二七話 「妙中海凪一六歳。今日も一日、今日一日は特に、頑張ります」
携帯電話のアラームがけたたましく鳴る。
わたしは上体を起こし、アラームを止めた。そわそわしたまま眠りは浅かったので体が重い。
今日も部屋の入り口近くにかけてある鏡に向かい、隈が出ていないか確かめながらこう言った。
「妙中海凪一六歳。今日も一日、――今日一日は特に、頑張ります」
毎朝の儀式である。
そしてわたしは机の上から、ダイアリーを手に取る。念入りに目を通したら、一階に降りて朝食を準備しているママに挨拶した。
今日の放課後、ロクちゃんの家に招かれていた。
ゴールデンウィークの始まる前日。
思えば付き合い始めてそろそろ三か月になる。
今日は文蔵家の両親は仕事でどちらも居ないという。
自分としてはもう、ハグでもキスでも求められれば喜んで応じる程に彼のことを好いていた。そもそもが自分の告白で始まった付き合いだ。自分が彼を好きなのは初めから明らかなので、
課題があるとすれば彼に海凪のことをもっと好きになって貰うためにどうすべきか、なのだ。
受け入れられている、とは思う。
しかし、彼が自分のことを好きなのかどうかが、まだ分からないままでいる。
表情は相変わらず読めない。そこはもう、諦めるしかないかもしれない。
少し迷ったふりをしたが、今回の誘いがあった時点でわたしは心の中ではすぐに行くことを決めていた。
「連休始まるね。どこか遊びに行こうか」といった話をしたのだ。
いつもならわたしが出した希望をロクちゃんが受け入れる形なのだが、その日は彼が珍しく提案してきた。
彼がおかしなことを考えているわけはないと思ったし、二人の仲をステップアップさせる、いい機会になるとも思った。
むしろ少しやましいのは自分の方だとさえ言えるのでは、と一人赤くなった。
考えてみれば、当初から彼は、何の躊躇もなく家へ誘っていたのだ。
今更何も戸惑うことは無い。
わたしはそう考えていた。




