第4話 ついに固めた決意
グレンと壮絶な戦いを繰り広げた雪咲、その戦いぶりに皆騒然となっていた。
皓達は勝利に安堵と嬉しさを得た。
そして国王からまさかの提案が!
「はぁ……疲れた……」
手にしていた木の剣をポイッと放り投げ、その場に座り込む。ついでに、傷だらけの破損した防具もその辺に置いた。グレンの方にちらっと視線を向けると、沢山の兵士達に労われていた。勿論その場にリィナも居る……やれやれとため息をつくと、背後から誰かが勢い良く抱きしめてきた。
「……?」
ゆっくりと視線を向けてみると、そこには冬望と眞弓が泣き出しそうな表情で力強く抱きしめてきた。皓はと言うと、ゲート付近でやれやれと肩を竦めその場から見守っているようだ。
「雪……咲くん……」
眞弓は今にも消え入りそうなほど、か細く弱々しい声で雪咲の名前を呼んでいた。後で皓から聞いた話だと、雪咲が戦っている間ずっと勝ちますように……と祈って居たらしい。
「ごめんな、心配かけて」
優しく涙を拭ってやり、頭をわしゃっと撫でた。すると、少し安心したのか力無く身を委ねてくる。それに比べ……
「馬鹿……馬鹿!何であんな無茶したのよ!!あと少しで負ける所だったのよ?!」
冬望は激しくご立腹のようだ。何をそんなにイライラしているのかは分からないが、ここは少しでも労ってほしいと内心思ってはいたが顔にも声にも出さなかった。
「ちょっと、聞いてるの?!」
「はいはい、聞いてるよ」
適当な生返事をしつつ、優しく冬望の頭も撫でる。すると先程までの凶暴性は何処かへと消え去り、すっかりおとなしくなってしまった。
「何よ……心配してたのに……馬鹿……」
雪咲には聞こえぬ小声で呟き、目元に溜まっていた涙をぐいっと拭っていた。
「お疲れさん、この色男」
誂う様に話しかけてきたのは、皓だった。何故か面白いものと見たと言いたげな表情で、雪咲の隣に座ってきた。
「誰が色男だ……全く……」
ぷいっとそっぽを向くと、誰かに髪に触れられたような感触があった。
「……?!」
驚き、触れた人の方に視線を向けると……眞弓と冬望だった。まるで高級なレースカーテンを触れるように優しく、そして味わうように触りまくっていた。
「……2人共、何してんの?」
「雪咲くん……何で髪長くなってるの?」
「それは俺が聞きたいよ……」
「まるで女の子ね」
冬望の言葉に、眞弓がクスクスと微笑む。まだ目元は赤いが、どうやら泣き止んでくれたらしい。それにホッとしたのはいいのだが、何故か執拗に髪を弄られる。編まれたり、結ばれたりと大変だった。
楽しく?わいわいとやっていると、グレンとリィナが声をかけてきた。
「大丈夫か、雪咲」
「怪我が無くて何よりです」
わははっと声を上げて笑うグレン、ホッと安心したように胸を撫で下ろすリィナ。
「怪我は無いけど、防具を破損させてしまった……やっぱり、調節が必要だな」
苦笑気味に答えると、苦笑で返されてしまった。グレン曰く、最初の打ち込みはほんの小手調べだったらしい。しかし生半可な事では試せないと思ったのか、隙を作るためにわざとフェイントをかけてみたんだとか。
「しかし……」
グレンが頭を掻きながら、言いづらそうな表情でこちらの様子を窺ってくる。理由は大抵察している……が、あえて少し意地悪を言ってみたい気持ちになった。
「何だ、持てる限りの力を振り絞って手加減無しで行くとか言ってた癖に、最初に俺の力を試そうとしたことについての詫びか?」
ニタァっと悪ガキっぽく微笑む雪咲に、グレンはうぐっと声を詰まらせる。
「冗談だよ、グレンが聞きたいのはあの技みたいなものだろ?」
そう、最後の最後で使った”アレ”である。グレンやリィナ、周りの兵士達は何のトリックがあるのかと耳を研ぎ澄ませながら静まり返っていた。だが……。
「アレは技でも何でもない、ただ単に速度を制御できないならと思って暴走させてみた結果がアレってだけのことだ」
「「……は?」」
何を言ってるのか分からないような感じで、首を傾げていた。分からなくもないだろう、だがこれは嘘ではなく事実の話だ。
「ほら、思いっきり横に飛ぼうとしたら勢い余って壁にめり込んだろ?」
「あぁ……」
「アレの応用さ、壁にぶつかる寸前に体に回転をかける。そうすることで壁にめり込まずに移動できるだろ?まぁ……こういう立地で、尚且つ制御出来ないというのが唯一のネックだが……」
そう、俺達の世界で言うなら”ベイゴマ”だ。
コマのように回転を加えることにより、壁にぶつかった衝撃で力が反発、そして弾かれ別の方向に。それを単純に繰り返したのが、さっきのアレの種というわけだ。お陰で壁に触れた防具は粉微塵になり、仕方なく生身でぶつかっていたのだが幸いなことに無傷だった。それほど雪咲の防御は高いという事実に本人だけは内心苦笑していた。
「なにそれ、出鱈目じゃん」
「ふふ、雪咲くんらしい」
「本当にもう……」
雪咲の近くに居た3人(うち2人は雪咲の髪の毛を弄っていた為密着している)は、呆れたようにため息を零していた。
「まぁ、兎に角……俺の負けだ、いい勝負だったぜ」
内心とても悔しかったのだろう、微笑んで手を差し伸べてきたグレンの表情の影にそんな感情が隠れていたのに気が付いた。
「……俺はもっと強くなりたい。この力を全てコントロール出来るように……。だから、グレンも強くなって……また戦おうな」
純粋な気持ちを込めてグレンの手を握り、ゆっくりと立ち上がる。一瞬あっけらかんとしていたグレンだが……。
「お前は……全く」
そう呟き、そっと雪咲の手をより固く、強く握る。
そんなやり取りをしていると、ゲートから国王が舞台に入ってきた。兵士達やグレンやリィナは傅き、雪咲や皓や眞弓や冬望は国王よりも頭が高くならないように正座をした。
「国王……」
グレンが声を出すと、国王ツァイは”うむ!”と答える。
「此度の戦い、実に良いものであった。グレンよ、お主以前よりも力をつけておるな?是非今度手合わせしたいものだ」
「ははは、お戯れを。私程度など、国王の足元にも及びませぬ」
ははっと深々と頭を垂れるグレン、国王ツァイが”皆の者、面を上げよ”と言うと家臣共々その場の全員が面を上げる。
凄いな、この人の人望の厚さは……。
心の中で感心していると、ツァイは雪咲の方に向き合った。
「して雪咲よ、お主に提案が有る。英雄のパーティーに入り、皆で力を合わせ魔王を討たぬか?」
「……!」
予想外の提案に、その場に居たものが全員ざわついた。眞弓や冬望は嬉しそうだが、皓は雪咲の表情をみて何を考えているかお見通しのようだった。その為、何を言っても驚かないと言う表情を浮かべていた。
全く……鋭いな、皓は。
目を閉じ、少し呼吸を整えてからツァイの瞳をじっと見つめ、そしてその”答え”を口にする。
「俺は……ー」
雪咲は戦う前から考えていた答えを口にすると、騒然としていた場が一瞬にして静まり返った。
果たして雪咲はどう答えるのか……?!
次話は、明日の夜に投稿致します!