一八話 「修行じゃん!」
「妙中さんはスペースインベーダーは分かりますか」
「インベーダー……なんとなく」
不安げな表情で答える。
「1978年、社会現象まで引き起こしたと言われるスペースインベーダーという作品は国産シューティングの記念碑的作品です」
妙中さんはスペースインベーダーの現物を見たいと言ったが、近所のゲームセンターもといアミューズメント施設にはクレーンゲームなどのプライズマシンとレーズや音楽のゲーム用の大型筐体ばかり置いてあるので、今度一緒にそういったレトロゲームも置いている店に行こう と約束をした。
「インベーダーに象徴されるように、多くのシューティングは、プレイヤーの操作する一機の『自機』が、多数の敵を射撃によって倒してゆくゲームになっています」
向かいでは懸命に、妙中さんがダイアリーに書き込んでいる。
「もっとゆっくり話しましょうか」
「大丈夫」
「そうですか。ここまではよろしいですか」
ダイアリーに目を落としたまま頷いたのを確認して続ける。
「ゼビウスは分かりますか」
妙中さんは一旦顔を上げて首を横に振る。
「インベーダーは固定画面型のゲームでしたが、見下ろし型の画面が縦方向にスクロールしてゆくシューティングの初期の代表がゼビウスです。インベーダーでは、倒すべき敵は初めから画面上に全て表示されていましたが、縦スクロールのシューティングではステージが上へ上へ進行していき、それに伴って背景も変わり、敵も現れては去って行ったりします。道中、大型の敵も現れ、行く手を塞ぎます」
「ボス敵だね」
「そうですね。それ以降のボスという存在とは多少趣が異なりますが、その元祖に近いものと思って頂ければ間違いありません」
妙中さんは一生懸命にメモを取る。
「グラディウスはご存知ですか」
やはり首を横に振る。
「こちらは横から見た画面が右にスクロールして進行するシューティングの草分け的存在です。ゼビウスと違って、明確にそれぞれ特徴的なステージが分かれていてステージの最後にはボス敵がいます。周回という概念があるにせよ、最終面をクリアしてエンディングという流れにもなっている辺り、現在流通しているシューティングの基本的なスタイルに近いです」
「横に進んで行くのはマリオなんかはやったことあるよ」
「では、イメージし易いでしょうか。横スクロールのシューティングの特徴としては、地形があります。つまり障害物ですが。縦スクロールシューティングが基本的に多数出てくる敵機と敵弾を処理することを主にしている作品が殆どなのに対し、横スクロールシューティングでは地形を避けて進む要素を含んでいる作品が多いですね」
「――なんというか、好きだって言うだけあって流石に詳しいね。こんなに喋るロクちゃんは初めて見たかも……」
「必要にかられましたので。それに、これでもかなり省略した部分が多いです」
妙中さんは表情だけで「そうなの?」と言った。
「インベーダーのような固定画面型、ゼビウスのような縦スクロール、グラディウスのような横スクロール。以上三種が、2Dシューティングと呼ばれるジャンルと考えていいでしょう。クォータービューや全方位スクロールという変わり種などもありますが割愛します」
「つーでぃー?」
「二次元の意味です。ゲームが縦横の二軸で構成されていて、奥行きはありません」
「ああ、なーるほど。それに対して奥行きもあるのが3Dなのね」
「その通りです。それで、僕はプレイヤーとしては2Dシューティング専門です」
妙中さんはストローをくわえたが、中身が既に空だったらしく、気の抜けた音がした。
「ロクちゃんが好きなのはそれなんだね。――面白い?」
「面白いか否かは個人の主観ですが、僕は好きです」
「どういうところが?」
「2Dのシューティングゲームは、遊びとしての強度が高いのです」
再び「分からない」という表情をした。
「基本的に、『自機の発射するショットで敵を破壊する』、『敵及び敵弾に当たってはいけない』という二つのルールで出来ています。『撃つ』と『避ける』です。それ以外に緊急回避だとか、スコアの稼ぎだとかのシステムもあるのですが、ゲームの根本を支えているのは、この二つのルールだけです。これが平面上に示されるので、3Dに比べて把握しやすいのもまた、遊びの強度を上げていると僕は考えています」
