五話 ブルズの街
あれからもう二日程歩いていた。
見えてきた、ブルズの街だ。
「おいあれじゃねぇ?」
「え、あ! 街だ、街だよ」
「やっとか、結構歩いたな」
辺りはもう真っ暗で街の入り口の方に明かりが灯っている。
この世界の街は外にモンスターがいるために閉塞的に成らざるを得ない、モンスターが入ってこれる様な場所に高い壁などを敷設して外敵から街を守っている。
このブルズの街は大河に面した街で北側に大河があり南側と東西を壁で囲む事でモンスターの侵入を極力防いでいる、完全に防げない理由はいくつかあるが一番の理由は空を飛ぶモンスターだろう。
今見えているのは東門である東西に大河に沿って走る鉄道と街道の上に街がある、東門から西門まで大河街道ブルズ通りとして街の真ん中を走る主要道路になっている西門からも更に先の街まで大河街道は続いている。
この世界での移動手段は馬車や鉄道(鉄道は線路の整備などの問題がある、主にモンスターに破壊されたり修理中にモンスターに襲われるといった問題から何処にでも敷設出来る訳では無いが主要都市間などは通っている)などで移動するのが主要だが一部の大金持ちや高位のハンターなどは車やバイクの様な乗り物に乗っている。
三人は東門まで到着すると、数台の車や馬車が通っているのが見える、自分達も通行許可を貰うために門の前にある窓口まで行く、昼間は人の出入りも多く並んでいたりするらしいが、今は夜だすんなりと受付まで辿り着く。
すみません街の中に入りたいんですけど、とフウが尋ねると 、窓口に男の人が来た。
「夜遅くに、え? 子供だけじゃないか、親御さんか保護者はいるのかい?」
「いえ、居ません……」
「うーん、身分証明書なんか持ってるかなぁ?」
「いえ、それも持ってないです」
「うーん困ったなぁ、どうしようか一応仮の入行証明書は発行出来ると思うけど、少し待って貰えるかな」
「はい分かりました」
暫くして、眼鏡を掛けた男性職員がやってきた。
「君達かな仮正明書が必要なのは」
「そうです」
「身分証明書が無いと聞いているが何処から来たのかな?」
森の奥、山間の名もない集落から来たことを話し、その集落の中だけで普段生活していたので元々身分証明書の様なものを持っていなかった事を話す。
「ふむ、では知り合いにブルズの街に良く来ていたり
ブルズの街に入っていた人などの知り合いはいたりするかい?」
そこで、リックの父親や集落のハンターの人達の名前を挙げ、集落は全滅して育ての親も亡くなった事を話す。
「そうか、それは大変だったね。仮証明書は発行しよう、だが街の中で寝泊りする場所が決まったら、この窓口か役所の職員まで知らせて欲しい」
「分かりました」
「一応、この件は報告する必要があるからね、君達も呼ばれる事もあるかもしれないから覚えておいてね」
「はい、分かりました」
職員が仮証明書の作成をしている間、仮証明書の説明をしてくれた、発行にお金が掛かる事、あくまでも仮の証明書なので有効期限があり一週間だと言われる、その間に身分証明書を作る事を進められた。
「お金、いくらですか?」
「おい、フウお金なんて持ってねぇだろ」
「え? ちゃんと持って来たよ、まあリックの家から借りてきたんだけどね」
「ごめんなさい、いくらですか?」
「仮の入行証明書が必要なのは三つかな?」
「はい、三つお願いします」
「一つ千ダウだから三千ダウだね」
「はい、ではこれで」
「はい、確かに丁度頂きました、少し待っててね今仮の証明書を発行するからね」
少し待つと直ぐに仮の証明書が発行されてきた。
「ようこそブルズの街へ」
お決まりの台詞のように言われ門を通り抜ける。
街に入る、夜だと言うのに煌々と明かりが点いていた、三人は完全にお上りさんである、光輝く建物を辺りをクルクルと見回しながら歩いている。
