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【1】Welcome to our "Hopjoint"! その2

「コラァ! ミット見てたかこのクソピッチャー! いい加減ストライク入れなさいよ! ど真ん中すら投げられないの!?」

「しょうがないじゃん! いつも三〇球くらい投げ込まないと調子上がってこないんだもん!」

 グラウンドへ出ると、みなもちゃんと鹿菅井さんが言い合うのが聞こえてきます。待ちきれずに投げ込みを始めてしまったようです。本当に野球バカですね。そして打席に立って二人の言い合いを眺めているのは鳴楽園さん――かと思いきや、あれは知らない人ですね。

 黒い長髪なのは同じですが、この人は殺傷力のありそうな長く鋭いツインテール。黒曜石のような硬質の輝きを放っています。練習着の上から試合用ユニフォームの上だけ肩に羽織り、バットを握って不敵な笑みを浮かべています。

「HEY! チャチャ!」

 エリス先輩が呼びかけると、彼女はこちらに視線を向けました。

「おおランスフォード、どうやら今年はメンバー集めで四苦八苦せずに済みそうだな」

 なんか地声は可愛いのに無理やり低い声で威厳を出してるような感じの喋り方。しかし態度は泰然自若。なかなかに偉そうな人です。

 他のみんなも集まってきましたが、みなもちゃん、鹿菅井さん、鳴楽園さんに加えて、見覚えのない人が三人増えています。それを待って、偉そうな人が「よし」と口火を切ります。

「この場で初対面の者も多い。改めて名乗りを上げさせてもらおうか!」

 彼女はバットを剣のように地面に突き立て、胸を張り仁王立ち。その春風に靡くユニフォームに背負うのは、背番号1。

「我こそがこの金剛女子学院高校硬式野球部主将兼エースピッチャー、藤原(ふじわら)茶々(ちゃちゃ)であるッ!」

 高らかに吼えた藤原キャプテンは、気圧されている私達新入生を満足げに睥睨すると、唸る狼のように歯を剥いて口を歪めます。

「ようこそ、と言っておこう。新入生諸君、見ての通り我が軍団は寡兵に喘いでいる。実戦経験の差はあれど、貴様ら一人一人が貴重な戦力だ。狂奔(くる)った犬のように野球に取り組め。さすれば人員も設備も潤沢な強豪の喉笛も喰い破れようて――」

 やべぇとこに来ちゃったかもしれません。エリス先輩の顔をちらりと見てみましたが、変わらずニコニコしているのでキャプテンの芝居がかった演説はいつものことなのでしょう。

「では順番に自己紹介していこう。次は二年生だ」

 というわけで、まずは副キャプテンのエリス先輩が自己紹介。その次に口を開いたのは、さっき増えてた三人のうちの一人でした。

「先に来てたみんなは初めまして。ボクは鵜飼(うかい)みまっていいます」

 ふわふわの茶髪ボブカットで、身体の線も細く、雰囲気もぽやぽやしている人です。なんだかとても優しそうで、お花の妖精とか、そういう癒される印象です。

「野球は高校から始めました。そんなボクでもなんとかやれてるので、初心者の人も一緒に頑張ろうね。ポジションはファーストと、茶々様の雌犬奴隷を務めさせていただいています。これからよろしくね」

 んん? 癒し系からほど遠いワードが飛び出た気がしましたよ?

「エリス先輩、私のマンガ知識では聞き慣れないポジション名が聞こえたんですけど……」

「シホリ、それは突っ込んではいけないPointデス」

 エリス先輩は真顔でした。

 誰からもツッコミが入ることなく鵜飼先輩の番が終わると、キャプテンは周囲をキョロキョロ見回して言いました。

「む? 夕霧(ゆうぎり)は居ないのか? まったく進級しても進歩の皆無()い奴め……」

 夕霧先輩は部室に転がしてあります。死んではいないのできっと大丈夫です。

「もう一人、夕霧中(あたる)という二年生がいる。練習態度は不真面目。女子の身体目当てで在席しているセクハラ常習犯だ」

「はぁ? なんですかそれ」

 鹿菅井さんが呆れた口調で声を上げます。

「さっさと退部させたらいいんじゃないですか?」

「そうしたいところだが、いろいろ事情がな……」

 後で聞いたことですが、文武両道を掲げるこの学院は校則で部活動への参加が必須なので、もし夕霧先輩を辞めさせた場合、必然的に彼女はどこか他の部に移ることになります。これに危機感を覚えた他の部が団結して受け入れ反対を表明し、結果として野球部で飼い殺しにせざるを得ない状況に陥っているそうです。使用済み核燃料みたいですね。

