第2節 告白をする相手はよく考えましょう
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5/1 加筆修正しました。
星蘭学園、それが俺の通う学校の名前だ。
勉強とスポーツ共にどちらも優秀で、海外から多くの留学生が在学している。また、美男美女、美少女が多く日本だけではなく海外からも有名な中高大の一貫校だと知られている。
土地は中高大一貫校なだけあって途轍もなく広く。東京ドーム何個分? とリアルに聞けそうなほど広い。と言うか良くそんな土地があったな。
話を戻すが、実績もあって、設備はどれも最新で充実している。
例を挙げるなら各個人に支給されるタブレット端末にエスカレーター、温水プールに天然芝生のサッカーコートと、このように例を挙げるときりがない。
食堂も例にもれず充実している。中学生、高校生、大学生、教員等の大勢の人が利用するため大きめに造られており、食堂はカフェテリアを含め全部で5つある。
5つある食堂はまるで巨大ショッピングモールのフードコートの様で、庶民的なお店から3ツ星の高級料理店などの数々のお店や料理がたくさんある。
そして星乱学院では、あるシステムが導入されている。それは格学年上位5位以内の者は学食が無料なのだ。だがその分テストはアホみたいに難しいが。
そんな大勢の生徒と教師で賑わう食堂に、俺と坂田は空いていたカウンターテーブルの席に座って全国展開している有名なラーメン店のラーメンを食べながら坂田から話を聞く。
「それで、哀れにも振られたお前は誰に告白したんだ? 天文学数値的な確率で慰めてやらないこともない」
「いや、確率低すぎるだろ。お前本当に俺を慰める気あるの? あとこれ以上傷口に塩を塗ろうとしないで」
「どの道振られた話を掘り返すんだから、塩を塗るどころか抉ってやる」
「抉らないでくれると嬉しんだが…俺が告白した相手は、天樹美香だ」
何処か遠い目をしながら告白した相手を答える坂田に、俺は告白相手の名前を聞いて少し驚く。
天樹美香。
彼女の事を言い表すなら、ほとんどの生徒が口をそろえて現代の大和撫子と答えるだろう。
それほど天樹美香はその言葉が1番似合う才色兼備の美少女なのだ。学年問わず人気があり、星蘭学園のアイドルともてはやされている高嶺の花的な存在。
去年、確か俺がここに転入した時に一緒のクラスだったはずだ。
ただ去年までずっと外国で暮らしていた俺は日本語の勉強などが忙しくて大して関わる事なかったけが、何かと気お使ってくれた記憶がある。
それにしてもかなりの大物に手を出したな。
でも確か彼女には…
「天樹には幼馴染の御剣正輝が居るんじゃなかったか?」
御剣正輝。
俺たちと同じ高等部1年生ながら星蘭学園サッカー部のエースであり、坂田の(自称)ライバル。ラノベ主人公のような人物でイケメン、スポーツ万能、成績優秀と三拍子揃った完璧人間。
肝心の性格は裏表がなく、明るく真面目。誰にでも親切で困った人を見過ごせず、父親が警察の人間なだけあって正義感がとても強い人間。
そして天樹の幼馴染。なのだが恋愛の方においては超鈍感で天樹を含む女子生徒達からの好意に全く気付くことができない。鈍感系ラノベ主人公。
噂では中学1年生から大学4年生までと、幅広い女子から毎月5回以上は告白されているらしい。ただ告白されても買い物に付き合ってほしいとか、訳のけの分からない方に捉え多くの女性に涙を流させているとかなんとか……
「ああ、そうだよ! あの憎き俺達、非リア充の敵だ!」
急に大声出すなよ、周りの人びっくりしてるだろ。そしてその俺達って俺も入ってるのか?
「だがしかしぃ! 俺は諦めない。次に俺はガブリエル=セフィム先輩に告白したんだ!」
……は?
