第3節 ラブレターにはご注意ください
10/24 題名を付けました。
放課後。夕日が差し込む教室で、俺の目の前には昼休みと同じように負のオーラを放って嗚咽を漏らしながら涙で机の上を濡らしている坂田がいる。
教室内は帰宅や部活などに行く準備をしている生徒がほとんどで俺も早く帰りたい。
「坂田………一応聞くけが何があった?」
「ひっく…生徒会長に、告白して振られた」
結局、駄目だったんだな。
「帰るぞ。ここに居たって何も変わらないだろ」
「そうだけどさ。ルシ……俺頑張ったよな」
「ああ、頑張ったよ。お前のメンタルと行動力には敬意を払う。だからもう泣くな、今から焼肉を食べに行くぞ。もちろん俺の奢りだ」
「うぅ……ルシ、ありがとう。こうなったらやけ食いしてやる!」
「言っとくが白米だけだ。俺の肉を焼く匂いを嗅いで食べろ」
「何でだ⁉」
「冗談だ。ちゃんと美味しいお肉も食わせてやるから早く行くぞ」
突っ込みが出来る程の元気を取り戻した坂田と共に教室を出て昇降口に移動し、自分の靴箱を開ける。
すると、目に入ったのは黒のローファーではなく…白い手紙だった。
「…これって……」
恐る恐る手紙を取り出し確認すると宛名も差出人の名前も無く真っ白の封筒に可愛らしいハートシールで封がされているだけだった。
これってあれだよな……ラブレター。
今の坂田にこんな物を見られたら………嫉妬に狂って殺されるな。
坂田にラブレターを見られないように急いで手紙を鞄の中に突っ込もうとする。
「ルシどうし…ッ! そ、それってまさか……!」
だが、1歩遅く。坂田は俺の持つラブレターを穴が空くほど凝視していた。
どうする? 何を言ってもおそらく絶対に聞く耳なんて持たないだろうし、逃げるか。
俺は一歩下がり逃げようとするも坂田は光を失った幽鬼のような虚ろな瞳をして、身体をゆらゆらと揺らして俺の肩を力強く掴む。
「ルシ! お前、裏切るのか⁉」
裏切るって何をだ? 訳の分からない事をほざくなよ。とりあえず……
「1度落ち着け、その手を離して落ち着け。ほら、深呼吸」
「裏切るのか、ルシ!」
「だから、落ち着け!」
肩を掴んでいる坂田の腕を払って、落ち着かせるために無防備な坂田のお腹を殴る。
お腹に強烈な一撃を喰らってしまった坂田は、その場に苦しそうに蹲ってしまう。
少し加減を間違えたか? まあ、大丈夫だろう。たぶん。
「少しは落ち着いたか?」
「これが落ち着いていられるか! 俺は勇気を出して告白したのに、何でお前はラブレターを貰ってるんだよ⁉」
お腹を押さえ蹲りながらも嫉妬の炎を宿した瞳で俺を睨み付け、訴える坂田に俺は肩をすくめながら諭すように話す。
「そんなこと言われてもな。そもそも俺はこの学校に1年ほどしか在籍していない。それに俺は別に人気者でもイケメンでもない、そんな俺にラブレターを渡す人なんている訳ないだろ」
「馬鹿野郎!」
何が気に食わないのか坂田は勢い良く立ち上がり、俺の頬を殴りつけてきた。
突然の攻撃に対応しきれずによろめく俺を坂田は胸倉をつかみ怒鳴りつけてくる。
その怒声に昇降口に居た生徒達は何事かと集まり俺と坂田の様子を窺っていた。
「いいかルシ! 相手に自分の気持ちを伝えるのはとても勇気がいるんだ。もし嫌われてしまったら、振られてしまったらと不安に押しつぶされそうになりながらも自分の気持ちを好きな相手に伝える。そこに時間も容姿も関係ない!」
「坂田…」
「お前のくだらない事情なんて関係ない! 読む前から、相手の気持ちを知らないで、いや知ろうとする前から否定するのは相手に失礼だ! お前が読まないなら、俺が代わりに呼んでやる。いや、お前が読もうと俺が読む!」
おい、それはただ単にお前が読みたいだけだろ。
坂田は俺の持っていたラブレターを強引に奪い取り封を切って手紙を大きく広げる。
「行くぞ、ルシ! 『いきなりこんな手紙を出してしまいすみません。いきなりですが、ずっと前から好きでした…』」
何故か始まったラブレターの音読会。
手紙には俺に惚れたきっかけや、俺の好きなところ。しかも結婚、老後についても視野に入れたラブレターで、もう聞いているこっちが恥ずかしく無性に顔が熱くなってくる内容ばかりだった。
現にこちらの様子を窺っていた多くの生徒が顔を赤くしている。たぶん俺の顔も同じなのだろう。
「『――――最後にもう一度、ずっと、ずっと前から好きでした…天樹美香』」
「…え」
一体誰が声を出しただろう。周りに居た生徒達か、それとも俺か。だが今1番思っている事はただ1つ。
ラブレターの送り主って天樹かよ!
どうしてだ! 告白した坂田を振って俺にラブレターを出して告白。そして、そのラブレターを振られた相手の坂田が俺の為に読むって…凄く居たたまれない空気なんだけが。
「…あ、はは、あはははは…そうか、天樹さんは俺じゃなくてルシの奴を…あはははは…」
「さ、坂田、大丈――――」
「恋愛なんてクソくらえぇ―――⁉」
坂田は涙を流し、手紙を俺に投げつけて叫びながら走り去って行った。
一部始終を目撃した生徒達は呆然としていたが直ぐ正気に戻り大きな騒ぎになっているが俺は騒ぐ彼らを放って投げ返されたラブレターを見つめながらため息をつく。
初めて人からの好意。嬉しくないと言えば嘘になるが、残念ながら俺は天樹の想いに答えることはできない。俺に恋愛をしている時間はないからな。
騒ぐ生徒達を背に俺はラブレターを鞄に納めて、天樹を傷付けてしまう事に罪悪感を覚えながら重い足取りで帰路についた。