 さて、自己紹介は一年生に移りまして、みなもちゃん、鹿菅井さん、鳴楽園さんの経験者組に続いて私もなんとか順番を終えました。

「あとの二人は、我が直々に陸上部からスカウトしてきた人材だ」

 キャプテンにそう紹介された二人は私と同じジャージ姿。背の高い人と低い人です。

「初めましてっ! 紋白(もんしろ)ノノです!」

 低い方の人がぴょこんと手を挙げました。ネコみたいな大きい目が印象的で、二つに結んだ短い髪が頭の上で動物の耳のようにひょこひょこ揺れています。上はジャージですが、まだ春先でそんなに温かくはないのに下はスパッツ一枚。いかにも「元気です!」って感じです。

「野球は遊びでなら何度かやったことあります! よろしくどーぞ! はい次、美鶴(みつる)!」

「あ、うん」

 もう片方の背の高い人が紋白さんにベシベシ叩かれておずおずと前に出ます。

 ……ってうわっ!? なんですかこの人めっちゃカッコイイ!

伊藤我(いとうが)美鶴っていいます。えっと、野球の経験はあんまり……中学の体育でやったソフトボールくらいです。お役に立てるか分かりませんが、精一杯頑張ります」

 宝塚の男役のスターみたいなイケメンです。大丈夫ですか? 恋愛事に飢えた多感な年ごろの女子ばかりの学校にこんな王子様みたいな人を野放しにしておいて……映画『ハムナプトラ』の肉食スカラベに貪り食われる人みたくなりますよ?

 さてさて、これで全員の紹介が終わりました。意識不明者を含めて合計一〇人。決して多いとは言えませんが一応試合は出来る人数。メンバーの足りない弱小部活が部員集めにドタバタ奔走するという部活モノの序盤で一番面白いパートはやらずに済みそうです。

 ――で、早速練習ということでまずはランニングから始まったのですが……

「ひぃ……ひぃ……」

「しほりん大丈夫……?」

 やばいです。グラウンドを何周かしただけですがもう死にそうです。親に鍛えられてたのはあくまで少し前までの話。しばらくちゃんとした運動なんてせず引きこもっていたツケが回ってきてしまいました。仕方なくダッシュメニューは回避してストレッチだけ行い、いよいよキャッチボールの時間です。

「うわっ、硬球ってこんなに硬いの……? こんなの石じゃん……」

「ではとりあえず自由に投げてみてくだサーイ!」

「は、はい! よーし……」

 一〇メートルほど離れたエリス先輩目がけて、右手に握ったボールを思い切り投げます。

 さあ見ていてください、私の野球人生の第一投目を!

「とぉりゃあああ!」

 威勢は良かったんですよ、威勢は。

 私の投げ方は右手と右脚が一緒に出る、所謂『女の子投げ』ってやつだったらしく、手から離れたボールは三メートルくらい前の地面にぼてっと弾んで動かなくなりました。

「ああ……そこからデスカ……」

「うう……すみません……」

 いくら筋肉があろうと、フォームが酷すぎれば結果はこうなるのです。人は投げられてもボールは投げられない人間なのです。

 ちらりと隣を見ると、みなもちゃん鹿菅井さん鳴楽園さんは三人で替わりばんこにキャッチボール中。綺麗な回転のかかった伸びのあるボールをぴゅんぴゅんやり取りしていていかにも楽しそうです。

 ……元はと言えばみなもちゃんがもうちょっと親身になって基本のフォームくらい教えてくれれば、今頃もうちょっとマシなボールを投げられていたのではないでしょうか。

 まあ、みなもちゃんはそういう人間なので仕方ないのです。頭のてっぺんから足の先まで野球のことしか考えていない野球人間。自分の練習の為なら友達くらい平気で裏切るような奴なのです。付き合いの長い私は身に染みて分かっています。「なんか急に投げ込みしたくなったから」という理由で遊びの約束を何度反故にされたことか。

 では私以外の初心者はどうなのかと言えば――

「美鶴フォーム変~」

「んー……槍投げの癖が抜けなくて……」

 紋白さんはもう何年も野球やってると言われても信じるくらい卒のない動き。逸れたり跳ねたりしたボールも平気でキャッチして軽やかなステップで正確に返球しています。

 伊藤我さんはややぎこちなく、肘の伸びたちょっと変なフォームですが、地肩が良いのか紋白さんの頭上を高々と超えてしまいそうな強烈なボールを投げ返しています。

 何が初心者ですか。私くらい下手になってから名乗ってくださいよ。

 結局エリス先輩に手取り足取り正しいフォームを教わっているうちに(とてもいい匂いがしました)キャッチボールの時間は終わってしまいました。普段はこの後トスバッティングをするそうですが、今日はちょっと特別なようです。

