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吸血鬼さん、報告する1

「で、初ダンジョンはどうだった?」

 深紅のドレスを着た『狐』は、そう尋ねてくる。

 場所はいつもの『狐』のバー。時刻はお客さんの居なくなり、片付けも終わってかなり経つ午前四時だ。ここに帰ってきて早々お店の手伝いをさせられたのには面食らって、今は貸しカウントを増やすか悩んでいる。それ位には忙しかった。

「とりあえず下れるだけ下って、第五十二層まで行った」

「……相変わらず凄いわねえ」

 『狐』はそう感心する。私はそれに苦笑して答える。

「あそこはあなたの能力とは相性悪いからね。自分が苦手なことだから凄く思えるだけだよ」

「と言うことは、何か分かったのかしら?」

 やっぱり、私にダンジョンについて探らせるつもりだったのか。こういうことするから『知り合い』止まりなのに。

「そりゃあねー。というか、『狐』もさあ。頼みごとがあるなら素直に言ってよ」

「そうしたら借りが増えるでしょう?」

「残念言わなくても増えますー」

「知っていたけれど、相変わらずがめついのねえ」

「失礼な。細かいって言ってよ」

 軽口をたたき合ってから、私は本題に入る。

「少なくとも、今のところあのダンジョン『鳥取砂丘ダンジョン』に出てくるモンスターは、全部単純なプログラムで動くものばっかりだね。砂丘の時間による変動も、風紋から見るに規則性があった。十中八九人工物だよ、あれは」

「なるほどねえ。誰が何のために作ったのか、気になるねえ」

「あー。何のためかは検討ついてる」

「もう?」

 久々に『狐』の驚く顔を見た。良い気分だ。

「まあね。あのダンジョンを存在、起動させるエネルギーの大元は、この星の地殻エネルギーで間違いない。地殻の歪み、ひずみを吸収して、それを呼び水に『何処か』からかエネルギーや物質を汲み上げている。その汲み上げる過程で、この星の『コア』に微量の熱を与えるのが、あのダンジョンという『装置』の本質ね。他のダンジョンのデータがいるけれど、まず間違いなく、ダンジョンは地球の地殻運動の延命装置よ」

「……あなた何年間ダンジョンに入ってデータ集めたの?」

「十時間弱かな?」

 呆けた様子の『狐』に正直に答えると、彼女に呆れられた。解せぬ。

 微妙に納得出来ていない間に、『狐』はため息交じりに話し出す。

「一応、私の方でも情報は集めていたのよ」

「てことは、例の方法で?」

 ぱっと思い付いた方法に顔をしかめると、『狐』は「ネットを覗いただけよ」と悪びれずに言った。これ絶対機密サーバー覗いているよ。相変わらず凄いことするなあ。

「で、覗いた結果どうだったの?」

「せっかちな人は嫌われるわよ?」

「来年から気を付けるよ」

「あなたらしいわね。では、お望み通りに」

 『狐』はようやく元の調子に戻ったようだった。

「地球連邦のダンジョン研究所の解析結果だと、全てのダンジョンが地殻エネルギーを消費しているところまでは分かっているのよね」

「その様子だと、全世界のダンジョンのデータがあるのね。見せて」

「はいな」

 『狐』が幻術で表示した、半透明の地球儀から生えた糸みたいな数字をざっと見る。

「……うん。このデータ通りなら、地球という星本体から宇宙空間に放出される熱の半分相当が、ダンジョンが稼働することで供給されているね」

「なるほどねえ。でも、こんなことをする意味が分からないわねえ」

「だね」

 確かに、こんなことをすれば、地球という星が活動し続ける時間は伸びるだろう。だけれど、そうしたところで、十億年後には太陽からの熱で地上の生命が死に絶えるのは変わらない。その前の太陽風が強まる段階を防ぐためなら、意味は分からないでもないけれど。

「というか、こんなこと思い付くなんて、一体何年生きるつもりなの?」

「もしくは、人類がそれだけの間地球だけに留まると思っているか、ね」

 どちらだろうが、いささか気長に過ぎる。あの『神』ですら、地球に留まっていたのは一億年ちょっとらしいのに。

「……全く意味が分からないなあ」

「私も混乱しているわ」

 二人して頭を抱える。

「単純に地震や火山活動を減らすためにしては大袈裟過ぎるし……」

「……案外、その程度しか考えていないのかもしれないわよ?」

「その場合の犯人は人間かあ」

「どうして断言出来るのかしら?」

「化け物や『神』は反物質弾頭で蟻一匹を殺すようなことはしないからね」

「凄い説得力ね」

 『狐』は深々と頷く。一方で、こんな疑問もある。

「でも、人間にこんなものを作る技術ある?」

「無いわねえ」

 そうなのだ。いくら魔力という事象改変素子を使ったとしても、今の人間の脳では、ここまでのものを、これ程多く造り上げることは出来ない。研究中の量子コンピュータを使えば、演算能力だけは足りるだろうけれど、魔力を動かすのは『意思』の力だ。あれだけ精密な亜空間を設計出来るだけの意思は、人間の脳では持つことが出来ない。

「訳が分からないなあ」

 結局、謎は深まってしまった。だけれど、『狐』は違うようで、ニコニコと楽しそうに笑っている。

「そうかしら? 私はだいたい予想がついたわよ?」

「お? なら聞かせて?」

 頼むも、『狐』は右の人差し指を唇に当てる。

「ヒ・ミ・ツ」

「あー確信が無いのね」

 今までの付き合いから察して言うと、『狐』はわざとらしく不満げな表情をした。

「全く、もう。つまらないわねえ」

「何年の付き合いだと思ってるのよ」

「さあ? 忘れたわ」

「私も九百年以上ってことしか分からないなあ」

 何かツボに入ったのか、『狐』は楽しそうに笑った。

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