第5節 転校生からの愛の告白
10/24 題名を付けました。
美の女神。これは比喩ではない。
現に男子、いや男子だけでなく女子も含めたクラス全員の呼吸が止まる。
その少女は、それ程までに美しすぎたのだ。人間のキャパシティを超えているその美貌に、男子も女子も何も言葉を発せずただ固まるのみ。
ドアをゆっくりと閉めて、小走りでその少女は教壇の上に立った。
「それでは自己紹介を頼む」
「はい!」
先生の言葉に元気よく答えた少女は白いチョークを手に取り、黒板に綺麗な文字で自分の名前を書き始める。
「アリシャス=ニューソルディアです! 気軽にアリスと呼んでください」
流暢な日本語。しかし彼女は名前からも分かるとおりに、明らかに外国人の見た目だった。
その容姿は整っていた。とか一言で言い表していいレベルではない。
不純物など一切ない純金を溶かしたような金髪に、エメラルドグリーンの宝石のような透き通った翡翠の瞳。雪のような白い肌、その肌がニューソルディアの金髪をより美しく際立たせていた。
美しすぎる彼女は、まるで神話に出てくる女神…美の女神と言うのが一番相応しい完成された存在。
大きな胸に、引き締まったウエスト。女性らしさを感じさせる臀部のゆるやかな丸みも併せて、完璧なスタイル。
直ぐに学校全体で人気が出て高嶺の花となるだろう存在だった。
「私はアメリカ出身で、親の仕事でアメリカに直ぐ帰る予定でしたが、仕事が安定して日本で暮らすことになってここに来ました。手続きとかで少し日にちがずれてしまったのですが、皆さんどうか仲良くしてください! これから、宜しくお願い致します!」
ニューソルディアの言葉からは、純粋な意思と真っすぐな気持ちが伝わってくる。
俺を含めてクラスのみんなはそんな彼女を拍手で歓迎する。
「それじゃあ早速質問タイムを取るぞ。質問がある奴は挙手しろ」
先生の言葉にクラスは大興奮。「さすが先生!」「先生大好き!」「愛してるぜ先生!」「結婚してくれ!」「誰が野郎と結婚するか!」と、クラスの反応にニューソルディアは少し驚き笑っていた。
そして待望の質問タイムのトップバッターは、坂田からだ。
「はいッ! アリスさんに彼氏はいますか? いなければ俺と付き合ってください!」
坂田の質問に男子は抜け駆けなんてずるいなどと叫び。対して女子達は目を輝かせながら耳を傾けていた。
質問された肝心のニューソルディアは頬を赤く染め、恥ずかしそうに坂田の質問に律儀に答えた。
「ええと、彼氏はいませんが気になっていると言うか、好きな人はいますよ」
「そ、そいつ何処の誰ですか!」
「その人は、私と同じ高校一年生でこの学校に在籍しているルシウス=アディーテという男性なのですが…どなたか、知っている人は居ませんか?」
ニューソルディアの爆弾発言に、お祭り騒ぎだったクラスは一瞬で凍り付いた。
「い、いや、そんな奴なんて聞いたことがな、無いな~」
「そうですか……残念です」
坂田の引きつった笑みを浮かべながら知らないと答えたのを信じた様で、ニューソルディアはしょぼんと肩を落ち込ませた。
いや、あんな怪しさ全開の答え信じるのか! 何処からどう見ても嘘だとわかるだろ!
と言うか俺、お前と会ったことがあるか? 確かに去年まではずっと海外で暮らしていたが全く記憶にない。そもそもこんな美少女なら嫌でも覚えているはずだ……
天樹やラブレターの事で頭を悩ませているのにここに来て更に問題とは…
開始1発目から気まずい事になった質問タイムは、何とか持ち直し2、3個質問して無事終了した。
「終わったな。それじゃあニューソルディアはあの1番後ろの白髪の隣だ」
よりによって隣の席かよ! 何か悪意を感じるな。
クラスの全男子からの異常な嫉妬と殺気の籠った視線が俺へとドスドス突き刺さる。
胃がキリキリ痛んでくる中、更に先生は爆弾を投げてくる。
「あ、それとニューソルディアの学校案内も頼んだぞ」
先生、俺にどうしろと言うのだ。みんな俺を虐めて楽しいのだろうか?
そうこうしているとニューソルディアが笑顔で隣に座ってくる。
「アリシャスです! 先ほども言いましたがアリスと呼んでください! 今日からよろしくお願いします!」
「あ、ああ。よろしく」
「お名前は何というんですか?」
ここに来てこれか、坂田があんな事を言ってしまったから名前が…というかこの学園に外国人や奇抜な髪色が居るとはいえ、俺の奇妙容姿だと即バレるんじゃないか?
いや、今は名前だ。えっと……
「ル、ルシア=シリウス」
「ルシアさんですね! では、学校案内も宜しくお願いしますね!」
「あ、ああ。こちらこそ」
咄嗟に思いついた名前だが、何とか騙せた…のか?
俺の容姿からルシウス=アディーテだと気がついてないようだし、恐らく人違いなんだろう。ああ、何か損をした気分だ。
チラッと横目でニューソルディアを盗み見ると、日本の学校生活が楽しみなのか、ワクワクしながら待っていた。
今から俺は彼女の前だけでは”ルシア=シリウス”でなければならない…憂鬱だ。
やがて、朝のHR終了の鐘が鳴り響き、ガタっ! とクラス中の椅子が動いた。
クラスメイトのほぼ全員がニューソルディアの机へと殺到する中で、俺は急いで机から離れ遠くからニューソルディアを眺める。
殺到するクラスメイトたちにニューソルディアは最初、驚き戸惑っていたが質問にはしっかりと答えており、純粋で容姿端麗な転校生は早くもクラスに溶け入っていた。
「おい、ルシ」
声の掛けられた方に目を向けると、先ほどまで真っ白に燃え尽きていた坂田が瞳に怒りの炎を宿して近寄ってきた。
「何だ?」
「何だじゃねぇよ。お前、何処でアリスちゃんと知りあったんだよ?」
そんなこと、俺が1番知りたい。
「それは俺にもわからん」
「わからないって…あんな女神のような美貌を持った美少女だぞ! 絶対に小さい時からも絶対に人気な存在だろ!」
そうは言われてもな……記憶にないものは仕方ないだろ。
「ちぇ、これだからモテる奴は……天樹さんを含めて全員に振られちまえ」
天樹……っ! そうだ。天樹に話を聞こうと思ってたんだ!
急いで教室を出ようと足を向けた途端、休憩時間終了を告げるチャイムの音が無慈悲にもクラスに響いた。