二話 最悪な誕生日 前半
ついにこの日が来た!
誕生日だ。
三人は朝早くから目が覚める十四歳の誕生日、数日前からずっとソワソワしていて誕生日が頭の中を過ぎると居ても立っても居られなかった、しかし遂にやってきたのだその誕生日が!
「おっはよー!」
フウが元気良く挨拶をしたギンはあーとか言いながら中々起きれないギンは朝に弱かった、レオはしっかりと起きていた。
「おう、おはよう」
フウに元気良く挨拶を返し、ようやっとギンが寝惚け眼を擦りながら起き上がり挨拶をして朝食の準備をしに行く、足取りがフラフラしている。
フウは洗濯に朝から急いで取り掛かる、レオは前々からフウが作っていた今日の日の為の飾り付けをする為に道場に向かう、今日は集落の皆んなも来てくれる。
今から楽しみでしょうがなかった。
飾り付けは大したものではない、紙を切って貼ってして大きな文字の形にして、ギン・レオ・フウ誕生日おめでとう、と貼ってあるだけだ。紙もこんな集落では貴重で余り沢山は使えない、それでも集落の皆んなが三人の為に少しずつくれたのだ。
「良いじゃん良いじゃん良い感じじゃねぇ」
正午には皆んながそれぞれプレゼントや食事を持ち寄って来てくれる、そうしたら誕生日パーティーの始まりだ。
今から楽しみで仕方がないフウは洗濯を大急ぎで終わらせる。
「フンフフーンフンフンフーン」
鼻歌を歌いながらお気に入りのシャツとスカートを着て準備している、シャツもスカートも集落のお姉さんが集落から街へ出て行く時に貰ったお下がりだが凄く気に入っていた。
レオは何時もの道着を着ていて特に服装なんかは余り気にしていない様だ、ギンに至っては寝惚けたまま朝食を作っている。お昼には皆んなも集まるので多目のお昼ご飯も一緒にTシャツにパンツ一丁に赤い前掛け(貰いもの)といった出で立ちでドンドン調理していく、理由を全く知らないで見たら新手の変態である。
「……良いな、我ながら良い味だ」
独り言を言いながら味見の時に腰に手を当てる癖が変態度をグングン加速させる、最早衣服や格好に興味があるないのレベルでは無かった。
フウに見られすぐに道着に着替えさせられた。
今は七世帯くらいしか無い集落では皆がお昼の誕生日パーティーに向けて準備をしていた、昨日道場にやって来ていたリックの父親も今日の為に昨日は持って行かなかったジャイアントバッファローを丸々一頭持って行くつもりで解体した肉を部位毎に分けて荷車に乗せて準備している。
「こいつは美味いぞーリック」
「こりゃギン達も喜ぶだろうね」
と涎を垂らしかけているリックにおいおいダメだぞ食うのは向こう着いてからだからな! とか言いながらリックの父親ゼインも必死で我慢している。さその隣ではリックの母親が持っていく料理を作っていた、この日は集落の皆んなにとっても半ばお祭りの様な感じになっているのだった。
そんな集落を一望できる森の中で数人の紫色の装束を着た男達が集落を観察している。
「あんな場所に隠れ住んでやがったか、こりゃ探すのに苦労するわなぁ」
「集落の方はどうしますか?」
「抵抗されりゃ仕方がねぇだろ集落の方はどうなってもいいんだ、大事なのはあっちなんだからなぁ」
そんな事を言って森に隠れて集落へ向けて移動して行った。
集落ではそろそろ出発する為に皆んな集まって白爺さんの家へ向かおうとしているところだった。
「皆んな準備出来たかー? 忘れ物すると取りに戻るの大変だからなー、今確認して忘れ物のない様にしてくれよ」
最終確認をして出発に備えていたその時だった。
「おー? これからパーティーでもするところだったのかなぁ、いや〜悪いんだけど中止だなぁ」
突然現れた紫色の装束の集団に驚く集落の人々は何処からこの集団が出て来たかも分からなかった、最初に喋った紫色の装束の男が集落の人達に問いかける。
「この集落にさぁ、白爺さんとかってのが居ると思う、いや居る筈なんだけどさぁ何処に居るか知っている人は速やかに教えて下さい」
なんだかふざけた様な態度で質問してくる紫色の装束の男に対してゼインが何の様だと聞き返す、その時後ろにサインを出して仲間のハンターに白爺さんにこの事を伝える様に頼む、後ろにいたハンターが全力で爺さんの家に向かって走りだす。
すると。
「あー……そういうのはいいんだ……面倒くさいから本当に、面倒なのは嫌なんだよなぁ」