「せっかく野球部に来たのだ。皆早く野球をやりたかろう。今の実力も見ておきたいしな」

 という部長の鶴の一声で、実戦形式のレクリエーションをすることに。鵜飼先輩がファースト、エリス先輩がショート、部長がサードに入り、さらに――

「わたくしも守備につかせていただいても構いませんでしょうか!」

 と名乗り出た鳴楽園さんがセカンドに入って、みなもちゃんと鹿菅井さんの一年生バッテリーと、残った紋白さん、伊藤我さん、そして私が打者として対決するとのこと。

「部長、確認なんですけど」

 登板を告げられたみなもちゃんは、大きく目を見開いて部長に尋ねます。

「私、手加減とかできないんですけどいいですか?」

「当然。練習とはいえマウンドを任せるのだ。初心者に打ち崩される投手など求めておらんわ」

「了解です」

 爛々と瞳を輝かせ、みなもちゃんはマウンドへダッシュ。続いて守備陣が内野に散っていき、ボール回しなどを始めます。

「ふん、同じ一年のくせにデカい口叩いてくれるわね~。面白いじゃない!」

 残された初心者三人組の中で鼻息を荒くするのは紋白さんです。

「美鶴! しほり! ここはノノ達がボッコボコに打ちまくってみなもの鼻っ柱をボッキボキにしてやりましょ!」

「あはは……そう出来たらいいんだけど……」

 苦笑する伊藤我さんを尻目に、紋白さんはその場で猛然と素振りを始めます。

「フンッ! フンッ! しほり! 自己紹介の時にみなもとは友達だって言ってたけど、なんか情報とか知らないの? フンッ!」

「みなもちゃんの情報……」

 一応何度か試合の応援に行ったことはあるので、彼女のピッチングを見たことはあります。

「割と直球で押す感じのピッチングだったかな。たまに大きなカーブでタイミングずらしてくるのが厄介かも」

「なるほどね! よーし、じゃあストレート狙いでぶっ放してやるわ!」

 んー……みなもちゃん、大会でもストレートでズバズバ空振り取ってたし、狙い球を絞ったとしても素人がいきなり打つのは厳しいような……。それにみなもちゃんの本当の恐ろしさはそういうところではないのですから。

「よし、では開始(はじ)める。打席に立てィ!」

「しゃああッ! おなしゃあああす!」

 部長の号令に応え、紋白さんが意気揚々とバットを握ってアットバット。右打席でなかなか様になった構えを取ります。対するマウンドのみなもちゃんは、満面の笑顔。

 これです。みなもちゃんの真骨頂はこれなのです。

 笑顔は人間が野生動物だったころの威嚇からきている、というウソかホントか分からない話と関係あるのかは知りませんが、みなもちゃんはどんなピンチだろうと、どんな強打者が相手だろうと、いつも楽しそうに笑っているのです。

 真剣勝負のさなか、身を削るような心理戦の中で、相手が常に笑顔を輝かせている――

 打者の側に立てば、それがいかに恐ろしいか分かるというものです。

「さあきなさい!」

 自信満々の紋白さんの挑発に一層口角を上げ、みなもちゃんは始動します。一四六センチしかない体を何倍にも大きく見せる堂々たるワインドアップ。大きく左脚を上げ、右脚一本になっても全くぶれない鍛え上げられた下半身。そこから生み出される、捻り、力が、右腕へ、そして指先と集約され、ダイナミックなオーバースローから放たれる、猛烈なスピンのかかった直球。

「――ヒッ!?」

 ッパーン! と鹿菅井さんのミットが乾いた音を立てます。ど真ん中へのストレートに、紋白さんは全く動けませんでした。

「ストライクワン」

 鹿菅井さんが冷静に告げてみなもちゃんに返球します。

「……何、今の……」

 紋白さんは呆然として呟きます。

「そんなに速くないかなーと思ったら、途中から一瞬で『ビュゴッ』て……」

「あれにうちのシニアもやられたのよ。スピードは一一〇キロ弱ってとこだけど、異常なキレとノビで打者を打ち取る必殺のストレート。初見で打てるようなもんじゃないわ」

 鹿菅井さんの言う通り、紋白さんは二球目も手が出ず見逃し。三球目は思い切ってスイングしましたが空振り。みなもちゃんはストレートのみであっさり三振を奪いました。

「もっかい!」

 しかし紋白さんはバットを離しません。

「紋白さん……ほら順番もあるからまた後で――」

「もっ! かい!!」

 鹿菅井さんが言っても打席から離れようとしません。伊藤我さんが苦笑します。

「あはは……いいですよ別に。もう一回ノノでも。君もそれでいい?」

 超絶イケメンにそう聞かれ、私は「は、はひぃ!」と返事しました。というわけで紋白さんの泣きの一回。もう一打席です。

 完全にスイッチの入ったみなもちゃんはフルスロットルで直球を投げ込んでいきます。一球目、二球目と連続で空振り。いずれもバットはボールの下を通過しています。ボールのノビに対応できていない証拠です。そしてテンポよく投じられた三球目――ガキンッ、という鈍い音。