今度はとりあえず「分かった」という顔をしている。
「極端な話、敵の配置、耐久度、それに自機の攻撃力などのバランスなどが良く出来ていれば、自機のグラフィックがアルファベットのAでショットはI、敵弾がO、敵機がWであっても、上質なシューティングゲームとして成立するのです。勿論美しいグラフィックはプレイヤーの気を惹くことに大いに役立ちますから、全く無くて良いとは言いません。成立するか否かだけの話ですが」
「あー……ちょっと分かるかも。テトリスなんて、白黒でやっても大丈夫だよね。画面が凄く綺麗でもそれで面白くなるわけじゃなさそうだし」
「いい喩えですね。演出周りでプレイの爽快感が向上することは往々にしてあると思いますが、概ねおっしゃる通りだと思います」
妙中さんは「えへへ」と照れた笑いを浮かべ、もう一度ストローに口を近付けたが、空なのを思い出したのかやめた。
「つまり、ルールの基礎がかなり頑強に出来ているのです。それを指して先程『遊びとしての強度が高い』と申し上げました。――しかし、その分、ジャンルとしての完成が早かった。現在に至るまで、シューティングゲームというジャンルはこの強固な土台の上にあります。それは言い換えるならば、進化の停滞です。それでも2Dシューティングを求めるプレイヤーというのは、既に幾多の作品を制覇してきた猛者が多いですから、生半可な作品をリリースしても、受けませんでした」
「受けなかったの?」
「シューティングゲームの新作はアーケード、つまり家庭用ゲーム機ではなくゲームセンターでまずはリリースされることが多かったのですが、ゲームセンターを運営する側にとって良いゲームとはどんな作品だか分かりますか」
「え――、出題とかあるんだ。ええと、儲かるやつ?」
僕は頷く。
「インカム――売上が取れるものですね。対して、プレイヤーにとって良いゲームとはどんな作品でしょう。ゲームセンターでお金を入れて遊ぶ際を考えてください」
「うーん、まずは面白くないとね。それに、すぐ終わっちゃうのは嫌だよね。つまり――長く遊べるやつ?」
「そうです。つまり、先鋭化されたプレイヤーはワンコインで延々遊べてしまうので、店側は儲からない。店側の要望を叶えるには、インカムの見込めるような作品をリリースしなければならない。そうするとどうなるか。――ジャンル全体の難度上昇が起こりました」
「難しくなっちゃったの?」
「なりました。かなり早い段階から、高難度のジャンルと言えますし、今もって、クリアするのは難しい作品ばかりです。攻略――この場合はワンコインクリアを指しますが――は三か月だとか一年だとか継続して、ようやく達成出来るもの、という認識で良いかと思います」
「修行じゃん!」
目を丸くする、とはこういうことを言うのだな。
「コンティニューすれば30分から長くても1時間で程度でクリア出来るんですけどね」
「……ますます修行じゃん!」
妙中さんは僕の説明を聞きながら書いた、数ページに亘るメモを見返して、「学校で勉強した気分」と言った。
褒められた。
「そういう側面があることは否定出来ません。僕が好きな作品は90年代後半から00年代前半、僕らの生まれた前後の頃の作品です。先程説明した進化の停滞と高難度化によってプレイヤーが絞られ、リリースする制作会社の数も減ってきて、その分会社ごとの特色がよく出ている頃だと思います。それに難しいと言っても、家庭用に移植された作品にはほぼ難易度を選択する機能が付いていますので、最低難度にして遊べば求道的な感じはなくなり軽い気持ちでクリア出来ますよ。それに、二人用というのもありますし」
「二人用? 一緒に出来るの?」
妙中さんの目の色が変わった。
「そうですよ」
「やってみたい! ロクちゃんと一緒に!」
「……」
「……駄目?」
「いえ、アーケード作品はなんだかんだで難しい作品が多いですからね。どれを勧めようかと考えていました。見繕っておきますので、今度ご一緒しましょうか」
妙中さんは、取れてしまうのではないかというくらい首を縦にぶんぶんと振った。