プシュッという音がゼインの左隣から聞こえた隣にいた仲間のハンターの一人がいつのまにか首を裂かれていた。血が噴き出して倒れていく、集落の女、子供が絶叫している。、ゼインは今の紫色の男の動きが見えなかった時点で自分では勝ち目が無いのは分かったが、それでも集落の皆んなを守る為に腰に挿した長剣を引き抜き構える。右隣にいたハンターもボウガンを構えた。
「なんなんだお前達は!」
怒鳴りつけるが紫色の装束を着た男は何も気にせずに、そうゆうの良いからさっさと爺さん出してよと言ってふざけた態度でからかう様にニヤニヤしている。
ボウガンを構えていたハンターが我慢ならず引き金に指を掛けたその瞬間、頭からナイフを生やしていた。
「だから言っただろう、さっきからそういうのはいいって君達精々がDランクハンターでしょ? Cくらいはあるのかな……まぁどっちみちランクは直接強さではないけど流石にその程度のランクに俺達をどうこう出来る筈は無いんだからさ、集落……全滅させたくは無いんでしょ?」
ニヤニヤしながらそんな事を言っているのを見てゼインはどうするべきか迷うなんとか時間を稼ぎながら白爺さんの応援を待つか、戦うかしかし戦っても勝ち目は無い
(どうするこのままでは全滅だ……少なくとも俺一人でこいつらをどうにかする事は出来ない……)
紫色の装束のリーダー格の男が顎で先程ハンターが走っていった方を指す、すると部下達なのか他の紫色の装束達がハンターが走って行った方を追いかける様に動き出す。
「もう用事は済んだ様なものかなぁ多分あっちにいるんでしょ?」
(仕方ない……俺では無理だ……白爺さんすまない)
「わかった言う通りにしよう」
ニヤニヤしながら紫色の装束が頷いている。
爺さんの家に続く参道を全力で走るハンター、道は荷車が余裕を持って通る事が出来る広さはあるが決して整備されて走りやすい道という訳では無いが
(クソ! なんなんだあいつらまともじゃない……俺達ではまず勝てない……)
息を切らして呼吸もままならない程の全速力で走る、後少し。
なんとか爺さんの家に着く全力で叫ぶ
「爺さん! 集落が! 集落が襲われた!」
その時家の中で各々が作業をしていた四人は、突然の叫び声に気が付いて外の方へ顔を向ける。白爺さんが道場の、倉庫から出て来た。
「道場の中から出るんじゃ無いぞ……儂が行く」
爺さんが道場の外に出ると集落のハンターがホッとして息を吐くそして背後からすぐに紫色の装束達が現れた。
爺さんの家までたどり着いたハンターは音もなく攻撃され自分が何をされて殺されたかも分からず頭を切断されていた。
「なんじゃっ?!」
(この動き……気……普通では無い。強化されておるな……)
道場の中で三人は壁の隙間から様子を窺っていた。
初めて見る実際の戦闘、三人は突然の知り合いの死に頭が真っ白になっている。
何故、こうなったか分からないこれから楽しみにしていたパーティーが始まるんじゃ無かったのか、美味しい物を食べ飲み、皆んなと談笑してプレゼントを貰って、特別で幸せな時間がやってくる筈だったのに。
「は? ……何なんだよあれ」
「なんなのよ……」
「……あいつら……」
レオとギンの頭に血が昇っているのが分かったフウが二人を抑える。
「ダメ白爺も言ってたでしょここから出るなって」
それでもレオは場を食いしばり。
「ただ見てろっつーのかよ……クソっ……」
「熱くなるな冷静になるんだ……」
ギンは自分に言い聞かせるように呟いている。集落はどうなってるんだ、集落から来たハンターの人数は一人だ集落には後三人のハンターがいる集落から応援が来れば大丈夫だと、そんな風に考えて三人は道場の壁の隙間から外を見ながら耐えている。
集落では紫色の装束のリーダー格の男がニヤニヤしながら集落の人達を殺していっている。
子供達など反応も出来なかった庇おうとした先生も背中を斬られて死んでしまった。リックの母親もリックを庇おうとしたがリック諸共一瞬にして胴を横薙ぎに両断されてしまう。
「な……なん……なんなんだ、何故こんな事をするんだ、何の意味がある……言う通りにすると……言ったじゃないか……なのに……なんで……」
ゼインは口をパクパクさせながら目に入ってくる映像が処理しきれない極限の緊張状態と経験した事もない程のストレスを全身で受けて、視界が明滅する。何がどうなっているのかも分からない、余りの現状に嘔吐すら我慢出来なかった。
