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向かう(一つ目)ending

不意の事態に、


「ひぃやぁあ!」

「わぁぁあ!!」

「ぎゃーーー!」

「どわあ!」


えらいびっくりした。


「こぉぉぉっちこぉぉぉぉぉおい」


トイレから呼ばれている。

誰かいる。


こんな時間に?

夜中の学園のトイレに誰かがいるなんてありえるのか。


怪しさが半端ない。


「…えっ、どうしよ」

「だっ、だれだろー?」

「トイレ!?なんでトイレ!?」


あれ、


「いや待て」


ダメだろ。それはダメだろ。


「どうしたんだよソルト、心当たりがあるとかか?」

「今の声、男のものだよな」

「えっ、そうよね」

「おじさんぽかったねー」


そうだ。男性の声だ。間違いない。


「それじゃぁなんで女性トイレから声がしたんだ」

「あ、ホントだ」


恐怖の震えが止まり、驚愕の鳥肌が立った。


「どうする」

「えっ、ふつうに怖い」


先ほどの恐慌状態が嘘みたいに冷たい椎名。


「ちょっと確認してくるわ」


易意を連れて俺は女子トイレに入った。

女性を連れて行くのは流石に良心が痛い。



「女子トイレってこんな配置なんだ」

「ふつう一生知ることないもんな」


パッと見、怪しいものはない。ないが、


「あ」


個室が一つ閉まっていた。


「…」

「…」


使用中だ。錠が閉まっている。


ノック、するべきだろうか。

わからない。


「どうなってるの?」


入口辺りから椎名が状況を聞いてきた。


「個室が一つ使用中だ」


一応、返事しておく。


「ノックしなさいよ」

「えっ」

「そしたら花子さんって呼ぶの」

「なにそれ」

「新手の間違い電話の方法か」

「いいから四の五の言わずに試す。だまされたと思って」


まったく意味がわからない。

はなこさんて誰だ。

まあ、いいか。


コンコンとドアを叩く。


「はなこさんはいますか」


喉辺りがぞわぞわした。


「はぁぁぁぁぁあ、いぃぃぃぃぃ」

「ひぃえ!」

「うわっ、ほんとにいる!?」


がちゃん。

ぎぎぎぎぎぎきぃぃぃぃいいいい、心の臓が軋みそうな異音を立ててドアが開く。


そこには、用務員のおっさんがいた。


「ほんとに花子さんがいるの!?」

「わー待ってよ椎名ちゃーん」


さすがに気になったのだろう、二人が女子トイレに入ってっきた。


「…ぁ」


そして見てしまった。


「よぉ学生ども、こんな時間に学園にいたら危ないぞ」


女装したおっさんがいた。


「…キャァァァァァァア!!!」


椎名が気絶した。


――――――――――――――――――――



「…はっ!?」

「あー起きたー?」

「あっ、うん、起きた」


酷い目眩と恐怖が心臓を締め付けている気がするけど、起きないともっと危険な気がする。

なんだか忘れていた夢を見ていた気がするけど、思い出せないからいいや。

そんなことよりも気にしないといけないのは。


「えっと、さっきすごいものを、いや人を見た気が…」

「よっ、元気か嬢ちゃん」

「わっきゃぁぁぁああ!」


私は全力で壁まで逃げた。絶対にやばい、生理的にやばい。

あ、逃げ場がない。馬鹿か私。


「今から重大なことをバラすから聞いとけよ」


しかしそんなことを気にせず何かを語ろうとする女装おっさん。


「あの」

「どうした、塩」

「ソルトです。あなたは何者ですか」

「何って」


両手を広げ、何も怪しかしないだろと言わんばかりに


「ただの用務員だよ」


そう主張する、見た目五十代の女装したおっさん。


「いや絶対変だから!!」

「この世界は今年の入学式の日から狂っている」

「何で女装してるんですか!!…はぁっ?」


やっと吐き出せる、そう言わんとばかりに顔に疲れと溜め息を吐きながら彼は口を開いた。


「事の始まりは校長だ。あいつは頭皮が寂しいことをずっと嘆いていた」

「えっいや待って貴方は何を」

「入学式の前日、この学園にある伝説の槍にあいつはヅラを握りしめて本気で願った。髪を生やしてくれ、とな」

「だから…一体な…に…を」

「おい大丈夫か椎名!?」

「椎名ちゃーん!?」


脈絡なく頭痛が起きた。やばい、痛い。

けれど彼の独白は止まらない。


「そんなあほ過ぎる願いが、世界を改変した」

「…あれ?…なに、この記憶…あれ?」

「塩の瓶が歩いていて、犬が生徒会長するような意味不明な世界にな」

「いたい…やめて、痛い…?」


私の記憶の認識が、間違っているみたいに。


「俺があいつを止めるべきだった。髪は諦めろと、今の自分を受け入れろと言ってやるべきだった」


忘れていた記憶が無理やり今の私を襲う。

私の認識を無視して。


「嬢ちゃん、今はお前だけが頼りだ。この世界を、あいつを救ってくれ」


まるで世界の命運を掛けた戦いかのような台詞だ。


「待って、一体何が」


頭がふわふわして現実味が湧かない。


「…えっ」


けれど誰も私を待ってはくれなかった。


「あれ…?」


トイレにはあの用務員がいない。

それどころか私以外気絶している。


「知ってしまったか…!」


私の背後、トイレの入り口から誰か入ってきた。

それは今一番あってはいけない人だった。


「…校長先生、皆んなに何をしたんですか」

「教える必要はないものだ」

「さっきの話は…本当なんですか」

「…それは君の記憶が知っているんじゃないかね」


苦虫を噛み潰したみたいな表情で校長は私の質問をはぐらかした。

私は記憶の混同で、実は夢なんじゃないのかとすら思っている。


「…わかりません、今の私の記憶が正しいのかどうか、まるでわかりません」

「あっはっは、そうか」


校長は少しだけ辛い顔をした。


「そうなのか…」


校長の髪の毛が、突然にゅるりと伸びていく。


「ヒッ、きもい」

「知ってしまったからには、仕方がないことだ」


手足に髪の毛が絡み付いていく。

強烈な睡魔に意識が抗えない。今寝てしまったら危険だとわかっているのに。


「こ、校長…」

「ワタシは、これを失うわけにはいかないのだ」


その声には強い執念が籠っていた。


校長の髪の毛が風もないのにゆらゆらと揺れている。


最後に見えたものは、妖しく光る棒だった。



私ははまだ忘れたままだ。


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