三話 誕生日 後半
莫大な光が収束していく。
光が……少しずつ消えていく……
微かに周りが見えてくる。
光の中からギンとギンに倒れかかる白爺さんの姿が見えてくる。
「何しやがったんだぁお前らぁぁぁぁ!」
光の中に二人を見つけた紫色の装束のリーダー格の男が叫びながら真っ直ぐに突撃していく。
ギンはまだ光の外の事がわからない様で光の中で爺さんを支えていた。
光が収束して完全に消えた時だった。
「ゴフッゥウゥ」
爺さんの鳩尾の辺りから刃が生えている。
ギンは一瞬何が起こったのか理解が追いつかない。
「何しやがったって聞いてんだろぉがぁ!」
なんでだ、なんでこんな事になっている。
「答えろぉ!」
紫色の装束のリーダー格の男が吠えている。
「……お前が……やったのか」
「あ? 答えになってねぇなぁ」
「お前が……」
「俺以外に誰がいるってんだ、あぁ!」
「お前は絶対に許さない……」
「あ? 声が小さくて聞こえねぇなぁ」
何ブツブツ言ってんだ、とギンの頰を殴りつけて異変に気付く。
さっきまでのギンなら簡単に吹き飛ぶ程の一撃だが今は顔が少し横に動く程度だ。
(明らかにさっきまでのガキじゃねぇ、なんだ? 何しやがったんだ、あの光の中から出て来たらまるで別人じゃねーか)
殴られたギンが正面を向く真っ直ぐに敵を見る。
右手を前に突き出し掌を開く、虚空から刀が現れた、ギンがそれを掴むと左手で一気に鞘を抜く!
白い刀、刃の部分に白く淡い炎を纏い輝いている。
ギンは一瞬で距離を詰め横薙ぎに刀を振るう、紫色の装束のリーダー格の男が一瞬で飛び退がる。
「速っ! あっぶねぇなあ! お前斬れたらどうすんだよクソッ……痛っ! オイっ斬れてるじゃねぇかっ!」
紫色の装束のリーダー格の男の胸の辺りを浅く裂いた。
速い、今迄のギンが出せる速度ではない。
自身の力も増しているが、刀からも力を貰っている様な感覚。
力が流れ込む、ギンは追いかける様に距離を詰め連撃を打ち込む。
紫色の装束のリーダー格の男が慌てて受ける。
(クソッ速いっ厄介だな)
猛攻、相手に反撃を許さずに打ち込む。紫色の装束のリーダー格の男は完全に防戦一方でギンは構わずに刀で攻撃していく。
ズガガガガガガガと、攻防の音が聞こえる。
(うお! 速いっだがまぁ)
側から見ればギンが押しているが何かがおかしい圧倒的に攻撃の回数はギンの方が多い、だが有効打が無い。次第に流れが変わり始めた徐々にタイミングを合わされ、少しずつ反撃が入り始める。
ギンが気を高めてそうはさせるかと加速する。
「経験不足だなぁ!」
ドガッ! ギンがリーダー格の男と接触した瞬間真横に吹き飛ぶ。
動きが直線的過ぎた。
(クソッ何が……起きた?!)
接触の瞬間リーダー格の男が振り向きざまに蹴りを入れていた、所謂ソバットがカウンター気味に入っていた。
経験の差がジワジワと出てくる。少し前に突然力を手に入れただけの少年と、組織で殺す事を目的にした戦闘を続けてきた者の差。
絶対的な経験値の差が。
(速さはあるが、まぁあれだけ正直に来てくれりゃ慣れてきちまえばカウンター取るくらいは楽勝なんだよなぁ)
ギンはそれでも突撃していく、剣速は確実に上がっているが紫色の装束のリーダー格の男は次第に慣れていくと簡単に短剣で捌き始める。
ギンも刀だけでは無く左に持つ鞘や足技も織り交ぜて攻撃のバリエーションを増やす。
(このクソガキ、センスがやべぇな……だが!)
だんだんと、先も読まれる出そうとする手を初動で封じられる。蹴り脚を出そうとすると膝の上を踏まれ殴られる、突きを出そうとすれば肩に掌打を打たれ流れで顔面を肘で打たれる。最早癖を掴まれている。
一朝一夕では埋まらない。
付け焼刃ではどうにもならない。
だがそれでも。
(負ける訳には行かねーんだ……!)
