながら、そう答えた。
「——姑息って、そんなの避ければいいだろ?」
「それが出来たら苦労しませんよ!」
「はぁ……。こんなもの避けられなくて、有望株なんてそのギルドってたかが知れてるな。とにかく俺は帰る。じゃあな!」
「どうしてですか! 普通はわたしをそのまま町に帰してくれるものでしょ!」
「——そんなの俺に頼むなよ。俺は仕事のついでにここに来たんだよ」
「仕事って、魔法紋を持つ人を探す仕事ですか? ギルドにはそんな仕事もあるんですか?」
「あるんだよ。身辺調査とかあるだろ? そういうもんだよ。——とにかくついてくんな」
「嫌ですよ。どうせこういうところは森の奥深くにあってどこなのかさっぱり分からない場所なんでしょ」
「外が分かんないところに居たのに、よく分かったな。武闘派のくせに」
「勘ですよ! 勘! それに、武闘派を脳筋だと判断するのはひどくないですか!」
「——勘に頼る時点で脳筋だと思うがな。けれど、お前ってギルドの有望株なんだろ?」
「それとこれは違います! とにかく私を町まで連れて行ってください!」
「じゃあ、金」
ウェリックの申し出に彼女はこう答えた。
「——出世払いでいいですか? 送ってくれないとこの人に襲われましたって門番の人に言いつけますよ」
「——てめぇ、たち悪いな」
「こういうときって女の武器を使うべきでしょ?」
「——女の武器っていうのはそういうことじゃないと思うんだけどな……。まぁ、いい。ついてこい。言っとくが、女だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇ。俺はいつも通りに走るぞ?」
そう言って、ウェリックは走り出した。ミラは彼がいきなり走り出したことに面食らったが、彼を追いかけて森の方へ走り出した。
かれこれ五回続けてみて、自分のアイディアをただただ発散しているだけの気がして投稿するのも嫌になってきたんですけど、まぁ、自分が面白いと思えるような話さえ書ければ、それでいいのでもういいかぁと思って書いていきます。いや、書きました。書き切りました。やり切ったぞー!
最初の二作はバレンタインよりも前のある一日でふとした衝動でこのシリーズを思いついた勢いで書きましたが、短編を書くのがこれほど辛いなんて思いませんでした。二度とやりたくないと思ってしまいました。——まぁ、やる方が悪いんですけど。
そういえば、明日から「オーク(以下略)」の二章が始まります。興味がある人はそちらの方もよろしくお願いします。ただし、0時から始まるので時間にはご注意ください。