「当たった……!?」

 喰らいついた紋白さんのバットの先っぽに当たった白球。打球はボテボテのゴロとなって一塁線へ。ファーストの鵜飼先輩が前進して捕球し、一塁ベースカバーに走り込んだみなもちゃんへトスします。平凡なファーストゴロと誰もが思いました。

 ――瞬間、吹き抜ける一迅の疾風。

 みなもちゃんがベースにたどり着く前に、紋白さんが圧倒的スピードで一塁を駆け抜けていたのです。彼女はそのままぴょんぴょん跳ね回ってピース。

「よーっし! セーフよね? セーフよね!? っしゃあああノノの勝ち!」

「紋白さん……足速っ!」

 絶句する私に、隣の伊藤我さんが言います。

「ノノは一〇〇メートル一二秒一六で走るからね」

「えっと……それって速いんですか?」

「今すぐ短距離の全国大会に出ても決勝に残れると思うよ」

 それって今からでも陸上部に戻るべきでは……? まあプロ野球選手にも中学校の頃に陸上の大会で好成績残してる人って結構いるらしいですけど。基本的な身体能力が違います。

「足もそうだけど、何よりバットに当てたってことよ」

 鹿菅井さんが続きます。

「打球はボテボテでも、たった二打席――六球目であのストレートに当てられる初心者って……末恐ろしいわ」

 そんな逸材・紋白さんは一塁に留まり、右打席には伊藤我さんが入ります。紋白さんは大きくベースから離れてリードをとっています。このまま盗塁まで狙っているのでしょう。みなもちゃんはセットポジションで構え、ランナーにちらりと目をやり、クイックで投げ込みます。その瞬間、紋白さんが猛然とスタート。塁間を颯爽と駆け抜け、二塁に滑り込み――

「Welcome♪」

 先に塁に入ったショートのエリス先輩に迎えられタッチされました。グラブの中にはしっかりとボールが握られています。タッチアウトです。

「あなたの才能はよく分かったけど――」

 鹿菅井さんがマスクを外しながら呟きました。

「あんまり調子に乗るな」

 みなもちゃんの初球ストレート、伊藤我さんは空振り。そのボールを鹿菅井さんはすぐさまセカンドへ。ワンバウンドの送球で見事紋白さんを刺したのでした。

「あーもー! ちゃんとスパイク履いてたらセーフだったー!」

 倒れ込んだまま負け惜しみを吐く紋白さん。盗塁はバッテリーとの読み合い。ただ足が速ければ出来るというものでもないそうです。

 さあランナーが居なくなって再び投手と打者のサシの勝負ですが――

「うわっ!」

 紋白さんにヒットを打たれてギアをさらに上げたみなもちゃんがカーブを解禁。大きく浮き上がってからストンと落ちる変化球に伊藤我さんは手も足も出ず三振でした。

「ノノはよく打てたね……私じゃもう一回やっても無理そうだ」

 三振しても爽やかな伊藤我さんは素直に打席を私に譲ります。

 ……そうです、私の番なのです。

「はいバット。頑張って」

「やってやんなさいしほり!」

 二人に背を押され、右打席に足を踏み入れました。

「は……はわわ……」

 初めて見るバッターボックスからの景色。私の足元を中心に扇型に広がるグラウンドには、馴染みのポジションから私を見つめる内野陣。

 心配そうな表情の鵜飼先輩。

 相変わらずお淑やかに微笑む鳴楽園さん。

 値踏みするように睨め付ける藤原キャプテン。

 悪戯っぽく笑ってウインクを送るエリス先輩。

 その外側に広大な外野が広がり、地平線にも見えるフェンスの向こうには果てしない青空が青々と澄み渡っています。まるで地球という舞台のど真ん中に、台本も無く独りで立たされているかのよう。

 押し潰されそうな孤独感。与えられた武器はバット一本。

 そしてたった十八・四四メートル先、ロージンバッグを投げ捨てて、噛み殺さんばかりの笑顔で仁王立ちする幼馴染。

「まさかしほりん相手に投げる日がくるなんてね」

 私は初めて邂逅しているのです――投手・玉響みなもに。

「教えてあげるよ、私の大好きな野球ってものをさ」

 腕が震えます。息が途切れます。練習とはいえ、ここは彼女達にとって――そして今日からは私にとっても闘いの舞台なのです。自分で望んで足を踏み入れたこの世界。紋白さんのようにいきなり活躍することは出来なくても、せめて前のめりで死ぬべきでしょう。

 震える腕を拳を握り締めて制御し、見様見真似でバットを構えます。

「硬式用のバット重くない? 大丈夫?」

 鹿菅井さんがマスクの下から話しかけてきます。緊張を解そうとしてくれているのでしょう。

「えっ……あっ、ううん、別に、大丈夫……」

「……へー、そっか」

 それだけ言って彼女は腰を下ろしました。みなもちゃんがプレートに足を掛け、ゆっくりと両腕を天に掲げ、私への第一球が放たれました。

 それはそれは奇妙な光景でした。

 とにかくボールを頑張ってしっかり見ようと、それだけ考えていた私はみなもちゃんの手から白球が離れた瞬間から目を離さないように注視していました。白球は私の視界の一点を接近、真っ直ぐ向かってきます。小さな白い点が、段々大きく見えてくる感じで――ッパーン!