街の入り口近くにあった大きな看板を見る、街の大雑把な地図のようだ、街はかなり大きく、敷地は四十平方キロメートル程のほぼ四角く囲われた都市である壁の高さも十メートル程あり中に入ると外は殆ど見えない作りになっている、やはりモンスターがいるので侵入を防ぐ為には仕方がないのかもしれない。
そんな街の中を歩いていると、レオが今日はどこで寝るんだと聞いてきた、フウは全く考えていなかった、何せ今日まで殆ど野宿のようなものだったのだ、最悪街の中で適当に朝まで過ごしても大した問題では無いと考えてしまっていた。
「どうしよう……」
「フウ幾らもってきたんだ?」
「うーんと、全部で二万五千ダウ持って来たんだけどさっき三千ダウ使っちゃったから残り二万三千ダウか」
「どっか泊まれんのかなぁ」
「どうなんだろうな」
まあとりあえず泊まれるような所に行ってみるかとなって泊まれそうな場所を探すと、煌びやかな建物にホテルと、書いてあったので入ってみる。
「おいおいこんなすげぇキラキラしたとこ入って大丈夫かよ……」
「わかんないよ、でもホテルって書いてあったから多分泊まれるところの筈だよ」
フロントまで行き受付の人に泊まりたいのですがとフウが尋ねる、二、三回話してすぐにフウが青ざめた表情で帰ってきた。
「どうしたフウなんか嫌な事いわれたのか?」
ギンが子供だけだからと酷い事を言われたのかと思い心配して言ったのだが。
「いや、違うの……街ってこんなに……お金の感覚がおかしいのかなぁ?……それとも私達がお金を持ってなさすぎるのかなぁ……」
三人は今迄、山の集落から基本的に出た事がない、集落では割と物々交換の様な集落全体で自給自足の様な生活をしていた、要するにお金が必要無いのだ、なのでお金は基本的にハンターの様に街に行く人達だけが持っていれば良かったので、三人には金銭感覚と言うものが無かったのである。
正に田舎者なのである。
「ん? どう言う事だ?」
「だって……最低で一泊、一人三万ダウもするって……」
その瞬間レオがムッとなりあいつら俺らがガキだからってふっかけてきてやがるんだと言って怒る。
「違うんだって、私も最初そう思ったんだけどなんかお部屋の料金表示みたいなの見たらそう書いてあったからびっくりして断って来ちゃって」
「……お、おう、ヤベェな街……」
「ヤベーな……とりあえず出よう」
「うん……」
大金持って来たと思ってたんだけどなあとフウは言いながら外に出る、辺りを見回すと明らかにお金持ちそうな人ばかりだった、いや先程のホテルでの値段を見たからそう見える様になってしまったのか。
また暫く歩くと、屋台の様なお店が沢山ある場所に出た、近くのテーブルに食事をしている四人のハンター風の格好をした男と女がいた、フウがこの辺に安く泊まれる場所ってありますか?と訪ねてみると。
「あら子供だけで、こんな時間にどうしたの?」
泊まれる場所? と聞き返して来た。
「はい、泊まれる場所を探しているんです」
「うーん、どのくらいの予算があるのか分からないから何とも言えないけど」
「あの……街だと何処も最低一泊三万ダウも掛かるもの何ですか?」
すると隣の席で酒を飲んでいた金髪の男のハンターが口に含もうとしていた酒をブォッフゥーっと吹き出す。
やめてよ汚いわね! と怒られた男のハンターが、そりゃあっちの綺麗なホテルだろと言っていた、普通はもっと安く泊まれるらしい、サービスや質など勿論値段はピンキリだと言っていた。
「確か街の入り口の方に結構安くて良い民宿があったような気がするが」
「えと、幾ら位か分かりますか?」
「一人、三千ダウ位で一食付きだったか?」
あーそうだそんなとこあったな、とかそう言えばあったわねなどと言っている、三人は入り口付近のその民宿に泊まろうと相談する。
「ありがとうございます」
「おう、気を付けろよ」
フウがお礼を言って今来た道を戻る。
