愚の骨頂
表現者であることをやめられずに月日ばかりが経つ。70億の中の1つに過ぎないのに、自分だけはという気持ちが棄てきれずにいた。絵で魅せることも、音で虜にすることもできない。ましてや万人が扱える言葉で人を支配することなど私には到底なし得ないことだった。元来、芸術家は魅せるために絵を描いただろうか。音楽家は虜にするために音を紡いだろうか。実際のところはわからないが、凡人が想像するにそうではないだろう。きっとそれらは高尚なもので、大衆は依るべくしてそれらに集まり食い散らかしたろう。根本が違うのだ。承認を求めて泣き叫ぶ子どものように、ままごとのような言葉遊びで自分を満たす私とは。評価されることを怖れ、それでいて誰かには気づいてほしくて。クルミのような小さな殻には、今もなお膨らみ続ける醜いプライドがぎっしりとつまっていた。カラスの策略でいとも簡単に割れるその殻には、きっと割ることにさいた労力には到底見合わない無味な種子が詰まっている。
幾月を無駄にしようとも、戻ってきてしまうのはなぜなのか。この時間でいったいどれだけのことができたか。考える脳も若さを失い、肌が歳を物語るようになってきた。時間はない。焦る気持ちとは裏腹に、時を知らせる針が無情に動き続けていた。肉が剥がれ、今まで自分を支えていた骨格が姿を見せた頃に気づいた。私だけではなかった。求めて、叶わず、すがりつき、無惨な白装束を曝したのは。言葉の由来はどうだったか。それでもせめて頂に。月にも届くほど積まれたその山に、もう二度と紡ぐことが無いようにと、私は橈骨を捧げた。