ギンは全力で歯をくいしばる、負ける訳にはいかない。
フウとレオが道場の中へ入り一番奥の倉庫へ行く。ここはこの戦闘が始まる前に白爺さんが入っていた場所だ。
「フウここに何かあるのか?」
「分かんないよ……私だってただ行けとしか言われてないんだから!」
倉庫の中を見回す、一番奥の棚に何時もは無い物が置いてあった。
プレゼント
二人はまた涙が出そうになるのを必死で堪える。
今日は誕生日なのだ、いつもはパーティーの最後に爺さんがバースデーカードと共に渡してくれていた。しかし、ここにあるカードはプレゼントの上に置かれた名前だけが書いてあるバースデーカードこれから内容を書く途中だったのだろう。
二人はお互いを見て頷き、自分の名前が書いてあるカードが乗ったプレゼントを掴む。ギンの分はフウが持って今来た道を急いで戻る。
『ギン!』
「待ってろ!」
「待ってて!」
二人は走りギンの元に戻る。
「ハァハァハァ……クソなんで当たらない……」
「まぁこれが経験の差なんだよクソガキ!」
ゴッと鈍い音が頭の中から聞こえたように感じる思い切り側頭部を蹴られた、ギンの足が地面から切り離され横に飛ぶ。
「ちくしょぉぉぉがぁぁぁぁぁ!!」
ギンは立ち上がりながら雄叫びを上げ自分を奮い立たせる、そうでもしないと意識が飛びそうだった。
「そろそろトドメだ、もう流石に面倒くせぇ」
紫色の装束のリーダー格の男がギンに止めを刺しに一直線に飛びかかる、もうギンに避けるだけの体力も気力も無い。
ギンはそれでも最後まで目を閉じずに前を見据る。
その時だった。
「ギン!」
声と同時、砲弾の様に紫色の装束のリーダー格の男の頭上から何かが落ちてきた。
ドッガァァァァァン
……大轟音、土煙が上がった
パラパラと舞い上がった土砂が落ちてくる、土煙が次第に晴れて中からレオの身長百六十五センチよりもまだ大きい真っ黒い大刀を担いだレオが出てくる。
「大丈夫かギン」
「なんとかな……」
「チッ。クソガキが次から次へと面倒くせぇ」
直撃の手前、紫色の装束のリーダー格の男は後ろに飛び、避けていた。
「クソガキで悪かったなぁ。第二ラウンドと行こうぜぇ!」
「第一ラウンド速攻でくたばった奴が! 吠えてんじゃあねぇ!」
レオが飛びかかっていく先程のレオより確実に落ち着いていた、スピードもキレも格段に良い。
(すげーなこの大刀……気がすげー操り易くなる)
だが紫色の装束のリーダー格の男の方が上手だ。
(クソっこいつやっぱり強い!)
紫色の装束のリーダー格の男はレオの攻撃を軽く捌く。大刀という重い武器、当たれば威力はあるが紫色の装束のリーダー格の男には当たらない。大刀を振るうが短剣をそっと大刀の刃に添えて走らせると、スッと驚く程簡単に大刀の軌道がズレる。
(思い出せ、じじいとの稽古を訓練を修行の数々を剣は振り回してもダメだ。斬るんだ、刃を当て、引く、引き切る。もっとコンパクトに動作を最小に)
レオが集中していく。
大振りの攻撃は次第に型へと移行する。
型とはただ一人で攻撃をしている舞では無い。明確な敵をイメージして、自己の技を一つ一つ確認していく。より合理性を求めより整合性を求め、どんな状況でも同じ様に最高の一太刀を再現出来るよう一つの太刀をより鋭くしていく。
レオの動きが良くなる、振りの一つ一つが冴えてくる動きがコンパクトになり一太刀一太刀に芯が通っていく。ブレない芯が。
(このクソガキ共、一体どんな訓練を受けてやがったんだ、成長速度が半端じゃねーぞ……)
その間にフウがギンの元へ来て魔法で回復させている、そして白爺さんからのプレゼントを渡す。
「これ、白爺からのプレゼント」
ギンは涙が溢れそうになるのを堪えて、受け取る。
銀色の手甲か籠手といった感じだすぐに左手に着けるかなりしっかりと調整してあるのだろう、しっくりとくる感じは確かに手甲を嵌めているのに何も着けていないかの様だ、まるで阻害感が無い。