「ぅひぃっ!?」

 えっ!? 今ボールちゃんと見てたよね!? なんでもうミットに瞬間移動してるの!?

「ストライクワン」

 鹿菅井さんが冷静に呟きました。

 こ、これがみなもちゃんのストレートの伸びですか……これどうやって打つんですか?

 完全に腰が引けてしまいましたが、みなもちゃんは容赦なく二球目を投げてきます。今度は彼女の手から離れた瞬間にボールは私の視線よりも高く浮き上がります……えっ、これこのまま顔にぶつかるんじゃないの!? と思ったところからストンと落ちてミットへ。

「ストライクツー」

 今のがカーブですか! 本当に容赦ない! 私なんてクソザコ初心者、そんなの使わなくても小指だけで磨り潰せるでしょうに! ううう……こんなの虐殺です……。

「――そんなに怯えなくても大丈夫デスヨ」

 暖かい声がふわりと舞い降りました。打席で縮こまっていた私の肩を抱いてくれていたのは、いつの間に駆け付けてくれたのか、エリス先輩でした。

「打席で大切なのは、相手に呑まれず、しっかり自分のSwingをすることデス」

「自分のスイング……」

「いいデスカ、Batは魔法のStickなのデス」

「魔法のステッキ……?」

 エリス先輩は私を背中から抱きしめると、バットを握った私の両手に彼女の両手を重ねます。

「振らなければ何も起こらない。でも振れば何かが起こるのデス」

 そのまま二人でバットを握り、ゆっくりとスイング。

「結果が空振りでも凡退でも気にしないで。自分の力を信じて、思いっ切り振り抜いて。アナタならきっと出来マス。あの青空へ向かって打つのデス」

 澄み渡ったバックスクリーンの向こうの青空を見上げながら聞くエリス先輩の言葉は、春風のように私の頭に染み込んできます。自分のスイング――私のスイングってなんでしょう。ほとんどバットなんて握ったこともない私です。そんなもの私にはありません。

 ……本当に? 本当に何もない?

 気が付くとエリス先輩は守備位置に戻り、私は再びバッターボックスに独りで立っています。全身に力が入り、蜘蛛の糸に縋るカンダタのようにバットを握り締め、腕は縮こまり、背筋は丸まって、腰は引けて、脚は震えた棒のよう。

 ――そんな構え方、私は一度でもスケッチブックに描いたことあったでしょうか。

 急に視界が開けた気分でした。

 そうです。あんなに一心不乱にたくさんのお手本を頭に、身体に、魂に叩き込んだじゃないですか。何のために? 野球部で活躍するために? そうじゃありません。エリス先輩と同じ場所に立つためです。憧れの先輩と会って、お話しして、こんなにお近づきになって、温かい言葉までもらって――もうこれ以上、今の私に望むべくことなんて何もありません。夢は叶ってしまったのです。

 これ以上は身の丈以上。端から私には不相応な幸運。手の届かない夢の中。だからこそ、失敗に恥に敗北に喪失に……何を恐れることがありますか。

「――ふー……」

 思い出しましょう。まずは構え方から。足は肩幅より広めに。重心は右脚に。背筋は楽に伸ばして力を抜いて。左の脇は締めてバットは立てる。握りはグリップいっぱい。

 一度振ってみましょうか。描きまくった連続写真のスケッチをなぞるように、ゆっくりと。体重を段々前に移動しつつ、衝撃をぶつけるように左脚を突っ張って腰を回転。頭をずらさず上半身を捻じってバットを出し手首を返して空に向かって振り抜く。

 ――そう、こんな感じ。何かがスッとはまったような感覚。

 改めて打席で構えを取り、マウンド上のみなもちゃんに視線を向けます。心からピッチングを楽しんでいる、相変わらずの笑顔。その瞳に私はどう映っているのでしょう。きっと相対するべき敵とは思われていないでしょうね。正解です。私にだって、彼女はあまりに強大過ぎて攻略できる相手には思えてません。いいのです。それが目的じゃありませんから。

 第三球。彼女の大仰なワインドアップが天を突く。小さな体躯に満ち満ちた高圧燃料の爆発が一点に集中する高高度爆撃。高く、高くから投げ下ろす、オーバースローによる制圧の覇。遊び球などあるはずもなく、唸りを上げるバックスピンが息の根を止めに放たれます。

