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惜しみない愛を、君に  作者: 塔守
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一一話 彼女は繋いだ手を前後に大きく揺すって、おそらくは喜びを表した

 休みの日は基本的に妙中さんと会うようになった。


 彼女の希望なので叶えるのが僕の役割だと思う。


 普段の通学中電車内で彼女と会うことも多いが、僕たちはそういう時に当たり前のように、次の日曜日どうしようか、ということを言うようになった。


 休みの日に会う妙中さんの外見は、当然普段の制服姿とは違っていたので、最初待ち合わせ場所で見付けることが出来なかった。いつもの髪型と違って結んでいたりすると、印象は随分変わるし、服装も毎回違うので、これがなかなか難しい。


 だから僕は可能な限り先に待ち合わせ場所に着くように出発、到着後は周囲を注意深く観察、妙中さんの接近をいち早く察知すべく視線を走らせるのだ。


 それでも、前々回は落ち着いた色のロングコートにふわふわしたマフラーをしていたのに、前回は幾つもの缶バッジの付いた黒い帽子に蛍光色の短いダウンジャケットを着ていたりと、こういう印象の女性を探そう、というのがなかなか決まらない。


 お付き合いしている相手を見付けられないというのは交際相手として恥ずかしい。




 妙中さんは、手を繋いで歩くことを好んだ。


 そうしている間、とても嬉しそうなので、僕としても彼女の幸せに貢献出来るのは光栄だと思っている。手を繋いだままだと、ダイアリーに書き込みが出来ない点は困っているようだが。


「よく考えたらさ、ロクちゃんって、一年先輩なんだよね」


「事実を鑑みるにそうですね」


「つまり、わたしが今やってる勉強って、もう去年終わらしてるわけじゃん」


「個人的に中学生のころに修得してしまった部分もありますが――そのように考えて頂いても問題ありません」


「え――先にやっちゃったってこと? なんで?」


 質問の意図を理解するのに少し時間を要したが、そう言えば世間では勉強というのはあまり好まれていない行為なのだと先日妙中さんに教わったことを思い出した。僕には知らないことだらけであることを痛感する。


「面白かったので。つい。それと、他にやることもあまりありませんでしたので」


「暇だから先の範囲まで勉強してたの? 本当に!」


 妙中さんは珍しいものを見る目で僕を眺めたが、「そうすると、ロクちゃんはいいとこの大学とか目指してるの?」と訊いて来た。


 いいとこの大学の定義が曖昧だが、「進路としては、四年制大学を考えています。学部学科に関しては、幾つかの候補からまだ決めかねていますが」と普段から考えていることを口にした。


「ロクちゃんでもすぐに決められないことってあるんだ……」


「ありますよ」


「なんでも即決している印象しか無いんだけど……」


「親の意向がはっきりしていないもので、まだ決定出来る状態にないのです」


 所詮、自分で稼いでいない身分である。親の意向と合致しなければ出来ない行動も多い。


「へえ……。あ、でさ、話、戻すけどさ……」


 妙中さんは少し言いにくそうに体を左右に揺らして、「少し勉強教えてくれないかな……」と口にした。


「いいですよ」


「えへへ。うん、やっぱりロクちゃんは即決だね」


 彼女は繋いだ手を前後に大きく揺すって、おそらくは喜びを表した。


「妙中さんは今、どの程度の成績ですか?」


「……ダイレクト過ぎるよロクちゃん……」


 急に手の振りが小さくなり(しお)れるように俯いてしまった。


「……? すみません」


「この間の学年末テストだと、真ん中より下だし……。それに、ロクちゃんの学校とは偏差値違うから、ロクちゃんの思ってる真ん中より、もっと下だと思う」


「了解しました。今度、とりあえずはノートを見せてください」


「ノート……」


 妙中さんの目の色が少し、変わった。翳ったと言ってもいいかもしれない。


「まとめ方が分かればノートは教科書や参考書よりも強いです。もしノートの取り方に問題があるなら、そこから是正すべきだと思います」


「……恥ずかしいかも」


「? では教科書や参考書中心にしましょうか。僕はそれでも構いません」


 ノートを見せるのが恥ずかしいという感覚や、誤りが是正される可能性を捨ててまで方針を変える理由が僕には分からなかったが、妙中さんが望むなら、否定する道理は無い。

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