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惜しみない愛を、君に  作者: 塔守
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二〇話 「ノロケか!」

「困っている――というか良く分からないことなら」と前置きして僕は、「先生はホワイトデイというものをご存知でしょうか」と訊いた。


 秋津先生は前にせり出したままの身体を一瞬固めて、「え、うん。ヴァレンタインのお返しをするあれのことですね」と何やら力なく答えた。


「僕は恥ずかしながら今日までその存在をきちんと理解していなかったので、妙中さんに何もお返ししていなかったのです」


「ち、ちょっと待って、文蔵君。過程を飛ばして話してはいけません。妙中さんという先生の知らない人名がいきなり出てくると先生も混乱してしまいますから、順序立てて聞きましょう」


「申し訳ありません。妙中さんとは僕が今お付き合いしている女性です」


「――そ、そう、文蔵君、付き合ってる子がいるんですね――ここの生徒?」


「いいえ」


「高校生なの?」


「そうです」


「なるほど……いいですね。いや、そうではなくて。それで妙中さんは、ヴァレンタインデイに文蔵君にチョコレートでもくれたんですね?」


「はい。嘔吐してしまいましたが」


「――過程!」


 先生は何故か自身の太もも辺りを叩きながら大きな声を出した。


「僕は自分でも知らなかったのですが、カカオアレルギーだったようなのです」


 先生は何故か後頭部をぽりぽりと()きながら続ける。


「んん、気を付けてくださいね。学校からチョコレートを渡す機会は無いと思うけれど、世間には溢れています。うっかり口にすると君の場合、嘔吐までしてしまうのですから」


「気を付けます」


「それで、君はホワイトデイの存在を今日まで知らなかったため、その、妙中さんにお返しをしていなかった、と」


「そうです」


「もうひと月近く経っていますね……。3月14日前後、妙中さんは怒ったり、そわそわしたりしていた様子は無かったのですか」


 3月14日のことを思い出す。


 既に春休みだったので毎日のように会っていた。


 その頃の妙中さんは――


「おそらく怒ってはいなかったのではないかと。そわそわというか、普段通りでした」


 当のヴァレンタインに怒られたことがあるのでその時の様子とは比較出来るが、少なくとも怒ってはいなかったのではないかと思う。


「普段からそわそわしているのですか、妙中さんは」


「どっしり落ち着いた感じではないです」


 先生は「ううん」と頭を垂れて少し唸った後視線を上げて、「これは文蔵君とその妙中さんの個人間の問題ですし、今から口にするのは先生の個人的見解ですので、正解とか不正解とか、そういうものではないということは理解して欲しいのですが……」と言った。


「分かりました」


「妙中さんはきっと、文蔵君がホワイトデイというものに考えが至らなかったことに気付いているけれど、自分から言い出せないでいたのではないでしょうか」


「何故でしょう」


「……そういうのは恥ずかしいもの……なんですよ、きっと」


 先生の言葉は急に歯切れが悪くなった。


「恥ずかしいのですか」


「難しいですね、文蔵君は」


「申し訳ありません」


 先生は手を振り、「いえ。そうではないですね。わたくしの常識を押し付けてはいけませんね」と背筋を伸ばした。


「妙中さんとは、お付き合いしてどれぐらいになりますか。ヴァレンタインの話からすると、一年以内でしょうか」


「2月1日からです」


 あの橋の上でのやりとりは、鮮明に覚えている。


「ということはホワイトデイ当日で一月半くらいですね」


 唇に指をあてて先生は考えている。


「先生の私見ですけど、妙中さんってとてもいい子。その程度の期間で文蔵君の性質を良ぉく理解しているからこそ、ホワイトデイを忘れて――いえ、知らなかったことにがっかりもしていなければ怒りもしていない」


「妙中さんは優しくていい人です」


「大事にしてあげてくださいね。――それで、今からでもいいと思うんです。お返しをすべきだと思ったら、したらどうでしょう」


「今からでもいいのでしょうか」


「今日知ったことも全部正直に言ってしまったらと思いますよ、わたくし個人としては」


 なるほど。


「ところで何をお返しすればよろしいのでしょうか。今日、クラスの女子がホワイトデイに、お付き合いしている男性から貰ったという時計について友人と話しているのを聞いたのですが。僕も時計をプレゼントするのが良いのでしょうか」


「時計、ねえ……可愛気のある値段のものならいいけれど……。因みにその妙中さんには何か特に好きなものはありますか」


「妙中さんは僕のことを好きだと言っていました」


「ノロケか!」


 先生は何故か再び自身の太もも辺りを叩いた。


「そういうのではなくて。いつも気に入って身に着けているものだとか、好きな食べ物だとか」


「いつもダイアリーを持ち歩いています」


「ダイアリー? 鍵付きの?」


「いえ、鍵は付いていません。大き目のビジネスダイアリーです」


 先生は少し身を乗り出してすぐに引っ込めた。


「なんだか渋い女子高校生ですね……でもダイアリーをもう一冊プレゼントしても仕方ないし……やはり、一般的なお返しであるお菓子とかが良いでしょうか。妙中さんの好きなお菓子は知っています?」


「お菓子……お菓子無しでは生きていけないとは言っていましたが」


 何か特に好んで食べていたものはあるだろうか、と思い出しているとふと閃くものがあった。


「先生、レアチーズとはスーパーのチーズの売り場にあるものですか?」

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