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天使に修羅場は必要だろうか  作者: 凪鏡也
第1章 修羅と告白のルシフェル
9/47

第9節 天使の愛

10/24 加筆修正と題名を付けました。

5/1 加筆修正しました。

「久しぶりだな。ガブリエル………」


 扉の陰から出てきたのは、学園の黒いブレザーの制服を着た学園に、世界に知らぬ人は居ない超有名人物。

 世界を股にかける大女優、ガブリエル=セフィム。


 アリスが神話に出てくる美の女神ならば、ガブリエル=セフィムは自分の名に恥じることのない美の大天使だろう。


 写真見るのと、実際に本人を見るのとではやはりガブリエの美しさは大きく違う。

 緩いウェーブのかかった眩しい程のプラチナブロンドの髪。そして一番目を引く、制服の上から激しく自己主張している小玉スイカほどある胸だ。アリスや灰塚先生、今まで会ったことのある女性の中でもトップクラス。

 現に制服が窮屈なのか今にも破れそうになっているが、だからと言って太っている訳ではない。ウエストはしっかりと引き締まっており、臀部も大きく丸みを帯びてまさしくボンキュッボンと男性の理想、女性が憧れる究極のスタイルをしている。


「えぇ、お久しぶりです………天獄の序列第1位。反逆天使にして救済の天使、ルシフェル」

「天獄に反逆天使と救済天使、か……懐かしい言葉だな」


 俺が隠している、親友の坂田にも話していない秘密。


 天獄。俺やガブリエルがかつて所属していた組織。世界の国々が最も欲し、最も恐れたモノ。

 俺たちは天獄の天使として世界中を飛び回った。紛争地域への介入、難民たちへ物資の提供。他にも裏世界の巨大テロ組織の撲滅、大統領の護衛だってやった。


 全ては母さんの願いのために――私は完全なる天使、熾天使セラフに至ろうと……

 だが、全ては過去の話だ。だって俺は………


「俺はもう天使じゃない」

「いいえ、そんなことありません。あなたは今でも天使です。私を救ってくれた光なんですよ」


 悔しそうに、悲しそうに呟くガブリエル。

 重たい雰囲気に包まれた空気を変えるために俺はガブリエルが何故俺を付けていたのか聞いてみる。


「なぁ、ガブリエル。何故俺を付けた? 何か用があるのか?」

「……用ですか。そうですね、先ほどの子もそうですがルシフェルは随分とモテモテなのですね」


 先ほどの悲しそうな顔から一転、ガブリエルは誰をも魅了する笑顔になるが、その目は全く笑っていない。


「いや、別に好きでモテている訳じゃないんだが……」

「あら、それは随分と贅沢な悩みですね。それでしたら私にも考えがあります―――ッ!」

「が、ガブリエル!」


 俺とガブリエルの間には数メートルほど距離があった。それをガブリエルは一瞬にして詰めた。

 数メートルもあった距離をどうやって一瞬で詰めたのか全くわからなかった。

 気がつけば俺の目の前にガブリエルの美しい顔があり、そのままガブリエルに押し倒されて背中に少し痛みが走る。


 だがそんな痛みよりも、今の体勢がとても危ない。

 世界的に有名な大女優のガブリエルが俺を硬いアスファルトの上に押し倒して、覆い被さる様な体勢になり、片手は恋人同士の様に指を絡め、もう片方の手は手首を押さえつけられている。

 傍から見れば大女優が一般人を襲っているようにしか見えない。


 ガブリエルは身動きの出来ない俺の目の前に、鼻と鼻がくっ付いてしまうほど近くに彼女の、天使の美しい顔が近づける。

 ガブリエルが覆い被さっている事によって、ガブリエルの緩いウェーブのかかったプラチナブロンドの髪が流れ落ちてカーテンの役割を果たし、2人だけの空間を作り出す。

 ガブリエルは、サファイアの様な美しい瞳を閉じて、自分のピンクの柔らかいであろう唇を俺の唇に押し付けてきた。


「……!」


 唇に伝わる温かく柔らかい感触、カーテンの役割を果たしているガブリエルの髪からシャンプーの良い香りが俺の鼻孔をくすぐる。

 そして何よりもガブリエルが持つ圧倒的存在感を放つ、とても柔らく弾力のある豊満な肉の双丘が大きく形を変えながら俺の胸板に押し付けられる。


 ようやくガブリエルの突然の口付けに麻痺していた脳が、ようやく再起動する。

 だが、抵抗しようにも手は抑えられ、体を起こそうにも密着しているせいで何もできない。

 それをいいことに、ガブリエルの口付けは段々と過激になって行く。

 ただ優しく触れているだけだったはずなのに、突如俺の口内に熱くてヌルっとしたものが侵入した。それがガブリエルの舌だとすぐにわかった。


 昼間に灰塚先生にされたただ触れ合うだけの子供のようなキスではない。もう一段階上の大人同士の情熱的なキス、ディープキスというものだ。


 ガブリエルは、俺の口内を徹底的に味わい尽される。

 歯茎を、歯の裏を舐め回してから俺の舌へと絡みつき、互いの唾液を交換し合い喉奥にガブリエルの唾液が流し込まれ、されるがままの状態になっている。

 くちゅ、くちゃと淫猥な音が俺とガブリエルを興奮させる材料となる。キスは止まらずにガブリエルは頬をさらに赤く染めて僕の手を強く握りしめてもっと強く、もっと濃密に絡もうと舌を蠢かす。