「もう遅いなぁもっと早く言う通りにしてりゃこんな事にはならなかったかもしれないのによぉ」
わかんないけどなぁなどと言いつつ紫色の装束のリーダー格の男が笑いながら言っている、集落は完全に全滅だ残っているのも既にゼインだけである。
ゼインはもうどうでも良かった勝てる勝てないでは無く唯目の前の人物を殺したいと強く願う。
そして手の中にある長剣を構え直して一直線に紫色の装束のリーダー格の男目掛けて全身全霊の力を込めて長剣を振るう。
「うおぉぉぉあぁぁぁぁ!」
半身になって容易く躱す、力み過ぎだってと言ってそっと通り縋りに足を出し、ゼインの足に引っ掛けると簡単にゼインが転げ回る、転がったままの勢いで立ち上がり雄叫びを上げて切りかかる
「いやいやいや、そんな実力じゃ無理だって」
笑いながら言って大上段から振り下ろされた長剣を半身になって躱し、振り下ろされた長剣を踏みつける。
ゼインは剣を動かそうとするが動かない、そのまま至近距離から顔面を殴られ剣を手放し倒れる。
「まぁそんなもんだよなぁ、ああ忘れ物だよ」
手放された剣を引き抜き一直線に投げ返すとゼインの腹に剣が突き刺さり地面に縫い付けられた。
ちょっと遊んじゃったけど先を急ごうかと言って笑いながら部下を連れて紫色の装束のリーダー格の男は山を登って行った。
白爺さんの家の前では六人の紫色の装束達が白爺さんを囲んでいる。
逃がさない様にしているだけなのか、攻撃する様子は無い。
「儂も舐められたもんじゃな……」
即座に白爺さんが気を高める、反応した紫色の装束の連中は咄嗟に危険を察知して攻撃態勢に入った。
瞬間、六人が一斉に全周囲から攻撃してくる、白爺さんが前方に出て一人目に掌を突き出す、すると前方にいた紫色の装束が吹き飛ぶ、続けて右側に蹴りを出す、また吹き飛ぶ、次を肘打ち、次を掌底、蹴り、回し蹴り、とここまで一瞬普通の人間なら紫色の装束が自分で突っ込んで自分で吹き飛んでいった様にすら見える。
パンパンパンと拍手が聴こえてきた。
「いや〜凄い凄い、普通の爺さんじゃ無いとは聞いてたけど、こりゃ想像以上だなぁ。六人あっという間に殺っちまいやがった」
(どうやってやりやがった、あいつらはあれでも最新技術で強化された人間だぞ、一般的に戦える程度でどうこう出来るはずねぇんだがなぁ……)
「なんじゃ、お主らは一体何の目的でこんな集落を襲ったんじゃ、金目の物などなんにも無いぞ」
(触れて分かった、やはり強化人間じゃな。だが強化人間の技術まで……)
「そりゃあ見りゃ分かるでしょ、こんな辺鄙な過疎集落に金目の物探して襲いになんか来ないでしょ」
「では何故……それにお主ら……強化されておるな?」
「なんだ爺さん、強化人間を知ってんのか。あれおかしいな、この技術は完全に秘匿されてる筈なんだが、まぁそこまでしってんなら分かってんだろ何が狙いかもよ」
「儂に用があるだけなら集落の人達は関係無かった筈じゃ、何故ハンター達を殺した?」
(やはりあの忌々しい文明……技術を誰かが復活させておるな……)
「あぁ面倒くせぇな……本当に面倒くせぇ……集落でも言ったんだけどよぉそういうのいいからっ!」
さっさと目的の物出しやがれとリーダー格の男が白爺さんに向かって動き出す、早い! 一瞬で距離を詰め蹴りを放つ白爺さんは咄嗟に腕を交差させ防御するが吹き飛ばされる。家の壁をぶち抜いて家の中で止まる。
「くぅ……何ちゅう威力じゃい……威力を相殺出来んかったか……」
(間違いない強化人間。それもさっきの奴らより気の総量もコントロールも桁違いじゃ、あやつら三人が見つかれば不味いな……)
ガラガラバキバキと家の崩れる音がする、その中をズカズカと歩いてくる紫色の装束のリーダー格の男は何処にあるのかなぁとふざけた様に言いながら歩いてくる、そして白爺さんと目が合う
「爺さんもう分かるだろ?」
(チッ、一発で動けなくするつもりで蹴った筈なんだが違和感があるな、気を減らされた様な向こう側から逆流したような)
その瞬間爺さんの手の中に突然、白い鞘に納められた刀が虚空より現れ爺さんが刀を握るのがリーダー格の男の目に入る。
途端に爺さんの姿が視界でブレる。
(なっ! 速い……鞘で殴られたのか?)
