一五話 身をよじっていたのだが捻った手首が痛んだのだろうか。心配だ
図書館では濃い緑色のエプロンをした司書の女性に「可愛いカップルさん今週も来たのね」と言われた。妙中さんが自習席の利用券を受け取る際、身をよじっていたのだが捻った手首が痛んだのだろうか。心配だ。
二階の学習室に入ると、開館の9時からまだそれほど経っていないので空席だらけだった。妙中さんが僕の向かいの席に座り、持参した参考書とノートを取り出そうとしていたが左手 が痛むのか大変そうだったので、申し出て手伝う。
「ありがと」
彼女は小さな声で言う。
僕は小さく頷いて自分の席に戻る。
その後昼まで黙々と自習にあてたのだが、僕は今日の割り当てと決めていた分が見込みより少し早く終わったので、蔵書を見に行った。
高い位置の本を男の子に取ってやったりご老人を探している本の棚へ案内したりしたのち、芸術の棚から大判のダリの画集を持ってきて眺めていた。
今日も妙中さんの方は小まめに集中力を切らしこちらをちらちら見たりして、あまり効率は良くなさそうだった。
帰る際に先程の司書の女性に席の利用券を返却したところ、「あ、きみたち、気を付けてね。近くで女子高校生が通り魔に遭って殴られて重傷だって」と耳打ちしてきた。
「暗くなる前に帰るのよ」と言いながら見送ってくれた。
「心配ですね。気をつけましょう」
「そうだね」
「もう帰りましょうか」
「……まだ真っ昼間だよ。……それに、もっと一緒に居たいし……」
今の自習の復習もしなければならないことに気が付いた。妙中さんは真面目でいい子である。
「でもさ……今の話聞いたらやっぱりちょっとだけ怖いから……、帰りに家の近くまで一緒についてきてもらっていい?」
妙中さんは左半身の体重を僕に預けながら訊いて来た。真っ直ぐ立つのも辛い女性を一人で歩かせるのは良くないだろうということで承知した。




