第7節 禁断の恋は、甘い蜜の味?
10/24 題名を付けました。
「アディーテ君。これから生徒指導室まで来てもらいます!」
「え、いや、ちょっと灰塚先生!」
突如として現れた灰塚先生は強引に俺の腕を掴み、生徒指導室に強制連行されてしまう。
生徒指導室ということは、連行される理由は確実に偽ラブレターの事についてだろう。お説教と反省文だけで済めばいいが、この感じは絶対にただでは済まないだろうな。
生徒指導室に連行された俺は部屋に入るなり突然壁へと投げられ、背中を打ち付ける。
「ッ! は、灰塚先生!」
怒っていることはわかっていたが、こんな乱暴な行為をするような先生ではない。
だが、こんな乱暴な行為をするほど灰塚先生は怒り心頭ということか……謝っても簡単には許してくれないだろうな。
恐らく次は灰塚先生の怒声が来るだろうと身構え目を閉じた次の瞬間、俺の胸元に弱い衝撃と柑橘類のような清潔感のある爽やかな匂い、そして柔らかい感触が襲って来た。
目を開けば灰塚先生が胸元に飛び込み、額を俺の胸に押し付けていた。
な、何がどうなっている!
「あ、あの、灰塚先生?」
「…………して……」
「?」
「どうして、こんなことしたんですか!」
灰塚先生は俺の制服をぎゅう、と強く握りより自身の体を押し付けられる。
先ほどよりも密着されたことによって柔らかい双丘の感触と激しく鼓動する心臓をより一層感じて余計に困惑してしまう。
「…ずっと、ずっと抑えてきたのに…」
「…」
小さく震えた声で話す灰塚先生に、俺はどうすればいいのか分からず、ただ先生の話に耳を傾けることしかできなかった。
「でも、もう、我慢できないんです! 手紙を貰ったら我慢していた自分が馬鹿馬鹿しくなって…私はアディーテ君、あなたの事が好きです。愛しています! 生徒としてではなく、1人の男性として好きです!」
……は、何だと!
告白! 数分前に生徒会長様に告白されたばかりなんだが!
いや、何考えているんだ! しかも手紙って、坂田がふざけて送った偽ラブレターのことだな!
教師が教え子に恋をするって昼ドラか!
駄目だ。俺は生徒で灰塚先生は教師、ここはしっかり断っておかないと。
「先生、だ…」
「やっぱり、こんな事ダメですよね。……いいんです。でもアディーテ君から手紙を貰って嬉しくて、心臓がドキドキしっぱなしで……」
灰塚先生は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐがその声は、いつものような凛とした覇気のある声ではなく。今にも壊れてしまいそうな儚い声。
――恐らく泣いている。
……俺はどうすればいい。
「……それでも、それでも私はあなたのことが好きなんです!」
先程までずっと俺の胸に頭を押し付けて見えなかった顔を少し上げて、鼻と鼻が、キスが出来てしまいそうな距離から俺の顔をメガネのレンズ越しに潤んだ緑色の瞳で覗きこむ。
そして――――――
俺の唇にとても柔らかいシリコンのような感触が伝わり、目の前には目を閉じて顔をトマトのように真っ赤にした灰塚先生の顔があった。
何をされた? キスをされた。
誰に? あの周りからルールが擬人化した存在と呼ばれるほどの真面目な灰塚先生に。
どうして? 俺の事が好きだから?
俺には、わからない。
いや、わかるがわかりたくない。なぜならそのラブレターは坂田が書いたもので、俺が書いたものじゃない。
顔を離した灰塚先生は握りしめていた制服を離すと、2、3歩ほど後ろに下がる。
「わ、私、アディーテ君とキ、キスをして………ッ!」
灰塚先生は自分が何をしたのかを声に出して認識した途端、さらに顔を真っ赤にして脱兎のごとく生徒指導室を出て行ってしまった。
先生が居なくなり、生徒指導室に1人残された俺は近くにあった椅子におぼつかない足取りで座ってキスされた唇に触れながら頭を抱えた。
「どうしたらいい……」
ややこしくなっていく問題に胃がキリキリと痛んでくる。
取り敢えず1つ1つ問題を解決して行けば何とかなる……訳ないだろ!
ため息をつきながら、ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。だが、時間はまだ10分程度しか進んでおらず五時限目が終わるまでまだまだ時間がある。
……仕方ない。今からでも教室に戻るか。
スマホをポケットにしまい俺はふらふらと生徒指導室を出た。