気合いが入る。
「フウ援護を頼む俺とレオで必ずあいつを倒す」
「うん、わかった任せて!」
ギンが戦線に戻っていく
「まぁ大体覚えたわ、お前の剣筋は単調だなぁ」
「うるっせぇー! 言ってろ!」
レオと紫色の装束のリーダー格の男では実力が違いすぎる、これも即ち経験の差。
レオは早くも防戦一方だ、敵の攻撃が早すぎて大剣で受ける事しか出来ない、レオのスピードでは攻撃まで手が回ら無い。
「レオ!」
レオの真後ろからレオを飛び越えての飛び蹴り。
レオに飛び掛かろうとしていた紫色の装束のリーダー格の男からは完全に死角だった、カウンター気味に飛び蹴りが顔面に刺さる。
「グハッ!」
吹き飛び仰向けに倒れた。
初めての有効打、そして……
「もう面倒くせぇ!木っ端微塵にしてやる!」
紫色の装束のリーダー格の男は完全にブチ切れた、体内に魔元素を取り入れて自身の気と練り上げる、明らかに先程よりスピードも上がる。
ギンが短剣を刀で受け止めるが腹を蹴られて吹き飛ばされるのを、レオが受け止めたところに追撃を掛けに紫色の装束のリーダー格の男が一気に距離を詰め。
「吹き飛べ! クソガキ共がぁぁぁぁぁ!」
ガッと光った!
爆発、爆炎。
ドドッゴォォォォォン!
爆音が響く。
フウが援護しようと隙を伺っていたが
「あ……ギン、レオ……」
爆炎が舞い上がっている。
放心状態になっているフウは自分の見ている光景を正しく理解出来ているのか自分でも分からなかった。
爆発のその手前ほんの僅かな瞬間にギンとレオの二人が思う。
(やべぇ……死ぬ……)
(しくじった……)
その時頭の中で機械的なアナウンスが流れた
《システムW.L起動、敵性を確認、これより戦闘動作の補正・補助を開始します》
ギンとレオの気が膨れ上がる様に練り上げられる、普段では自身で扱いきれない様な力だ。
紫色の装束のリーダー格の男の手から放たれようとしている魔法の塊にギンが掌を自ら腕を伸ばして当てた。相手の魔法の構築を一瞬でシステムが解析する相手の魔法と同じ物がギンからも放たれた。
ラーニング、白爺から受け継いだ力の一端がシステムにより発動した。
爆発が起こるが爆発の指向性をお互前方に向けている、爆発の威力は互いに同じで相殺された。
爆炎が晴れると、地面には重なる様に少しズレた2つの小さなクレーターがあった。
「クソガキっ何しやがった!」
(俺と全く同じ魔法を使いやがったのか、完全に相殺された……殺れたのは黒いガキだけか)
ギンは爆炎と爆風を相殺したが、縛っていた髪は解け風に靡いている。
レオは二つの爆発に巻き込まれた形だ。
「……」
ギンは無言だが思考はある、身体が勝手に動く様な感覚だった、相手の魔法を解析して相殺、今までの自分ではこんな事は出来ない。
(多少爆風は受けたがダメージという程のダメージもない、なんだこの身体から出てる赤いのは、これが守ってるのか? レオはどうなった?)
フウは道場の近くで真っ直ぐ爆炎の方を見ていると次第に土煙が晴れ二つの人影を見つける。
(ギンだ、良かった生きてる。でも何あの薄っすら見える赤い炎みたいな纏わりついているのは、アレ?! レオは! レオはどこ?)
余りの出来事に思考も定まらない。
直後、紫色の装束のリーダー格の男は、呆けている、フウに標的を変更する。
「クソっ! 取り敢えず殺れる奴からやるしかねぇ!」
標的を定めてからは早かったあっという間にフウの元までたどり着く、そしてその手の短剣を振り下ろした。
(しまった……気を取られた……ここで死ぬ……)
フウの頭の中でもシステムのアナウンスが流れ。
反応よりも早く身体が動く、最小限のバックステップ、すれすれの所で紫色の装束のリーダー格の男の短剣の攻撃を躱し、白爺さんから自分へのプレゼントだった二丁の拳銃、右手には白地に金色の左手には黒地に金色の銃を構え打つ、ダダダダッ!
