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天使に修羅場は必要だろうか  作者: 凪鏡也
第1章 修羅と告白のルシフェル
8/47

第8節 転校生の本性

10/24 題名を付けました。

 はっきり言って、どうやって教室に戻ったか覚えていない。

 できるだけ何事も無かったかの様に教室に戻ったが、何故かニューソルディアにとても心配された。


 どうやら灰塚先生が手を回して保健室で休んでいた事にしていてくれたらしい。その事については嬉しいが、さっき事もあってちょっと複雑な気分だ。

 それからは何の支障もなく6時間目と帰りのHRが終了し、生徒達は部活動に行く者、帰る者とそれぞれの目的のために立ち上がる。


 本当なら天樹に話を聞こうと思ったのだけど、どうやら授業の途中で体調を崩してしまって早退してしまったらしい。


 他に用事などなく、家に帰って姫島たちの告白の件についてゆっくり考える為に教室を出ようとすると、突然横から袖を引っ張られ立ち止まる。

 引っ張られた方を向くと、女神と見間違えるような少女。ニューソルディアが少し困ったような顔をしながら立っていた。


「どうしたニューソルディア?」

「あ、あの…お昼休みに案内してもらえなかったので、学校の案内を頼んでもよろしいでしょうか?」


 そういえば朝、先生がそんな事を言っていたな。と吞気に思い出した俺は直ぐに了承した。


「わかった、それじゃあ行くか」

「はい! ありがとうございます。ルシアさん!」


 元気よく笑みを浮かべるニューソルディア。その笑顔に良心が痛むが、この際仕方がない。心の中でニューソルディアに謝罪しつつ、学校案内を始める。

 流石に時間も遅いので高等部の校舎だけ、次回中等部、大学部、教務部やグランドなどを案内すると言う事で高等部校舎内にある理科室や音楽室、保健室――――と沢山の教室を1階から上に上がっていきつつ紹介していく。


 それらをニューソルディアは興味深そうに眺めて、楽しそうに見て回っていた。

 純粋な子だなと思いつつ、俺たちは最後に屋上へと来た。

 現在の時刻は5時過ぎ、4月と言ってもまだまだ肌寒く段々と暗くなっている。だがその分夕日が綺麗に見える。


「わあ、夕日がとても綺麗です! 見晴らしも良いですし、何よりこの学園の広さを改めて感じられます」

「そうだな。確かにこの学園は広いが、広いだけじゃなく設備も充実しているからニューソルディアも直ぐに気に入ると思うよ」


 ニューソルディアの言う通り、改めてこの学園の広さを感じる。

 学園の全校生徒が集まっても余裕のある広大な中庭の中心には、大きな噴水が大量の水を絶えることなく出し続けている。


 グランドの方に目を向ければ、サッカーコートではサッカー部が練習やミニゲームなど、野球場では野球部がランニングやキャッチボールなど、他の運動部も精を出していた。


「良い学園ですね」

「そうだな」


 感慨深そうに呟いたニューソルディアは、柵の外へ向けていた体をくるりと回して、夕日をバックに内側にいた俺へと向く。

 夕日に当てられ煌めく金髪を風に遊ばせ、その風からニューソルディアの甘い香りが俺の鼻孔をくすぐる。

 そして今日一番の笑みを浮かべながら彼女は口を開く。 


「ありがとうございました! ルシウス=アディーテさん!」

「どういたしまして」 


 別に驚いたりはしない。最初から誤魔化せるとは思っていなかった。

 だけどまさかニューソルディアがこんな茶番に付き合ってくれるとは思っていなかったが……


 俺たちは何事もないかのように互いに当然のように微笑む。

 するとニューソルディアは俺とのやり取りが面白いのか、じっと俺を可笑しそうに微笑みながら見つめて、そしてゆっくりと再び口を開いた。


「あぁ、久しぶりねルシウス。私は貴方のことを一度たりとも忘れることはなかったわ」

「は?」

「忘れるわけがないじゃない、愛しい貴方の事を」


 突然変わる口調に、驚きで体が硬直する。


 ニューソルディアの纏っていた雰囲気が、一瞬でがらりと塗り替えられる。

 ぴりっとした緊張感を孕む、妖しく危険な空気。

 それを纏ったニューソルディアは、昼間の様な透き通った瞳ではなく。濁っていながらも魔性を秘めたような、禍々しくも美しい瞳で俺を見据えた。


「ルシウス……ずっと、ずっとずっと逢いたかった」


 光を失った瞳で暗く呟き、紅潮した頬に手を当てて荒く息を吐き始める続けるニューソルディアの豹変ぶりに、俺は戸惑いを隠し切れずに息が詰まり、呆然としてしまう。


 ……あれ、ニューソルディアってこんな性格だったか?