 殺さば殺せ。勝手にやってろ。次元が違うんですよ、私は。低い方にね。だから今は、私にできることを。ただ精一杯を。この一振りで。一握りの私を全て見せる。ボールなんて見えない。ピッチャーが投げたからバットを振るだけ。呼吸を止めて、全身の筋肉を、関節を、熱量を、ただバットを振るのみに捧げて――

 ――音。音だけが聞こえました。

 食い縛った歯の軋み。引き千切れる毛細血管の断末魔。地面と靴底の擦過音。振り回されたバットが空気を切り裂く風切り音――白球がキャッチャーミットに着弾する破裂音。

「――くぁ……っ」

 私はその場に尻もちをつきました。

「ハッ……ハッ……ハッ……!」

 たったの一振りでスタミナをすべて使い果たしたかのように息が荒いです。

 空振り三振。それが私の野球人生、初打席の結果でした。ひとえに順当な結末です。

「――――何、それ」

 捕球した体勢で固まっていた鹿菅井さんが、ゆっくりとマスクを取りました。何でしょう、幽霊でも見たような顔で冷や汗を垂らしています。

「あなた、一体――」

「どう? 私の友達は」

 みなもちゃんがニヤニヤしながらマウンドを降りてきました。

「これがしほりんの武器だよ。思った通りだった」

「……あの、みなもちゃん、それよりも――」

 私は二人の会話に割って入りました。

「バット、どこ行ったか知らない?」

 確かに両手で握っていたはずのバットが、跡形も無く消えていました。

「あー、バットならあっちに……」

 みなもちゃんが指さしたのはレフト側フェンスの向こう。

「しほりんにブン投げられてすっ飛んでったよ」

「うそっ!? 投げちゃった!?」

「イヤー、あるイミ場外Home runデシタネ」

 エリス先輩がニコニコしながらやってきました。その手にはグラブではなく、彼女のバットを握って。

「エ、エリス先輩……ごめんなさい! あの、部のバット……」

「大丈夫デスヨ~、後で拾いに行けば。それよりもミナモ――」

 エリス先輩はバットを真っ直ぐみなもちゃんに向けました。

「我慢できマセン。次、ワタシとやりマショ」

「――いいですよ」

 にっこり笑ったみなもちゃんは鹿菅井さんからボールを受け取り、マウンドへ。内野はいつの間にか鳴楽園さんがショートに移っており、「誰かセカンドやりたい人~!」という鵜飼先輩の声にいち早く飛び出していった紋白さんが見様見真似でセカンドに入っています。

「シホリ、Helmet」

「え、あ、はい!」

 慌ててヘルメットを外して先輩に手渡します。彼女は無言でそれを被り、いつものルーティーンに入ります。屈伸運動をしてから、一度大きく素振り。腰をクイクイッと捻ってから左脚から左打席に入る。バッターボックスの広さを確かめるように足場を慣らし、立てたバット越しにセンター方向の空を眺めて何か呟く。目を閉じてゆっくりバットを回し、静かにスクエアスタンスに構える。

 もうそこに居るのは、先程までの優しいエリス先輩ではありません。ある野球雑誌記者をして『鬼』と言わしめた、妖しい光を湛えた鋭い眼光。グラウンドという銀河の中心で、全ての視線を呑み込み覆いつくす程のブラックホールのような圧倒的存在感。

 高校通算打率――四割九分七厘。

 早くも日本女子野球史上最強の誉れ高き超大型遊撃手。

『金色夜叉』――エリス・ランスフォードの顕現。

 空気はビリビリと震え、燃え立つ火焔の如き濃い闘志が目に見えるよう。

 これに対峙するみなもちゃんは、これ以上ない程の笑顔。私達が相手だった時とは全く違う、ずっと待ち望んだ誕生日プレゼントを前にした子供のような、目の前の標的に飢えた笑顔。彼女にもプライドがあります。関東大会を制したシニアチームの女子エースとしてその筋の報道を賑わせもした、少しは名の知れた存在です。扉を叩いた高校女子野球の世界、最高峰の打者に彼女の球がどこまで通用するのか、それを試す機会がこんなに早くやってくるとは。

 みなもちゃんは大きく振りかぶり、第一球目を投げ込みました。渾身のストレート。それは間違いなく今日一番の球でした。

 そして、エリス先輩は――


■□   □■


「あああああ負けたああああああもおおおおお!」

 その日の帰り道、みなもちゃんは何度目か分からない雄たけびを上げました。

「嘘でしょー……あんなあっさり……あああもおおおっ!」

「あはは……どんまい」

 エリス先輩はみなもちゃんの初球をいとも簡単に打ち返し、右中間を深々と破る長打コースの打球をかっ飛ばしたのでした。

「あんなバッター、シニアには男子でもいなかった……しかもエリス先輩クラスの選手ってまだ他にもいるんでしょ? とんでもないよ高校生……」

 そう、エリス先輩はトップクラスですが、決してトップというわけではありません。全国を見渡せば彼女レベルの名選手はまだまだいます。手近なところで言えば、関東の絶対王者・琥珀ヶ丘高校の『白鯨(モビーディック)』こと雁野(かりの)さんなどですね。怪我でしばらく出てないらしいですが。

