第3話 試合と言う名の決闘
グレンに案内された先は、アルザース帝国の立派なお城だった。そこで出会った新たな人物、リィナ……そして、再び再開する皓達。
そして遂に、国王と初対面する。さっきまでの状況などを説明し、自分のステータスを開示する雪咲。絶対に騒がれると思っていたのだが、別の意味で騒がれてしまった。
そして、それをきっかけに雪咲は、グレンに戦いを申し込まれてしまうのであった。
「はぁ……」
闘技場の控室にて、雪咲は制服では無い服に着替えさせてもらっていた。グレン曰く
”そんな高そうな服で戦われて、損傷したから弁償しろ”
なんて言われるのが嫌で、どうせならと動きやすそうな服を支給してくれた。材質は制服と同じ布で出来ているのだが、通気性も良くかなり動きやすい服装だった。
「うん……中々いいね」
グッっと体を伸ばし、柔軟体操をして、いざ出陣……と思った矢先、観客席の下の廊下で後ろから皓達が心配そうな表情で話しかけてきた。
「雪咲……本当に大丈夫なのか?」
「あ、危なくなったら……棄権してね?」
「……無茶するんじゃないわよ」
フッと小さく微笑み、三者三様の励ましの言葉を貰い、入場ゲートの方に向かいゆっくりと歩き出す。その途中、そっと目を閉じ3人にしか聞こえない音量で呟く。
……ありがとう、行ってきます。
聞こえたが分からないが、時間もそう長くはないのでゲートに向かって歩きだす。薄暗い廊下道からゲートを潜って出た瞬間、視界が光りに包まれ視界が奪われる。
眩く感じたのも束の間、完全に目が慣れきり目の前には砂漠を思わせるような舞台と、上に見える観客席、そして心配そうに見守る城の兵士達や皓達や国王。雪咲は初めて、こんな状況に胸を弾ませていた。
雪咲が入ってきたゲートの真正面のゲートからは、鉄の胸当てや籠手等を装備し木の剣の柄に手を置きながらグレンが歩いてきた。こういうのに慣れてるのか分からないが、とても落ち着いているように見える。
「………」
深く深呼吸し、雪咲も同じように剣の柄に手を添える。
「悪いな……急にこんなことにしちまってよ」
声のトーンから察するに、落ち着いているとは言え雪咲に対する罪悪感と言うものがあったらしい。
「……大丈夫、気にしてないから」
「分かった、なら俺の持てる力全てを振り絞って手加減無しで行かせてもらうぞ」
グレンが木の剣を抜刀し、見たこともないよな型の構え方をする。腰を落とし、剣を下の方に構え、剣を握っている手とは逆の手を腰の高さで止めておく構えだ。それに対し雪咲は、納刀したまま構えの態勢をとる。
そして、試合の火蓋は切って落とされた。
「試合開始!!」
兵士の掛け声と共に、グレンは急接近してくる。別に目に見えぬ速度というわけでは無いが、今まで手合わせしてきた中でも恐らくはダントツ的に強いと確信できる程の気迫というものがあった。
「ほらよ!」
地面スレスレから一気に木の剣で斬り上げてくる。
「うぉぉぉぉ、隊長お得意の斬り上げ!今まで何人もの兵士がこの技に破れたか……」
観客席で歓喜の声で解説している兵士が居たが、そんなのに耳を貸している余裕なんて無かった。
斬り上げを右足を軸に、コンパスのように体を少しずらして避けたまでは良かった。しかしそれを見越していたと言わんばかりに、グレンは体を空中で捻り、追撃の斬り下ろしが迫ってくる。予想外の攻撃に少し戸惑う雪咲だが、なんとかギリギリの所で頬を掠めてかわした。
「っ……」
態勢を立て直そうとするが、させんと言わんばかりに連続でグレンが斬り込んでくる。上からだけでなく、下からや突きなども併用して攻撃してくる。一方で雪咲はと言うと、木の剣を抜刀したまでは良いが攻めに転ずることが出来ず、グレンの攻撃を受け流すので精一杯だった。
くそっ、このままじゃ……。
そう思い、思いっきり横に飛んだ瞬間……壁に激突し、余計にダメージを食らってしまった。
「やはり……調節が難しい……!」
休んでる暇を与えてくれるはずもなく、更にグレンの攻撃は激しさを増していく。さっきまでの打ち込みは少し力を抜いていたかの様に錯覚させるほど、打ち込みは鋭さと速さと勢いが増していく。
体感にして数分程度か、だが時間にして約1時間近く経とうとした頃だった。グレンの攻撃が止み、乱した呼吸を整えようとしていた。
これは……チャンスか?!
