一七話 趣味というと、余技、つまり専門以外の技芸ということだ
「ロクちゃんの趣味ってなあに」
ある日ファーストフード店で昼食を摂りながら訊かれた。
趣味というと、余技、つまり専門以外の技芸ということだ。
「電車で一人の時なんかはよく本読んでるじゃない。図書館でも大抵何か読んでるし」
「読書はそうですね。特段技芸とは言えないかもしれませんが、余暇の過ごし方としてはよく行っています」
「固いよ……」
なにか頑強だったり堅牢だったりしただろうか。ハードカヴァーは確かによく読む。しかしそればかりではなくソフトカヴァーも新書も文庫も読むのだが。
「わたしもロクちゃんの好きな本とか読んでみたい」
「そうですか」
「何かあるかな。わたしでも楽しめそうなの」
「講談社ブルーバックス『死因事典 人はどのように死んでいくのか』など好きです」
「……もう少し読んでて楽しい気持ちになれそうなのがいいな」
楽しいと思うのだけれど。女性との感性の違いというやつだろうか。
「あすなろ書房、知のビジュアル百科シリーズ『ミイラ事典』などは――」
「一旦事典から離れようか! 人の最期からも離れよう! そうだ、小説にしよう、小説っ。お勧めの小説」
「小説ですか」
「出来れば――読み易いのがいいな。楽しそうなやつ」
「読み易い――楽しそう――」
僕の読んだものの中から、何か適当なものがあるか思い出す。
「飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』」
「それ絶対わたしの言った条件満たしてなさそう!」
「安孫子武丸『殺戮に至る病』」
「わたしの話聞いてた!?」
困った。
「いいや、分かった、今度一緒に本屋行こう? そこで教えて?」
「分かりました」
難しいものだ。
「あ、そうだ」
妙中さんは元気よくこちらを向いて両手を打ち合わせ、後ろで結んだ髪が一拍遅れて揺れる。
「ロクちゃんゲームやるって言ってなかった?」
「言いましたね」
「どんなのやるの?」
「主にシューティングゲームですね」
ぴんと来ない顔をしているのが分かった。最近勉強を教えているので、少しずつではあるが妙中さんが「分かっている」のか否かが表情で判別出来るようになってきた。
「鉄砲でバンバンするやつ?」
非常に曖昧な表現である。
「もし妙中さんが、一人称視点で敵と戦うゲームを想像されているのであれば、それは大きなシューティングゲームというジャンルの中に含まれる、ファーストパーソンシューター、所謂FPSと呼ばれるサブジャンルか、主に銃の形の専用コントローラで画面内の敵を撃ってゆくガンシューティングと呼ばれるサブジャンルだと思われます。あるいはそのどちらでもなく、画面の手前側に自分の操作するキャラクターが見えているものを想定されているのであれば、サードパーソンシューター、所謂TPSと呼ばれるサブジャンルですね」
妙中さんは「さっぱり分からない」という顔をした。




