二一話 今後調査を重ね、適正価格にてお返し出来るよう努めていきます
レアチーズがお菓子に分類される食べ物だとは知らなかった。そもそも、チーズを使用したお菓子というもの自体初耳だったので、まさかケーキ屋に売っているとは思いもよらなかった。せめてレアチーズケーキと言ってくれれば僕でも分かったのだが。それにしても、こんなこと まで教えてくれた秋津先生は教師の鑑だと思う。
4月10日の日曜日。
僕は待ち合わせの時間の前にケーキ屋を巡ってレアチーズを入手してきた。
今更ではあるけれど、好きな食べ物だと以前聞いて知っていたので少しでも喜んで貰えるといいのだけれど。
「ロクちゃんお待たせ」
「妙中さんこんにちは」
待ち合わせ場所である駅前に現れた妙中さんは明るい色の薄手のコートを着ていた。今回は事前に白いリボンを着けてくると知らされていたのですぐに見つけることが出来た。
「視界に入るなりずー……っと見つめられてると照れちゃうよ」
「そうなのですか。ちらちら見た方が良いですか?」
「それも……」
妙中さんは笑みを崩さなかったが、眉頭辺りに何か感情が表れていた。
「ところで妙中さん、こちらをどうぞ」
僕はずっと手に持っていたケーキの入った箱を妙中さんに差し出した。
「えっ、何、これ」
「ホワイトデイのお返し……いや、ヴァレンタインのお返しがホワイトデイですか?」
「えっ、今日……4月10日だよ?」
「昨日知りました」
「何を?」
「ホワイトデイという行事について」
「――ロクちゃんらしいね、えへへ」
妙中さんは笑顔になった。どこか安心したようにも見えた。
「開けていい?」
「どうぞ」
ベンチに座って膝の上で箱を開ける。
「わあ」
中身を確認した妙中さんは明るい声を上げた。
「わたしの好きなもの、覚えててくれたんだ」
「はい。以前教えて頂きましたので」
「わあ……」
全貌を現したレアチーズを見つめて、先程とは少し違う声色で息を漏らした。
「ロクちゃん、ありがとう! 凄く嬉しい!」
「それは良かったです」
「……それを踏まえて、二つ言ってもいいかな」
「どうぞ」
彼女はケーキをもう一度見つめてから顔を上げてこう言った。
「ホールだよ、高いよねこれ!」
「ホール?」
僕の頭には一瞬講堂が浮かんだが、wholeの方か。そうすると、ホールでないものというと、円の中心点から鋭角の扇形に切り取ったものか。そちらでも良かったとは知らなかった。
「すみません、比較対象の情報が不足しているため、高いかどうかは分かりかねます」
「なにかの答弁みたいだよ!」
何故か手の甲で叩かれた。妙中さんがそこまで激昂しているようには見えなかったのだが。因みに三五〇〇円だったのだけれど、ケーキとして、お菓子として高いのだろうか。
「わたし、三倍返しとか絶対言わないからさ、もっと、手頃なのでいいんだよ。そもそも……わたしの食べさせたチョコでロクちゃん……」
妙中さんは俯いてしまう。
「そのことは気にしないでください。価格についてはひとまず承知しました。今後調査を重ね、適正価格にてお返し出来るよう努めていきます」
俯いた彼女の方から「フグッ」となにやら勢いよく息を漏らすような音が聴こえた。