(これは、気を発射してる?)
拳銃を見た瞬間に紫色の装束のリーダー格の男は勢いよく横に飛び間一髪躱し距離を取った。
(危ねぇ! なんな……)
思考が途切れるいや、頭が突然危険を察知する、真後ろに気配というか寒気を感じた、直後紫色の装束のリーダー格の男は全力で身を伏せた。
その瞬間、頭上を真っ黒の大刀が横薙ぎに通り過ぎる、あと一瞬反応が遅れたら腰から上と下がお別れするところだった。
冷汗を流しながら、その場から飛び退き、先程の拳銃を持ったフウの方を向き。ーー驚く。
(なんで三人いやがるんだ、あの黒いガキは爆炎で木っ端微塵になったんじゃねぇのか……)
レオは爆発の瞬間、白爺さんによって封印されていた能力、影転移をシステムが勝手に使い道場の影へ転移していた、そして今度は紫色の装束のリーダー格の男の影へ転移し真後ろから攻撃したのだ。
三人を良く見ると表情は無表情になり痛みや苦痛も無さそうで、程良く脱力している身体にはうっすらと赤い炎の様な気を纏っている。
(あれは……気なのか?)
それになんだあの不気味な目は、気持ちが悪い、三人共に瞳がうっすらと赤く発光している、慌てて移動するが、しっかりと捉えられている。
「気味悪ぃんだよ、クソガキどもがぁ」
吠えて、雄叫びを上げ全力で突撃する、レオが先に前に出て来て大刀の一撃を見舞う。先程までとはキレもスピードもパワーも段違いだ短剣で受ける、受けた手が痺れる。
(クソっなんつー力だ、腕が痺れてやがる)
後ずさる紫色の装束のリーダー格の男にギンが追撃する納刀状態で一息に距離を詰め、抜刀、鞘の中で加速された一太刀、躱しきれずに右の肘から下を切断された。
(こいつら……コンビネーションも遥かに良くなってやがる、それに白いガキが俺の身体能力強化に回してる気を減らしてやがるのか?!)
さらに逃げようとしたところで膝に痛みを感じた、ギンとレオの隙間から片膝をついた低い姿勢で二丁拳銃を構えるフウが見えた。
(不味い、殺される……どうする……一か八か)
レオとギンが止めの一撃を入れに全速力で迫る。
紫色の装束のリーダー格の男の右腕をギンが左腕をレオが肩の辺りから切断した瞬間
「お前らぁぁぁぁ必ず殺してやるからなぁぁぁぁ!」
大絶叫だったそして、紫色の装束のリーダー格の男を中心に先程よりも更に大きな爆発が起こった。
自爆。
爆炎と爆風の中からギンは爆発を相殺して爆心地のクレーターから出てくると、顔や身体は爆風の砂埃で汚れているが、本人はそこまで大きな怪我などは無いようだ、レオは影転移で道場の近くまで移動していた。
土煙が晴れると紫色の装束のリーダー格の男は木っ端微塵になったのか何も残ってはいなかった。
《敵性の反応消失、システムダウンします》
ふっと力が抜ける、三人共に倒れた。
「は……ハハ……なんとか、勝ったぞ」
「あぁ……勝った」
「うん……うん……」
痛え身体中が痛えとレオが倒れたまま言っているが、ギンがその満身創痍の体を引きずって大事な人の元へ急ぐ。
「じじい……じじい! 勝ったぞ!」
「ギ……ン……」
微かに聞こえたギンと名前を呼んだ白爺の声が。
「フウ! じじいが生きてる、早く回復してくれ!」
「うん今すぐやるから! 痛っ……何?!」
フウが回復魔法を使おうとすると、身体中に、更に痛みが走った。
「フウ……辞めなさい……回復をしても無駄じゃ、それに……あやつに……やられたから、死ぬ訳では無い……。お前達は今システムで……無理矢理に気……が通る道を広げた、本来なら……長い時間を……掛けゆっくりと広げる道を……痛みはそのせいじゃ。……それに儂はもうもたん……ギンに全てを……託した時点で決まっていた。お前達……良い人生……あり……と……生きて……くれ……」
じじいじじいとギンとレオが暫く呼び続けた、フウはただひたすらに白爺さんを見ていた。
最後の白爺の顔は誇らし気に笑っていた。
本日はここまでとさせて頂きます。
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