ここしか無いと思い、思いっきり木の剣で横なぎ払いを胴に打ち込もうとした瞬間にそれは起こった。
確かに捉えたと思っていたグレンの胴は一瞬遠のき、逆に自分の胴に打ち込まれてしまっていた。
「かっは……」
鳩尾近くを叩かれたため、痛みと同時に苦しさが襲ってくる。苦痛に歪めた表情でグレンを見ると、さっきまで見せていた疲労の表情は何処かへと消え去り余裕の表情が浮かんでいた。
「どうした、その程度かい?」
肩に剣をトントンと当て、こちらを様子見してくる。
流石、隊長と呼ばれているだけのことはあるな。このまま長期戦に持ち込まれたら、こっちが逆に不利になってくる。
腹部を手で抑えていると、いつの間にか痛みが消えていることに気が付く。
え……?
何度も手で優しく押してみるが、もうとっくに痛みなど消え去っていた。異常なまでの身体回復能力に、雪咲自信もゾッとしていた。しかしここで動揺し、自分のペースを崩すわけにいくまいと平静を装いつつ体制を立て直す。
「……仕方ない」
そっと構えを解く雪咲、それに少し驚きの表情を浮かべるグレン。
「おいおい、どうした……まさか、もう降参か?」
冗談だろと言わんばかりに鼻で笑うグレン、それに少しだけカチンッと来た雪咲は思わず口角が上がってしまう。それを見た瞬間、先程まで余裕の笑みを浮かべていたグレンは何かに驚いたように構え直す。しかし、それすらも遅く感じた。
「……」
木の剣の鋒をグレンに向けた……刹那、グレンは雪咲の姿を見失う。まるで瞬間移動でもしたかのように、突然目の前から消え去ってしまったのだ。
「くそったれ、何処に……!」
キョロキョロとあたりを見渡すが、何処にも雪咲の姿は見えなかった。次第に焦りが込み上げ、その場から少しだけ動いた瞬間……背後に気配を感じた。
「そこか!!」
渾身の横薙ぎを繰り出すも、そこには何もなく空振りで終わる。再度気配を手繰ろうとしたが、まるで舞台全てを埋め尽くすように雪咲の気配が感じられた。
「っ……」
一旦落ちうこうとした瞬間、剣を握っている手に鮮烈な痛みが走る。堪らず剣から手を離すと、木の剣は虚しい音を立てながら地面に転がり落ちた。それと同時に、グレンの喉元に木の剣の鋒が向けられていた。ハッと見てみると、汗一つ流さず可憐なフォームでグレンの首元に剣を滑り込ませていく。
「あーはいはい、俺の負けだよ」
諦めたように両手を上げると、雪咲は剣を引っ込めた。その瞬間、大歓声が闘技場を包み込んだ。暑い熱気を更に熱くするかのように、どんどん盛り上がっていく。それはまるで、留まるところを知らないように。
この話を書いている時、かなりワクワクしました(苦笑)
この高揚感を文にしたのが、こちらなのですが……正直、自信はあまり無いです。
長い戦闘シーン等はあまり書かないので、上手く行ってるかどうか……。
次話は、明日投稿に投稿しようかなと思います。