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惜しみない愛を、君に  作者: 塔守
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五話 これはいわゆるデートというやつなのだろうかと気が付いた

 妙中さんは例の大きなダイアリーを取り出し、何やら確認している。何ページかめくって、「文蔵さんは映画はご覧になりますか?」とダイアリーに視線を落としたまま言ったが、すぐに視線を上げて「映画をご覧になる趣味はございますか? 特に、気になった映画を映画館へ見に行くような習慣はあるでしょうか」と訊き直した。


「映画は滅多に見ません。物語の娯楽ということであれば(もっぱ)ら本ですが――」


 僕はそう答えてから彼女を見て、「――妙中さんに何か見たい映画があるというのであれば、行きましょうか」と付け加えた。


おそらくこう答えるのが合っている。先程のやりとりなどから学習した。


「ありがとうございます、では2月7日の日曜日、文蔵さんと映画……と」


と言いながら彼女は六色ボールペンでダイアリーに予定を記入しているらしいが、角度的に僕からは見えない。


 待ち合わせ時刻と場所を決めて、その日は別れた。


 見たい映画は当日までに妙中さんの方で絞ってくると言っていた。


 駅から家まで歩いている最中に、これは所謂(いわゆる)デートというやつなのだろうかと気が付いた。


 もしそうなのだとすれば、おそらく僕の知らない何らかの作法やしきたりや禁則事項などもあるのではないだろうか。


 なにせ僕は今までそういった経験が無いのだから。彼女に不快感を味わわせたり恥ずかしい思いをさせたりしてはならないので、僕は考えたが、答えは出なかった。


 翌朝、妙中さんからメールが届いた。


――楽しみだね! 初デートだから、お互い気張らずにいようね。午前中に映画を見てから、お昼ご飯を一緒に食べる感じでいい? わたしはなるべく可愛い服着ていきます


 というようなことが書いてあったが、僕の行動の指針としては具体性に乏しくあまり参考にならなかった。


普段は制服姿でしか会っていないので、当日違う服を着てしまうと、妙中さんは僕のことを見つけることが出来ないのではないかと心配になり、僕は制服を着て出掛けることに決めた。


 持ち物としては、交通費と映画代と食事代の入った財布と連絡を取り合うための携帯電話はすぐ決まったのだが、ノートやペンなどは必要だろうかしばらく悩んで、結局は鞄に入れた。最後に、移動中に読む本を手にして僕は待ち合わせ場所に向かったのだが、その日妙中さんは待ち合わせ場所に現れず連絡もつかなかったため、僕は持って行ったハードカヴァーの小説を読み切ってしまった。

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