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【1】Welcome to our "Hopjoint"! その1

 高校デビューなんて大それた真似は私には縁遠い話です。髪は元々色素が薄くて明るい色なのですが、髪型なんて三つ編みしか知らないので、せめて二本のおさげにしていた三つ編みを一本にまとめてみました。それだけです。虚しい抵抗ですね。せめて眉毛くらいはいじるべきだったでしょうか……いえ、どうせ不器用さを遺憾なく発揮してとんでもないことになるでしょうし、出来ないことを無理にやるのはやめておきましょう。

 そんな中途半端な覚悟で迎えた女子高生初日の放課後のことでした。

「あれっ……? あなた、玉響(たまゆら)みなもでしょ? 下豪坂(しもごさか)シニアの」

 野球グラウンドに足を踏み入れた途端、一緒に来たみなもちゃんが声を掛けられました。

「ふぇっ? そうだけど……誰?」

「覚えてないの? 負かした相手はどうでもいいってか。さっすが、関東大会優勝チームのエース様は違うわね」

 話しかけてきた短髪の女の子は少々ムッとした様子で、眼鏡の奥の目を細めました。

「あたしは鹿菅井(かすがい)(よもぎ)。夏季大会の準々決勝であなたに完封された諸水(もろみず)シニアのキャッチャーよ」

「あ、あぁ~もろみず! もろみずね! うん! おぼえてるよ! おぼえてる! すっごいおぼえてるもん! めっちゃおぼえてる! おぼえてるぞ~! あれでしょ! あの群馬の!」

「栃木よ! 二度と間違えるな。……で、あなたもここに入部するんでしょ?」

「うん! 狙うはエースの座だよ!」

 能天気な笑顔であっけらかんと言うみなもちゃんに、鹿菅井さんは不安気です。

「ま、あなたの実力は分かってるし、仲間になるなら心強いわ。今日からよろしく」

 鹿菅井さんは握手をしようと右手を差し出しました。しかしみなもちゃんは笑顔を張り付けたまま、その手をじっと見つめて動きません。気まずい沈黙が数秒流れましたが――

「――ふふっ」

 それを破ったのは鹿菅井さんの満足そうな微笑みでした。

「気に入ったわ。試すような真似してごめんね」

 鹿菅井さんは右手を引っ込め、左手を出しました。みなもちゃんはにっこり笑ってその手を同じく左手で取り、しっかりと握手。

「よろしくね、鹿菅井さん」

「自分の武器を今日会ったばかりの他人においそれと握らせるような投手じゃなくて安心したわ。多分バッテリー組むことになるだろうし。楽しみね」

 な、なんだか歴戦の勇士みたいに高度なやりとりが目の前で行われてます。

「……で、さっきからあなたの後ろに隠れてるその子は一体何?」

「ひぅ!」

「ああ。ほらしほりん。チームメイトになるんだからちゃんと自己紹介しないと」

 みなもちゃんに促され、私は恐る恐る彼女の背中から出ます。まあ、私はみなもちゃんより二〇センチほど背が高いので全然隠れられてなかったんですが。

「くくく、(くら)、しほり、です……み、みなもちゃんとは、その、友達で……」

「ふーん、友達。たしかあなたは試合で見たことないわね」

「あ、あのっ……わ、私は……野球、やったこと、なくて……」

「へー、ソフトボールか何か?」

「い、いえ……」

「……えっ、まさか完全に初心者?」

「はい……」

「……ああ、そんなにシュンとしないでよ。別に責めてるわけじゃないから!」

 半泣きになった私を見て、鹿菅井さんは焦ったように言いました。

「ただ珍しくて。やっぱり女子でこの歳まで野球やろうって子は、大体みんな小さい頃からずっとやってる人が多いから……でも大丈夫よ。結局やる気の問題だし。確かにここは強豪だけど、あなたの努力次第じゃいつか試合に出られるかもよ?」

「うう……そうですか……?」

「野球ってのは分業するスポーツだから。何か一つでも自分の取り柄を見つけて伸ばせれば立派な武器になるわ。あたしも協力するから、これから三年間、一緒に頑張りましょ」

「あ、ありがとうございます……!」

 最初はキツイ性格かと思ったけど、この人すっごく良い人だ……!

「ふっふっふ」

 なんとかやっていけそうな光明を見た私の横で、みなもちゃんが何やら怪しい笑い声を。

「あるよ~、しほりんの武器。私はそれを見抜いたからこそしほりんをこっちの道に引っ張り込んだんだから」

「ええ……?」

 どの口がそんなことを言うのでしょうか。

 あの日、野球部に入る決心をしてからすぐに、私はみなもちゃんに野球の基礎を教えてもらえるように頼んだのです。せめてボールの投げ方とか、バットの振り方くらいは知っておいた方が良いでしょうから。しかし彼女は――

『ごめん、無理。私には無理だこれ』

 私のあまりのセンスの無さに、僅か一日目で匙を投げたのです。そりゃあ私にセンスが無いのは事実ですが、だからって引っ張り込んだ自覚があるならもうちょっと責任持って面倒見てくれたっていいじゃないですか。