 急に変化した空気に俺は無自覚に、ハイライトが無くなったニューソルディアから少し後ずさる。

 後ろには出口の扉がある、この状況から俺は一刻も早く脱出したいのだが。


「……どこ行くの、ルシウス?」


 どうやらニューソルディアは許してくれないらしい。


「ずっと、ずっとずっと貴方の事を考えて、この日を待っていたのに。ねえ、覚えてる? 私の事。また昔みたいにアリスって呼んで。もしかして覚えてないかな? ううん、怒らないわよ。忘れていても仕方ないもの…昔だもん。それにあの日の私とは似ても似つかないもの。でも、あの日から、あの日からずっと‼ 私は貴方に会うためだけに努力して来た。貴方のために、勉強して日本語を覚えてスタイルも良くしようと頑張ったんだよ?」


 すまない、全く記憶にございません。

 ニューソルディア改めアリスの口調からして、どうやら俺たちは昔会った事があるらしい。


「胸は、遺伝のお陰で大きくなったし、自分で言うのも何だけど料理も勉強も運動も出来る」


 だから、とアリスは俺に右手を差し出して告げる。


「ずっと――――ずっと、私の傍で私だけを見て私だけの為に、私と一緒に私と生きて私と死んでくれるわよね?」


 …どうしたらいいんだこの状況。

 怖い、はっきり言って怖い。

 今まで感じたことのない恐怖だが、ここで逃げるわけにはいかない。


「これは告白と受け取っていいんだな?」

「ええ、もちろんよ」

「何でこのタイミングで告白した? 俺が天樹に告白されたと知ったからか?」

「そうよ。さっきも言ったでしょルシウス、貴方は私だけを見て私だけを愛せばいいの」


 女性の思考回路はわからないな。

 だけど、これだけはわかる。アリスは誰よりも俺を1人占めしようとしている。天樹や姫島たち以上に。


「で、どうなの? やっぱり私を選ぶわよね?」

「いや、待って。思考が追いつかない。それに直ぐに答えが出せるわけがないだろう。それにまだ色々と…」

「色々って…天樹さんの事?」

「ああ、放置ってわけにもいかないだろ」

「……そう。私より天樹さんを選ぶのね…」


 小さく呟いたアリスはゆらりと俺に近づいていや、俺の後ろにある扉の方へ向かう。


「何処へ…」

「天樹さんの所…」


 天樹の所? もしかして潔く諦めてくれたのか? でも何でわざわざ天樹の所に行くんだ?


「…今から天樹さんを殺すわ」

「待って、お願い待って! 落ち着いて! 早まるな!」

「ルシウス……なら一緒に死んで地獄に行きましょう」

「行くか! 誰が喜んで地獄に一緒に駆け落ちなんてするんだ!」

「そう、なら天樹さんを殺した後に貴方を殺して私も死ぬわ…地獄の底だろうと一緒にいましょう」

「お願いだから落ち着いてくれ! 別に天樹と付き合うって訳じゃ――――」

「本当!」


 アリスの虚ろな瞳に僅かな光がともった。良かった。これで何事もなく……


「それじゃあ、私と付き合ってくれるのね」

「どうしてそうなる? さっきも言ったが直ぐに答えが出せるわけ無いだろ!」


 アリスはハイライトの無い瞳で俺に近寄り、肩に手を置くと身を乗り出して耳元でぬるい吐息で耳をくすぐりながらねっとりと絡みつくような声で囁いた。


「……絶対、絶対にルシウスを私の物にしますから……。覚悟してくださいね……?」


 その「覚悟してくださいね」は、俺へのアプローチがこれから激しくなるという意味なのか、それとも別の意味があったのだろうか。

 やがて、アリスは俺の色素が抜けた髪をひと撫でしながら「愛していますよ」と囁き屋上から去り行った。


「一体全体何がどうなっている……!」


 俺はその場にうずくまり、頭を抱える。

 何なんだ今日は! 厄介日か!

 そもそもあれがアリスの本性なのか? アリスって純粋で素直で優しい子じゃなかったのか? あんなブラックな子じゃないはずだろ!


「…はぁ、もうこれ以上は勘弁してほしいのに……いい加減そこから出て来たらどうなんだ?」


 赤く染まっていく空を仰ぎながら俺は扉近くに隠れている人物に声をかける。


「ふふ、気付いていましたか」


 返ってきた声はふんわりと柔らかでらかで聞いているだけで思わず緊張を、解いてしまいそうになる慈愛に満ちた優しい女性の声。


「いつから気付いていたんですか?」

「つい先ほどだ」

「ふふ、でしたら随分とぬるま湯に浸かっていたんですね」

「ぬるま湯、か。そうだな。俺はお前に簡単に背後を取られるくらい弱くなった……」


 ゆっくりと後ろに振り返り、扉の陰から出て来た女性に俺は自嘲気味に微笑みながら、彼女の名を呼ぶ。


「久しぶりだな。ガブリエル………」


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