ズガッという音と共に家を壊しながら家からリーダー格の男が地面と水平に飛んで出てくる。
ガラガラと家の崩れる音がする中からゆっくりと鞘に納まった真っ白な刀を手に白爺さんが歩いて出て来る。
「なんだよやっぱり持ってんじゃねぇかそいつ……」
ふっと一息に白爺さんが距離を詰め鞘に入ったままの刀でリーダー格の男を打ち付ける四、五発の連打、五発目でリーダー格の男が地面を擦りながら飛ばされた。
笑い出す。
「爺さんよぉ……やりたい放題やってくれんじゃねぇの、結構痛かったぞ……」
(クソっ! 鞘で殴られただけの威力じゃねーこっちが防御の為に練った気が霧散させられる様だどういう技術だ)
先程よりも明らかに強い気が感じられた、今度はリーダー格の男が一息で爺さんの元まで距離を詰め腰に挿してある長めの短剣で攻撃する、白爺さんは鞘で受ける、リーダー格の男は蹴りや短剣の連続攻撃で爺さんを追い込む。
「ほらぁ! さっきまでの勢いはどうしたんだぁあぁ? まさかもう終わりかぁ?」
白爺さんは防戦一方になっている、もう十年若ければと思うが年齢はどうする事も出来ない。
(老いたものじゃ。最早、抜く事もできぬ……か。これ程に力が無くなるとはな……この程度の相手の気も完全に制御出来なくなるとは……)
ドカドカと攻撃を受けしかし致命打を避けてはいるが徐々にダメージは蓄積していく、堪らず距離を取ろうと後ろに跳ぶが張り付く様に逃がさないリーダー格の男、執拗に嬲るように爺さんを攻撃していく。
道場の壁の隙間から外を見ていたレオが我慢の限界なのか震えているのを、フウが全力で押さえている。
「離せ! じじいが! このままじゃじじいが危ねぇんだぞ!」
「今アンタがいってどうするのよ! 足手まといになるだけじゃない!」
「………くっ……」
ギンも唇を噛み締めて堪えているが。
その時白爺さんが遂に限界を迎えた、動きが鈍った一瞬の隙を突いてリーダー格の男が隠していた投擲用の短剣を投げた、白爺さんの膝の上くらいに短剣が刺さっている。
「クッ……しまった……」
掠れる声で呻く、これでは最悪逃げる事も出来ない、どうすると考えていた時により最悪な方向に事態が動く。
ギンが飛び出して来た、声も出さずに一直線にリーダー格の男の後ろから飛び掛かる。
「おしいなぁ」
見向きもされずに蹴り飛ばされる、声も上げられず吹き飛ばされて転がっていく、その直ぐ後に雄叫びを上げレオが突撃していくが首を掴まれ持ち上げられそのまま地面に思い切り叩きつけられる。
「グホッァ」
肺の中の空気が全部押し出される、悶絶、途端に声も出せなくなる。
「なんだなんだ、まだガキがいたのかよ、ん? こりゃ意外と使えるか……」
「やめてくれ、そいつらだけは助けてやってくれ頼む……」
「うーん、まぁ俺としてはこのガキ共は別に関係無いから良いんだよねぇ……」
「なら……」
「生きてても死んでてもな!」
地面に仰向けで倒れ苦しんでいるレオを、グッと力を込めて踏み付けるレオが更に肺から酸素を押し出され苦しみ脚を掴むがどかす事など到底出来ない。
フウがギンの元へ行き肩を貸して起こしている、そちらを見てリーダー格の男がニヤニヤしているのを見た。
白爺さんは思う。
(儂の命はどうなっても良い。必ずこの子達だけはなんとしても殺させる訳にはいかん、それが儂の責任じゃなんとしても!)