「…おい、それはどういうことだ?」
「どうって、そのまんまの意味だけど。天樹に振られた事を考えて、予めガブリエル先輩を呼び出しておいたんだ。それにしても助かったぜ。あの人女優だからあんまり学校に居ないから」
…いや、告白した相手って天樹だけじゃないのか? しかも相手はあの大女優であるガブリエルだと⁉
ガブリエル。ガブリエル=セフィムは世界規模で有名な大女優だ。
彼女はこれまで数々の映画やドラマに出演しており、圧倒的美貌とスタイル、演技力で世界中にファンを持つ大スター。そのため学校には1か月に数回程度しか登校してこないが勉強はいつも上位で噂によれば15カ国以上の言葉が話せるらしい。
ガブリエルが特に人気の理由はその容姿だ。前に坂田が星蘭学園の制服姿の(盗撮)写真を見せてくれたが、凄すぎて何でこの学園に通っているのかと思った程だ。それほど俺たちとは遠くかけ離れた存在なのによく告白したな。
そんな事よりも、気になったことが1つある。
「もし天樹が告白にOKしていたら、呼び出したガブリエルの事はどうするつもりだったんだ?」
「そりゃあ、男のロマンたるハーレムを…ってあ、あのルシウスさん。どうして急にゴミを見るような目で俺を見るの?」
「黙れゴミ野郎。一生振られてろ」
「もう振られてるよ! だけど俺は諦めない! 俺は高校生活を彼女と共に青春を謳歌したい! そのために俺は禁断の道に足を踏み入れたんだ!」
「禁断の道?」
「そうだ! 英語教師の灰塚せりか先生に告白したんだ!」
……頭が痛くなってきた。バカだ、救いようがないバカだ。
坂田が告白したと言う禁断の告白相手、灰塚せりか先生。
彼女は星蘭学園で1、2を争うほど堅物で厳しく真面目な先生だ。
「坂田…いくら彼女が欲しいからと言って先生に手を出す人間が何処にいる!」
「ここに居る!」
「誇らしげに胸を張るなバカ! ……それにしても何で灰塚先生なんだ?」
星蘭学園で堅物で有名な灰塚先生は、残念ながら生徒からの人気はあまりない。どちらかと言えば苦手、悪く言えば嫌われている。
だというのに、どうしてこのバカは灰塚先生に告白したのか、俺には全くわからない。
「何で、か…それはなルシ、お前の話を聞いてワンチャンあると思って告白したんだ」
「俺の話?」
「そうだ。昨日言っていただろ。堅物で厳しいせりか先生は生徒想いで優しい先生だって」
「あ、ああ、確かに言ったな」
去年の放課後。いつも1人で勉強していた所を灰塚先生の目に留まり、英語を日本語に訳してもらいながら勉強をしていた。
皆から苦手、嫌われている灰塚先生だが、実際は優しくて何より生徒想いの良い先生なのだとわかった。
そうでなければ俺が日本語をちゃんと理解できるまで熱心に教えてはくれないだろう。
「だろ! 生徒想いなら俺の気持ちに応えてくれると思って!」
「……結果は」
「応えてくれないあげくに説教と反省文をもらいました!」
普通に考えたら無理だとわかるだろ。
どうしてこのバカはやたらハードルの高い女性に告白をするのか、俺には理解できない。
だけどこれ以上は友としてこのバカが無謀な告白をして悲しまないように、幸せでいるため。俺はこのバカを止めなければならい。
「…もう告白はするなよ。どうせ振られるからな」
「おいルシ! 言って良いこと悪いことがあるだろ!」
「その前にやって良いことと悪いことがあるだろ⁉ それにこれはお前のためでもあるんだぞ!」
「意味わかんねぇよ! クソッ! こうなったら生徒会長にも告白して来る!」
「お前は俺の言葉を聞いてたのか!」
俺の静止を聞かずに坂田はいつの間にか食べ終えていたラーメンの器が載ったトレーを片付けて生徒会室に向かって走って行く。
それを俺はただ呆然と見送ることしか出来なかった。
どう考えても同じ悲劇が繰り返されることなんてわかりきっているのに、それでもなお折れずに挑み続けるお前は、本当に強い。
そんなお前が俺は好きだし、憧れている。
…でもな、俺はもう見たくないんだ。初めて出来た友達、親友であるお前が落ち込んでいる姿を。だから生徒会長への告白が成功することを俺は心から祈っている。