三五話 「ハア!?」
急いで階段を駆け下りる。彼女が真っ直ぐ帰宅するなら来た道をそのまま辿るはずだと考え、僕は駅に向かって走った。
エレベータと階段でついた差を縮めながら、ようやく追いついて捕まえることが出来たのは駅に近い橋の上だった。
「妙中さん――十六夜さん」
「呼ぶんじゃねえよ掴むんじゃねえよ」
十六夜さんは振り返り怒気のこもった目でこちらを見据える。
「お前は――ジブンの――あいつらのことなんて別に好きじゃないだろう! お前は、いつも、求められれば応えるだけで、それは海凪の好意を反射しているだけにすぎない」
僕は――
「どうせこいつと二度と会えなくなっても、お前は明日からもずっと変わらず生きていける。そういうものだと納得して、ずっとその調子で、な。お前は――そういうやつだ」
僕は――
「確かに僕はそういう人間かもしれません。――今は」
「だから放せ」
「お願いです。聞いてください。今日お呼びしたのは、決して妙中さんを嫌いになっただとか、別れようとだとか、そういう意図は無いのです。全く無いのです」
「――放せ」
「むしろ、逆なのです。妙中さんの中に何人居るのかはっきりすれば、僕はあなたの愛し方が分かるかもしれないと、そう思って」
「はな――ハア!?」
きっと、この気持ちも考えも、他の人には分からないだろうとは思っていたけれど、思わず十六夜さんが力を抜いてしまう程には意味の解らない発言だったようだ。