「そんなに落ち込まなくても……一年生エースになるって大口叩いてたくせに」

「しほりん、私は実感したよ。今の私じゃ無理。もっとレベルアップしないと」

 みなもちゃんは拳をグッと握ります。

「もっとキレを磨いて、新しい球も覚えて……どんな相手でも一方的に制圧できるような力をつけて……エリス先輩も、他の人たちも全員――私が喰い尽くす」

「みなもちゃん……」

 笑っています、ニヤニヤと。怖いですこの友達。

「んで、私がエースになる頃には、しほりんが四番でホームランボコボコ打ちまくってね」

「ええっ!? 無理だよそんなの……」

「いやいや~、雰囲気あったよーしほりんの打席。エリス先輩の次に」

「雰囲気だけでしょ?」

「大事だよー雰囲気。エリス先輩は『味方で心強いなー』って感じだったけど、しほりんはねぇ……うん、こっちに引き込んで正解だった」

「何それ……?」

 みなもちゃんは笑みを収めてぽつりと言いました。

「『敵じゃなくてよかった』」


■□   □■


 その頃、茶々が行方不明になっていたしほりのバットを握って部室の扉を開けた。

「一年生は全員帰還(かえ)ったか」

「お帰りナサイ。みんな帰りマシタヨ」

 部室にはエリス、みま、さらに意識を取り戻した中の二年生三人衆が残っていた。

「バットどこまで飛んでマシタ?」

「グラウンド脇の桜の木に引っかかっていた。おかげでその木だけ花が散ってしまっていた」

「お疲れ様です茶々様。お座りください」

「ああ」

 流れるような所作で四つん這いになったみまの背に、茶々は当然のように腰を下ろした。みまは頬を赤らめ、嬉しそうに息を漏らす。

「さてランスフォード、今日の新入生連中を見てどう思った?」

「理想的デシタネ」

 エリスは小さく頷きながら続ける。

「去年の三年生の先輩方が抜けてどうなるかと思いマシタが、ちょうどいい具合に空いたPositionが埋まってくれそうデス。Catcherにヨモギ、Secondにアキラコと即戦力を置けるのは本当に幸運デシタ」

「それに何より、奴だな」

 ニヤリと口元を歪める茶々。

「紋白ノノ――奴をスカウトした我の眼に狂いはなかった。あの驚異的な速力は勿論、打席での初心者離れした対応力。奴を一番センターで固定できれば我が軍団(チーム)のセンターラインは盤石となる」

「ミツルもまだまだ素材デスが、Powerと肩の強さは目を見張るものがありマシタヨ。よくあんな逸材を引っ張ってこれマシタネ。陸上部だって手放したくない人材デショウに」

「なに、陸上部の部長とは友人でな。少々無理を言って見物させてもらった。まあ、奴等を引き抜いたことでその友情も喪失(うしな)ったがな。軍団(チーム)の為ならば安い代償よ」

「アナタはまたそんな……」

 エリスはそう言いかけたが、茶々の影の差した厳しい相貌を見て呑み込んだ。

「……ミナモについては、Aceとしてどう思いマス?」

「末恐ろしい奴だと思う。実力も申し分なかろう。だが投手しか出来ないタイプだな、あれは。一騎打ちに懸ける並々ならぬ執念は感じるが、軍団(チーム)を背負える程の器量はまだ無い。血に飢えた野獣といったところか。自らの空腹を満たしたいだけだ。誇り高き獣として群れを背負って立つことが出来るか否かは、今後の成長次第だろう」

「それでも心強いデス。大会では連戦もありマスし。それに――」

「――どうしたランスフォード。言いたいことがあるなら言え。諫言は歓迎するぞ」

 目をそらしたエリスを、茶々は急かす。しかしエリスは口を濁す。

「いえ……ただその、チャチャに何かAccidentが起こることも想定すると――」

「正直に言えよ。不安なのだろう? 我がまた投げられなくなるのではないかと」

「…………」

「確かに去年の夏以来我は――だが見てきただろうが。ここ最近の試合で同じ事態は起こっていない。何も影響は無い。仮に玉響が入ってこなかったとしても、連戦だろうが我は一人で最後まで投げ抜けただろうよ」