またこっちの方に来ちまったな、とレオが言いながら歩いている、見つからないのでその辺の人に近くに民宿があるか聞くと大通りから少し中に入った所にあると聞き、見つける事が出来た。
民宿《好き牛》と書いてある
「ここかな?」
「多分な入ってみれば分かるだろ」
フウとギンが言って中に入ってみると、中も少し古臭さはあるが良く言えば、家の様な雰囲気、所謂アットホームな感じである、一階は食堂になっている様で今は食事時なのか宿泊客が数名食事をしている、入り口のカウンターに置いてあるベルを鳴らしてみる、直ぐに受付の人が来た恰幅の良いおばさんだ。
「あら、可愛い子達だね、どうしたんだい?」
すると、フウが二人の方に振り向き可愛いだって、分かる人には分かるのよ! と目を輝かせ自信満々で言った
「あぁ、お世辞だお世辞」
とレオが言うとフウが物凄い形相でレオの襟首を掴み睨みつける
「じょ……冗談だす……」
謝りながらギンに怖すぎだろ、と言ってふざけていると
「まあまあ、子供達三人でどうしたんだい?」
とまた訪ねてくれて仕切り直す。
「えと、三人泊まりたいんですが、幾らですか?」
「子供三人でかい? うちは一人一泊一食付きで三千ダウだけど大丈夫かい」
「はい! お願いします」
「だけど、子供達だけだから。そうだね〜男の子が二千五百ダウと女の子は二千ダウで良いよ、料金は前払いだよ」
とおまけまでしてくれた、フウはありがとうございますと言って料金を支払い、おばさんが食事は夜一食無料だよと言ってくれた、別で料金を一人五百ダウ払えば朝ご飯も出るそうだ、なので朝ご飯も頼んでおいた。
「凄く良い民宿だねー」
お腹が空いていたので早速食堂に入り座る、メニューは決まっているそうなので出て来るのを待つだけだった、今日のメニューは牛丼だ卵も付いている。
おばさんがうちの牛丼は美味しいよ! と自信満々で厨房へ入っていった。
この都市は広いので家畜なども生産している、そこで野菜や肉や卵などが採れるらしい。
料理がテーブルに置かれた、三人はすぐに食べ始める。
「美味しいよ」
「おう、うまいなこれ」
「この汁、中々いけるな……参考にしよう」
などとギンがぶつぶつ言いながら食べている、肉は薄く切られていて柔らかく食べ易い、汁の味がとても良くご飯に染みていてもりもり食べていく。
ご馳走さまでした、と食堂を出るとおばさんがやって来た。
「お部屋準備出来てるからね、狭いけどゆっくりしていってね、お風呂も順番で入ってね」
と声を掛けてくれた。
部屋に入ると
「うん狭いな」
「まぁしょうがねぇんじゃねぇの?」
「そうだねお金無いしね」
狭い、四畳半くらいの部屋であり生活するには狭過ぎるが、とりあえずは寝るだけでいいので文句は言わずに風呂に入ってくる事にした。
風呂から上がり。
「あー良いお湯だったねー。明日からどうしよーか、とりあえずはハンターギルドかなあ? お金も稼がないといけないし」
「まぁそうだろうなぁ」
「金か……金を稼ぐってだけなら、俺は食堂でもやれば稼げそうだな」
「あ、そっかそういう手もあるんだ、私が可愛いウェイトレスさんやってレオは……皿洗いでもさせれば良いか……」
フウは自分が可愛いウェイトレスの格好をして接客している姿を想像して妄想してにやけている。
ギンとレオが完全に冷めた目で見る。
「お前……正気か? 俺の皿洗いは良いとして一番の問題は……」
可愛いウェイトレスさんだぞ、と言おうとして全部言う前に殴られた、なんで殴るんだよ! とレオが抗議している。
「おい、ギンなに我関せずみたいな顔してんだ!」
「ん? そうだけど。だから俺は前置きしたろ。俺はってな」
フウは、ふん! と鼻息を荒くしてもういい、なんでも良いから明日はハンターギルドに行くからね! と声を荒げて布団に入り不貞寝してしまった。
明日はハンターになる為にギルドへ行く。
ギンとレオは俺らも寝るかと布団に入り眠る。