「ぷ、はぁ……」


 ようやく顔を放される。すると、俺とガブリエルの唇を繋ぐ銀橋ができる。

 ガブリエルは、俺の腹部に跨って唾液に濡れた唇を手の甲で拭うと、恍惚とした表情で「はぁはぁ」と荒い息をつく。


「…ふぅ。ふふ、長いことお預けだったルシフェルとのキス。とても美味しかったですよ」

「……ガブリエル、お前って意外と肉食だったんだな」

「べ、別にそう言う訳では……それに、わ、私だって恥ずかしいですよ! こんな、は、破廉恥なキスなんて! でもあなたと離れ離れになってもう5年近くも経って、我慢なんてできるわけ無いじゃないですか……」


 未だに頬に赤みが残り恥ずかしそうにするガブリエルは、何度か深呼吸をしてから真剣な顔つきとなる。


「ルシフェル。あなたに大事な話があります」

「大事な話?」

「はい。ルシフェル、私と命尽きるまでずっと一緒に居てもらえませんか?」

「……ガブリエル。それは告白だよな」

「はい、先ほどの女性と同じく愛の告白です」


 本日4度目の告白。この世の男性が羨む現状に俺はもう胃に穴が空きそうになってくる。

 何なのだろうか、この告白の連鎖は。次から次へと、天樹の返事すら片付いていないというのに…


 呆然とする俺にガブリエルは白魚のような手で俺の頬に触れ、壊れ物を扱うかのように優しく撫でながら言葉を紡ぐ。


「どうして、という顔ですね。もちろん私はあなたが天樹さんに告白されたことを知っています」

「なら……」

「あなたもわかっているはずです。人間と私たち天使は結ばれることは出来ない」

「……ガブリエル。俺たちは、聖書に出てくる偉大な天使じゃない。ただの人間だ」

「確かに私たちは人間でした。ですが、私もあなたも人間を辞めて天使となった。それに、私たちは大天使アークエンジェル、名と役割を与えられた以上、完全なる天使、熾天使に至らなければいけません」


 さらに、とガブリエルは言葉を続ける。


「あなたがどれだけ必死に人間だと主張したとしても世界はあなたを天獄最強の天使、ルシフェルと見る。だから平和を掲げているはずのこの国はあなたにこれを持つように義務付けたんですよ」


 ガブリエルは俺の頬を撫でていた手を頬から首へ、首から鎖骨へと下に持って行く。

 胸元へとたどり着いた手を這わせて、脇あたりに隠してあった銃を2つ、ホルスターから抜き取る。


「ベレッタ、それを改造した銃にテーザー銃ですか……なかなか良い武器を持っていますねルシフェル」

「……」

「これが世界の答え、あなたの事を天獄の天使と見られている証拠です」

「それは……」

「もしも、この国があなたを天使ルシフェルとしてでは無くルシウス=アディーテという人間として見られているのなら、この国はあなたに銃刀の携帯を義務付けたりしません」


 ガブリエルの言う通り、俺には銃刀の携帯を国から義務付けられている。


「……そうだ、この国は俺に武器を持つように義務付けた……それでも俺は―――!」


 人間として生きたい、と続けることは叶わなかった。ガブリエルが人差し指を立てて俺の唇に押し当てて中断させたからだ。


「ルシフェル、現実から目を背けないでください。例えあなたが天樹さんと結ばれようと、あなたには時間がない」

「…ッ」

「天樹さんには幼馴染の御剣さんがいます。それと同じようにルシフェル、あなたには私がいます。これは忠告です」


 ッ! 告知天使であるガブリエルからの忠告……!


「よく考えてください返事は今すぐじゃなくても結構なので、取り敢えずこれを」


 ガブリエルは銃をホルスターに戻して、ポケットから紙切れを取り出して俺のブレザーの胸ポケットに仕舞う。


「その紙には私のプライベートの電話番号とメールアドレスが書いてあります。答えが出たら連絡をください。では、私は仕事があるので失礼しますね」


 ガブリエルは俺の返答を待たずに立ち上がって踵を返した。

 が、すぐには立ち去ろうとしないで顔だけ俺の方に向ける。


「ルシフェル……天獄のことについて、私は気にしていません。あのことについて私に怒りと悲しみはありませんから……」

「ガブリエル……」


 顔だけこちらに向け儚げに笑うと、ガブリエルは歩き去って行った。

 ガブリエルが立ち去った後も、俺の頭の中ではガブリエルの言葉が支配していた。


「天獄最強の天使、ルシフェル……か」


 わかっている。俺は、人ではないことを。

 わかっている。俺には恋愛などしている余裕も、時間もないことを。

 …わかっている。自分が1番わかっている! 今の状況がダメだということも! このままではいけないことも全部、全部わかっている!

 でも、それでも―――


「ほんの少しくらい、夢を見たっていいじゃないか……」


 願いを口にして起き上がると、沈みゆく夕日を背にドアに向かって歩きながら俺は頭を悩ませる。

 天樹やアリスたちの想いは本物だ。本当に俺と恋人になって未来を歩みたいと思っている。

 だが、俺はもう人ではない……どうすればいいのか、わからない。

 悩んでいるうちに昇降口にたどり着き、靴箱からローファーを取り出そうとした時、


「待てくれ!」


 その直後、声を掛けられた。


 声の主の方を向くと、1人の少年が立っていた。

 癖のないサラサラとした黒髪に、イケメン俳優やアイドルなどに負けない程の整った顔。学園で知らぬ者は居ない、ラノベ主人公のような存在で天樹美香の幼馴染―――


 ―――御剣、正輝


「やあ、こうしてちゃんと話すのは初めてだよね」


 彼は女性を一瞬で虜にするような笑みを浮かべ、俺に近づいてくる。

 どうやら、本当に今日は厄介日のようだ。


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