三九話 好きだ
ロクちゃんは電車内で老人に席を譲っていた。
降りる時には、立ち上がるのを手を引いて助けてあげていた。
赤ちゃんがおもちゃを落としたのを気付いていない母親に拾って渡してあげていた。
痴漢に間違われたサラリーマンの疑いを晴らしてあげていた。
車内で大声を上げるおかしな人に絡まれた時も平然と相手をし、そのうちその人も大人しくなってしまった。
夕方なのに車内に現れた酔っ払いの盛大な吐瀉物を、咄嗟に鞄から取り出したビニール袋で受け止め、あまつさえその酔っ払いを次の駅のホームで介抱してあげていた。
凄い。
この人は凄い。
表情一つ変えず、見返りも求めず。
凄い。
好きだ。
この人に好かれたい。
この人なら、自分を受け容れてくれるかもしれない。
名前も分からない。制服と鞄で学校は分かったけど、何年生かは分からない。
もし今年で卒業してしまうのなら、もうこの電車で会えなくなってしまうかもしれない。
去年のわたしは、そう思って、勇気を出した。
その結果、今、とても幸せだと思う。
自分のこれまでの人生は順風満帆とはほど遠いとは思っていたけど、今、この少し変わった恋人の横に居られることをとても嬉しく思っている。
ロクちゃんを好きになって、良かった。
ロクちゃんに愛されて、良かった。
有限で無償の愛は今、他の人の一六倍も、わたしに向いている。
「えいひれでいいのでしょうか。やはり」
時々良く分からないことを言うけど、まあ、そこも好きだ。
惜しみない愛を、君に MINAGI sixteen
Fin.
どうも作者です。いつもは紙媒体の同人界隈で活動している凡人です。本作にてWEB小説デビュー。楽しんでいただけたらいいのですが…。感想などありましたらTwitter(tou_mori)までコソッと聞かせてくれたら泣いて喜びます。また「惜しみない愛を、君に」収録の『告白/グッドバイⅠ』も文芸系同人即売会などで頒布中です。ご興味あればリプライ・DMください。もし頂けた場合、喜びのあまり徳島市で孤独に阿波踊りを踊るかもしれません。ポイントは群れて踊らないところ。同じアホでも真のアホは一人で踊ってもへっちゃらです。……ではまた別に機会にお会いしましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。
※本作はWEBアマチュア小説大賞応募作品です。