そして。
「わかった言う通りにしよう…それで子供達だけは助けてやってくれ……頼む……」
「良いだろうガキ共には手は出さないでやる」
(まぁお前を殺った後に脚は出ちゃうかもしれないけどなぁ)
「じゃあその刀そこに置いて貰おうか、あぁ変な動きはするなよ少しでも違和感を感じたらこのガキを潰すからなぁ」
「わかった、儂が刀を置いたらレオを、お前の元におる子供を儂に寄越せ……」
「いいぜぇ」
爺さんが刀を、足元に置くとレオを連れてリーダー格の男が来たそして白爺さんに投げ渡す。
「レオ大丈夫か、レオ!」
返事も出来ない程にダメージを受けているが微かに目を開けていて、意識はあるようだ。
脚を引きずりながらギンとフウの元へ向かい歩く後ろでリーダー格の男が刀を拾っていた。
「こんな刀がねぇ、そんなスゲーモンには見えねぇけど余程大事なモンなんだろうねぇ」
回して色々見て見るが特に変わった所がある訳でも無く何の変哲も無い唯の刀にしか見えず、しかし引き抜こうとすると全然引き抜けない!? 全力で手に力を入れて引き抜こうとしても微動だにしない。
「クソッなんだ? 全然抜けねぇぞっ……」
爺さんはレオを連れてギンとフウの元に着き三人を抱きしめていた
「今から大事な話がある良く聞け儂はこの通りもう持たん……」
「ダメだ……じじい……」
レオは爺さんに抱き抱えられたまま手を伸ばそうとするが、手が上がらない
「ギン時間が無い、これからお前にある物を託すお前にしか託せない物だフウはレオと道場の倉庫の中に行け、その前にレオ」
そう言ってレオの腹部に触れ、白爺さんが頭の中で解と念じる、レオの力の一部を解除した。
レオの能力は危険だった、影転移という影から影へ転移出来る力を持っていた。まだ乳児期のレオが天井の明かりの傘の影に転移し落下した事があり、危険だとこれまで爺さんが封印していた能力だ。
もう少し訓練を積み気の制御が上手く出来る様になってから解除しようと考えていたが現状では今しか無かった。
「お前の封印していた、影転移の能力を解除した使い方は自ずと分かるはずじゃ。歩けるかレオ」
フウは先程からレオに回復の魔法を使っている、だが回復とはいえ劇的に回復したり即座に傷口が塞がる訳では無い、それでも少し良くなったようではある。
「なんとか歩ける……」
(影転移ってなんだ……?)
「よし、ではこれからギンに儂の全身全霊を託す、合図をしたらレオとフウはすぐに行け、ギンは儂とここに、時間が無いやるぞ!」
爺さんが集中すると莫大な気の奔流が白い炎の様になり渦巻いた。
「ギン、レオ、フウ済まないな誕生日がこんな事になってしまった、お前達は必ず生き延びてくれ! 行け! フウ、レオ!」
フウは涙を拭いながらレオの手を引き走りだす。
その時、紫色の装束のリーダー格の男が莫大な気の奔流を感じて後ろを振り返り異変に気付いた。
「何やってやがるお前ら!」
(な? なんだありゃなんつー量の気だ……)
その瞬間リーダー格の男が手にしていた刀が消える
「何?! 刀が……どこ行きやがった」
手の中にあったはずの刀が無くなり辺りを見回すが見つからず動揺する。
ギンと爺さんを包んでいた気の白い炎が収束していき、次の瞬間影も残らない程の光量で二人を中心に光が放たれる。
「なんだ……何にも見えねぇぞっ、クソッ何しやがった!」
爺さん達の所まで距離を詰め様と走り出した瞬間に光に当てられ止まる。目を瞑ってもまだ白くなる程に眩しい、前も後ろも分からなくなる程に白い光だ。
光の中で二人は互いに見合い、白爺さんの手の中に白い鞘に収められた刀が現れる。
「ギンこれは七天ハ刀という魔元素と気の塊で出来ている刀じゃ、儂にはもう引き抜く事も出来ぬ、これを儂の全ての力と共にお前に託す、受け取れ、お前ならきっと抜けるはずだ」
「じじい……」
泣きながら言う
「じじい、俺こんなの要らないよじじいと皆んながいればそれで良いよ!」
「そうじゃな出来ればそれが一番良い、だが今はこれしか方法が無い。二人を頼むぞ必ず生き延びてくれ色々伝えたい事はあるが時間が無い、お前達ならやれるはずじゃ」
そうして優しく笑った爺さんがギンにそっと刀を渡す、暖かく優しい白い炎の様な光を宿した真っ白な刀をギンは涙を拭い、覚悟を決めて受け取る。
今迄に感じた事も無い程の力がギンの中に逆流してくる、膨大な気だ。
しかし意外な程に不快感などは無くすんなりと入ってくる、なんだか懐かしい様な当たり前にある様なそんな優しい感覚だった。