ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ
ある夜のこと
友人に聞いた話である。
富山の田舎街の、その一家は、血筋的に霊感が強い一家だったようだ。
私の友人は、その家族の子ども(当時高校生)と友達で、その子どもがある朝、真っ青な顔で学校に姿を現した。
どうした、と聞くと、彼はこう語ったという。
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前日の夜、真夜中をすぎた頃だったらしい。
突然、玄関をノックする音が聞こえた。
彼は、不審に思って玄関まで行った。その時には、もう音はしなかったという。
そこで、空耳だったかと思い、再び自室へ戻った。
しばらく経った頃、再び玄関を叩く音がした。
それも、かなりの勢いである。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
激しくドアが叩かれる。まるで誰かが、助けを求めるかのように、ここを開けてくれと懇願するように激しくドアがノックされる。
彼は、怖かったが再び玄関までやってきた。そうすると祖母が立っていた。祖母も、その音を聞いたのだ。だが、ドアを開けることはしなかった。玄関に来たとき、すでにその音は止んでいたからだ。それに、得体が知れないものがドアの向こうにいないとも限らない。もしも強盗や発狂者だったら危ない、そう思ったそうだ。
それで、二人は顔を見合わせて部屋に戻った。
すると、再びドアを叩く音がする。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
激しく、こぶしで叩き付けるような音。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
彼は、祖母の部屋へ行き、それから父親の部屋へ行った。二人で相談した結果、父親を起こし様子を見てきてもらおう、と結論を出したのだ。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
音がする。だが、玄関まで行くと、その音は止んでしまう。
父親は、それでもドアを開け、庭先まで出て、それから表の道路をチェックした。
そこには、誰もいなかった。
とにかく、誰もいないことを確認して、その夜は様子をみようということになった。
その後、音はしなかった。
翌朝になって、彼は学校へ行くために慌てて玄関から外へ出た。
その頃には、昨夜のことも忘れかけていた。とにかく、学校へ行かなくてはならなかったし、実のところ、彼の家では不可思議なことなど、そう珍しいことでもなかったからだ。
霊感一族なのである。
そうして、玄関のドアを「バタン」と閉めた。
そうして彼は悲鳴をあげることになったのだ。
玄関のドアには、まるで血まみれの手で叩き付けたかのような跡が一面に残っていたのだ。
実話である、という。私の創作ではない。
実際に友人の同級生が体験した話なのである。
私の友人が創作したという可能性も無くもないが、彼は、こんなに良く出来た怪談を作れる知識も技術も無いから、まずそれは有り得ない。
なので、本当にあった怖い話である。