去勢してくださいませ。ご主人様❤
「去勢してくださいませ。ご主人様」
馴染みのメイド喫茶『冥土 淫 アビス』にて。
メイド長は薄桃色の唇を震わせてこう言った。
「ちょっと冗談キツイよ、メイド長。まあそういうプレイも悪くないけど」
僕は快感に身を震わせながら『メイドの愛が籠った白濁スムージー』を口にする。うん、喉に纏わりつく感触がたまらなく美味しい。
「私は本気です。その証拠にお医者様も呼んでいます」
メイド長は後方に座っている客を指差す。
あ、あの人ブラックジャックのコスプレイヤーじゃないんだ。
「なんでメイド長は僕に去勢して欲しいんだい? 君には手を出してないだろう」
「逆に私以外の全従業員をお持ち帰りしたからですね。屑野郎」
彼女は敵愾心がむき出しの視線を僕の顔に突き刺す。
まるで仇敵を目の前にした女騎士の様だ。
『オークなんかに負けはしない(ビクンビクン)』って言わせたいな。
「彼女たちとは合意の上で付き合ったんだ。如何わしい事は無い」
「オブホワイトって言いたいんですか?」
「いや、それは違うけど、――ごふぁ」
彼女は無言で僕の溝内に肘を喰らわせた。食道に酸性の液体がこみ上げる。
ふえぇ。白濁スムージーが戻ってキちゃうよぉ。
「そうやって何人のメイドをヤリ捨ててきたんですか。心の底から軽蔑します。ミトコンドリア以下」
そんなに怒んないでよ、メイド長。
それにそう罵倒されると僕の中のミトコンドリアが暴れちゃうじゃないかっ!
「そんなに怒んないでよ、メイド長。それに彼女たちならウチで本業メイドやってるさ」
「はい?」
ただでさえ大きな目を更に見開くメイド長。
「あれ、言ってなかったっけ? 僕が石油王だって事」
結構簡単に出るんだな。石油って。
あ、追加で『萌え萌えオムライス』お願いしまーす。
「は、初耳ですよ。石油王なんてファンタジー世界にしかいない筈じゃ……」
ドンと机を叩きながらこちらに顔を近づけるメイド長。
耳まで真っ赤になっていて実にかわいらしい。
「うん。実は僕、異世界転生して戻ってきた『出戻り勇者』なんだ。異世界で石油を掘り当てたんだ」
「ええっ!?」
いや~、まさか絶頂のし過ぎで転生するとは思ってなかったよ。
これぞ『イキ過ぎ』ってか。女神に白い目で見られたのはいい思い出だ。
「……という訳で皆はハーレムメンバーとして元気にヤってるよ。異世界で」
「ちょっと待ってください。頭の処理が追いついていないの……」
そう言いながら頭を掻き毟るメイド長。
クールキャラを気取っているけど素はポンコツで可愛い。
「で、では聞きますが、なんで私の事は誘ってくれなかったんですか?」
「それは……、それは君を危ない目に合わせたくなかったからだよ」
「へっ!?」
「つまり、君の事が好きだったんだよ、悪いか」
僕は全身全霊の決め顔でそう言った。
「わ、悪くないですけど……」
「ちゃんと答えを聞かせてくれ。メイド長」
「そんなの……”はい”一択ですわ。ご主人様❤」
メイド長はそう言って『萌え萌えオムライス』にハバネロソースでハートマークを書き上げた。
「ありがとう。じゃあこの女騎士の格好して異世界にイこうかっ!」
「そ、それは嫌ですわぁぁぁ」
僕はメイド長の必殺技『顔面めり込みパンチ』をもろに喰らう。*みたいな顔になってしまうという恐ろしい技だ。
ああ、やっぱりメイド長の鉄壁ガードは崩せないか。
だからこそ僕が惚れた訳だが。
そんなこんなで今日も『冥土 淫 アビス』は平和なのだった。