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惜しみない愛を、君に  作者: 塔守
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七話 彼女さえ問題無いなら、別に僕としては何も障害は無い

 妙中さんは先日のことをしばらく気にしているようだった。


 けれど、そのうちに僕が本当に頓着していないということが感じ取れたのか、今までよりも気軽に接してくれるようになった気がする。


 今までのお付き合いの中で妙中さんについて分かったことが幾つかある。


 まずは、非常に細かくメモを取り、またそれを読み返すこと。


 その割に忘れっぽかったり、会話の最中の訊き返しが多かったりすること。


 まあ、忘れっぽいからこそメモを取るようになったのかもしれない。自分の弱点を補う方法を身につけているとは、大変立派な姿勢だと思う。


 お付き合いを始めてから十日ほど経った。


 そろそろ学年末テストの時期であり、お互いに勉強する時間も確保しなければいけないね、と帰りの電車の隣り合った席で妙中さんが言った。


 僕としては普段の勉強量で大丈夫なような気もしていたけど、彼女にそれが必要ならば特段反対意見を述べる必要性も感じなかったので、黙って頷いた。


 今日2月11日は建国記念日で二人とも学校は休みだったため、改めて予定を立てて、映画を見に行った。妙中さんに選んで貰った漫画原作の恋愛SFだ。上映中作品の一覧の中にあった動物ドキュメンタリーも気になったが、今度一人で見に来れば良いかと思った。


 妙中さんには感想を訊かれたので「美味しかった」「面白かった」と正直に答えておいた。


「ロクちゃんはテストって何日から何日?」


「17日から20日ですね」


 僕の学校は土曜日も元々半日授業があるので、水木金土の四日間で行われる。学年末テストなので、音楽や保健体育などの実技系も実施される。覚えておくべきことは多いが大体は既に頭に入っていると思う。


「うちは24日からだからまだ余裕あるけど、ロクちゃんの方はもう一週間しか無いんだね……」


 何故か妙中さんは僕を上目遣いで見る。


「14日だけ、会えないかなあ……」


「日曜日ですね。構いませんよ」


 彼女さえ問題無いなら、別に僕としては何も障害は無い。


「本当? やった!」


「良かったですね」


 彼女が喜んでいるので僕としても良かったと思う。


 妙中さんは挙げていた諸手を中途半端に下ろして「う、うん、良かったよ」と言った。


「でさ、ロクちゃん……」


 結局、下ろされた手は相互にもじもじと動き、視線は自分の靴先から扉の上の電光掲示へと落ち着きなく動き続けた。


「はい、なんでしょう」


「次で、ロクちゃんの降りる駅だね」


「そうですね」


「明日もお話出来るかな」


「電車が一緒であれば」


「……」


 彼女は一瞬虚ろな顔になり、すぐに頭を振って「どうしよ……」と小さく呟いた。


 再び視線を電光掲示に走らせると、「文蔵氏としては、この点どう思われる所存でアリマスか」とおかしな口調で言った。


 今日に限らず、彼女は時々誰かの物真似をしているらしいのだが、残念ながら僕にはそれが誰なのかも質問の意図も分からなくて「この点とは?」と訊き返してしまった。失礼なことをしただろうか。


「……」


 妙中さんは明らかに気まずい表情を浮かべていたが、駅へ到着のアナウンスとともに電車は停止し、ドアが開いた。


 僕としては明らかに話が途中のこの状況なので、このまま乗って行って彼女を見送ってから折り返しても構わなかったのだけれど、彼女は「いいでアリマスから」と何度も言って、僕を送り出した。


「では文蔵氏、ごきげんよう」


 僕は彼女が誰の物真似をしているのか最後まで分からなかった。

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