吸血鬼さん、ダンジョンに潜る2
「んー……」
たまに現れるサンドハンドを文字通り蹴散らして居る間に、第十層まで来た。ビー玉は十四個集まり、吹く風に混じった砂で全身砂塗れだ。お気に入りの柄入りの白の半袖Tシャツとジーンズを着てきたのだけれど、これは失敗したかもしれない。
「せめて長袖にしたら良かったかなあ……?」
それはともかく。
幸運なことに、サンドハンドの発見方法はすぐに分かった。そこだけ魔力が停滞しているのだ。ついでに、いる場所を出てくる前に踏むと硬い。
そうして拾って集めたビー玉に感じる違和感は、どれも同じ類のものだった。ということは、これらのビー玉には何か共通点があるのだ。
「出来れば、ビー玉以外のもの、欲を言えばサンドハンド以外のモンスターからドロップするアイテムが欲しいんだけどねえ……」
同じモンスター、同じ反応しか返して来ない存在のデータを集めるなら、最低千回単位でやらないと意味が無い。生憎今日一日でそれをやるのはものすごく面倒だし、あくまで様子見に過ぎない今日やるべきは、浅く広く、データを集めることだろう。
他には、第八層で偶々落ちていた一センチ角位の板状の砂金のナゲットを拾ってはいるけれど、こいつは単純に地殻エネルギーが物質に変換されただけのものだったので、多分ビー玉とは関係ない。
「いや、」
関係ある、のか? 情報が足りなさ過ぎる。
「さて、冊子によると、十層にはボス『ビッグサンドハンド』がいるらしいから、期待は持てるよね」
サンドハンドとは違うモンスターらしい。単に太っただけなものをそう呼んでいる可能性もなきにしもあらずだけれど。
「多分、あれかな?」
それっぽい反応はもう掴んでいる。
このダンジョン、単に下の階層に降りるだけなら、降りたところから下へ繫がる洞窟までほんの一キロメートル程しか無い。だけれど、階層の広さ自体は、だいたい直径十キロメートル、高さ一キロメートル程の円柱になっている。その以外と広い空間の中から、一体だけ異なるモンスター、しかも隠れているものを探すのは、至難の業なのだろう。見つけたけれど。
「この出てきたところから見て、下に降りる洞窟の右手ニキロの位置かあ。結構近いね」
サクサクと砂を踏みながら進む。途中一サンドハンドを一体蹴飛ばしただけで、特にこれといって何か起こることもなく、ビッグサンドハンドっぽい反応の十メートル手前にたどり着けた。
「何もなさ過ぎて怖いなあ」
止まることなく歩き続け、そして。
ざっと湧いて現れた砂の手は私の左足で踏み潰された。
「これがボスなら、この階層までは安全っていうのは納得いくね」
せいぜい、サンドハンド二体を同時に踏み潰したらこんな感じになるだろう、程度の感触だった。
「さーて、ドロップは、と…………」
そこには、心臓くらいの大きさの水晶玉が落ちていた。
「………………これだけ?」
特に違和感はサンドハンドのビー玉と変わらないし、ショボいし。少しだけ残念だ。
「はあ……」
肩を落とすも、すぐ切り替える。
「ま、第十一層からは『サンドパペット』って人形擬きが出てくるみたいだし、そっちに期待かな?」
サンプルは多い程、データの正確さが増す。だから、私は気持ちを切り替えて下の階層へ向かいつつ、喉に骨の刺さったような違和感を覚える。
「何か忘れているような……」
歳を取ると、どうも忘れっぽくなる。昔からそうだったという自説もあるけれど、それは虚しくなるので考えない。
「あー何だろ?」
何を忘れているのか全く思い当たらず、こう、ムズムズする。
「こういう時は蜂蜜飴でも舐めて落ち着こう」
ウエストポーチから自作の飴を取り出し、舐める。
「我ながら美味しい」
お手軽に作れるので私の腕はあまり関係無いけれど。単に素材が良いせいだろう。
「あの蜂達元気か……な……」
思い出した。
「そうだ! 稼がないといけないんだった!」
こんなチンタラ良く分からない違和感を頼りにこの謎空間の謎を解いている場合じゃない。私は、稼いで畑を買わないといけないのだ。
「そうと決まれば稼げるらしい第二十層まで降りるか、第八層で砂金掘りするか……」
第八層の反応を思い出す。
「あー駄目だ! そもそも第二十層のデータが無いから判断しようが無い!」
どうも冷静じゃない。私は五回深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「良し、とりあえず第二十層まで降りる。道中で倒せるモンスターがいれば倒してドロップを回収。ここからが問題。第二十層の反応からどっちが儲けやすいか判断してから、第八層か第二十層で稼ぐ。それとも、今日のところは階層を降りられるだけ降りて、データ集めに徹する。どっちにしようか」
悩んだのは一瞬だった。
「今の時間は……午前十時。鳥取駅へのバスの最終便は午後七時。なら、十三時までは止まらずに、むしろ急いで降り続けてデータ集めに徹する。で、稼ぐのは後日にする」
これが、将来的には一番稼げるだろう。
「じゃあ、行くかあ」
軽く気合いを入れ、私は砂を蹴った。