「……ではなぜ一度も琥珀ヶ丘との練習試合を組まなかったのデスカ? 他の強豪とは何度もやったのに、アナタが頑なに彼女との対戦を避けていたのはなぜデス?」

「偶然だ。意図はない。琥珀ヶ丘は関東の絶対王者。全国の強豪から試合の申し出が絶えぬ。そうそう試合を組めたものではない。それに……今の琥珀ヶ丘に奴は居ない」

「それを恐れているのデショウ? 彼女が居ないことを思い知らされるから」

「馬鹿を言うな」

 茶々はピシャリと言い放った。

「我は主将だ。エースなのだ。何があろうと折れることがあってはならぬ。例え何を犠牲にしてもだ。これ以上の問答は無用だランスフォード」

「……分かりマシタ」

「話題を戻そう。一年生はもう一人居ただろう。貴様のお気に入りの――倉しほり。原石も原石といったところか。磨き甲斐がありそうだな」

「ええ……ワタシはシホリに、夢を、未来を見マシタ」

 エリスは両手を擦り合わせ、うっとりとした目で言葉を紡ぐ。

「恵まれた身体。幼いころから育まれたPotential――そこから生まれるあの常人離れしたPower……!」

「あれには驚かされた。フォームはバラバラだというのに、硬式用のバットを場外まで投げ飛ばすスイングの鋭さと思い切りの良さ――」

「もちろんそれも素晴らしいデス。しかしワタシが最も評価しているのは、打席での心構えデス。二球目までは緊張と恐怖であんなに縮こまっていたのに、誰に言われるでもなく自ら立ち直って心を研ぎ澄まし、最後に今の彼女の最高のスイングを見せマシタ。あれが出来る選手は強いデス。ワタシ達には磨き上げる義務がありマス――女子野球史上最強の大砲(Home Run Slugger)を」

「野球界に変革を齎すプレーヤー――女版ベーブ・ルースを作るつもりか」

「チャチャは流石デスネ」

 ベーブ・ルース――野球の概念に革命を起こした男。

 単打で出たランナーをバントや盗塁といった小技を駆使していかにホームへ還すかこそが醍醐味であり美徳。ホームランなど競技の主旨から逸脱した野蛮な行為――そんな観念が一般的だった野球黎明期のメジャーリーグは、シーズンに一〇本程度でホームラン王を獲得できた。そんな時代に燦然と現れ、年間五〇本以上のホームランをかっ飛ばし、アメリカを大飛球の魅力に酔わせ、ホームランを野球の華へと変えた革命家。野球が現在ほど大衆スポーツとして普及し人気を博しているのも、一発逆転が存在するその派手さに一因があるだろう。

 男子に比べどうしてもダイナミックで派手な魅力に欠ける女子野球に、そんな存在が出現すれば何が起こるのか――

「もしその企みが成功し、女子野球自体の注目度も上がれば……なるほどな。ランスフォード、貴様の目論見にも有利に働くというわけか」

「…………」

「おおおし! 完璧だぜ!」

 中がボサボサ髪を振り乱して突然声を上げた。その手には一枚の紙っぺら。

「な、なんデスカいきなり……」

「ん? 新入部員を加えたウチの部の戦力ランキング表だよ」

「なんだそれは。見せてみろ」

「あっ」

 茶々が紙をサッと奪い取った。


 エリス>倉>【巨乳の壁】>みま≧鹿菅井>玉響≧伊藤我>【普乳の壁】>鳴楽園≧紋白>あたし>【貧乳の壁】>部長(壁そのもの^^;w)


「……一応尋ねるが、夕霧」

 茶々は能面のような顔になった。

「これは何の戦力評だ?」

「おっぱいだよ、決まってんだろ」

「…………」

「ちゃ、茶々様! 大丈夫ですよ! ボクは茶々様のロッククライマーが定期的に滑落死してそうなすべすべした胸板も大好ィヤァァッオォォッハァッありがとうございまモゴォ!」

 みまは全て言い切る前に茶々にケツを叩かれて快感に震え、さらに丸めた紙を口に突っ込まれて黙った。

「……あの、チャチャ?」

「うるさい」

「…………」

「うるさい」

「まあまあそう落ち込むなって部長さん。おっぱいの膨らみはマウンドより低いかもしれねぇけどさ、おしりの大きさならあんたが部内ナンバーワンだからよ」

「……そ、そうか?」

 茶々は少し頬を染めてそわそわし始めた。

「チャチャ、それ嬉しいんデスカ?」

「当然だ。大きな尻は名投手の証だからな」

 投球に必要な安定した下半身を得るためのトレーニングを重ねれば、必然的にヒップも大きくなるのである。気を良くした茶々はみまから立ち上がった。

「よし! 今日の走り込みに行くか。また付き合うか、鵜飼」

「モゴォ!」

 茶々はみまを伴い、日課のダッシュトレーニングへ出ていった。

「名投手の証デスか……確かにアナタは名投手デス。本当に――」

 エリスは二人を見送り、誰にも聞こえない小声で呟いた。

「今年こそは、勝ちマショウ」

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