『あ、そうだ。しほりん絵描くの上手いじゃん。しばらくそれでイメトレしてみたら?』

 彼女のしてくれたアドバイスはこれだけ。仕方ないのでそれを信じて今日までガリガリしてきましたが、結局バットもボールも触ってないので不安しかありません。

「しほりんの武器はねえ、何といったって――」

 みなもちゃんがしたり顔で言おうとした台詞は、その瞬間グラウンドに姿を現した人物の言葉によって遮られてしまいました。

「コンニチハ~♪ もしかして新入生の皆さんデスカ?」

 その弾むような声を聞いた瞬間、私の脳味噌に電流が奔りました。

 振り向くと、そこにいたのは――女神様でした。

「野球部へヨーコソ! 初日から来てくれるなんてやる気十分デスネ! 嬉しいデス♪」

「は……はわわ……はわっ……!」

 呼吸が……呼吸が出来ません……!

 黄金の滝のように波打つ豊かなブロンドヘアは、試合中のポニーテール姿を見慣れた私には新鮮な刺激となって輝いています。金剛女子の制服であるブレザー姿も同じく、ユニフォーム姿しか知らない私にとっては彼女の知らない一面を見てしまったようでドキドキです。

 そして何より、髪色以上に明るく輝くその笑顔。

 ある野球雑誌では彼女が打席で見せる鬼気迫る表情と並外れた実力、及びその金髪から、彼女を『金色夜叉』と称する向きがあるようですが……まあそのセンスは置いておいて、普段の彼女は『夜叉』――つまり『鬼』などには到底見えない柔和な雰囲気。

 そうです、私はこの笑顔を見たくて……あなたに会う為にここへ――

「初めまして! ワタシは副CaptainのEllis(エリス) Lansford(ランスフォード)と申しマス!」

 し、知ってますとも! 毎朝毎晩あなたの写真を見ながら目覚め、眠りに落ちてるんですから! ……なんて言えるわけないですがッ!

「玉響みなもですっ!」

「鹿菅井蓬です」

 ああもうみなもちゃんと鹿菅井さんはなんでそんなに普通に彼女と話せるんですか! 女神様の御前ですよ!? 頭おかしいんですか!? 下等な人間風情が……ッ!

「WOW! お二人はしっかり練習着デスし経験者のようデスネ! 心強いデス♪」

 そういえば私だけ学校指定のジャージ姿でした。素人丸出しですね。

「そして――」

 ……ハッ! ランスフォードさんの視線が私に! ああ……なんて慈愛に満ちた優しい瞳……その色が茶色なのはきっとアメリカとのハーフである彼女の日本人な部分なのでしょう。

「アナタのお名前、お聞きしてもいいデスカ?」

「はうっ!」

 ッ……ああっ! 一瞬意識が……! 凄まじいです……声を掛けただけで相手を落とすだなんて……もしや彼女は鬼ではなくセイレーンの血でも入っているのでは?

「だ、大丈夫デスカ? もしもーし!」

「はひぃ……っ! く、く、くっくくくっくくくっ……!」

「しほりん落ち着いて。特殊な笑い方するキャラみたくなってるよ」

「くくっくく、くく、くくら、くら、し、しほりで、でふゅぅ……」

「えーっと、シホリ、でいいんデスカネ?」

 ああっ! ランスフォードさんが私めの名前を口にされた! もうこれだけで死んでもいい……いやむしろ今この歓喜を永遠とするために死ぬべきなのでは?

「ごめんなさいランスフォード先輩。しほりんずっと前から先輩の大ファンで……ちょっと興奮が抑えられなくなってるんです」

「そうなんデスカ! 照れマスネ~♪ ありがとうございマス!」

 あぐぁッ! 女神様が私の手をッ! ぎゅっと握ってッ! あ、温かッ、温かッ!

「カッ……カハッ……ッ……ッ……!」

「死んじゃう! しほりん死んじゃう! その辺にしてあげてくださいランスフォード先輩!」

「Oops! スイマセン、つい。あとワタシのことはEllisでいいのデスヨ♪」

 ハッ! ここは……? 私は死んだはずじゃ――って目の前に天使が。やっぱりここは天国なのですね。

「OK! それではこれで新入生は四人デスネ!」

「えっ、四人?」

 私、みなもちゃん、鹿菅井さんの三人じゃ……と周りをよく見ると、エリス先輩(ご本人がそう呼べとおっしゃるんですからお言葉に甘えちゃいます)の隣にもう一人。私が先輩ばかり見ていたから気づかなかっただけのようです。

「お初にお目にかかります。わたくし、鳴楽園(めいらくえん)彰子(あきらこ)と申します。以後、お見知りおきをよろしくお願い申し上げます」

 鴉の濡れ羽色というやつでしょうか、艶のあるさらさらとした黒髪を揺らして、その人は丁寧にお辞儀。全身から優雅なオーラが漂っています。華奢で、とても野球などするようには見えませんが、しっかり練習着を着こんでいるあたり経験者なのでしょうか。

「……先輩、現時点の新入部員ってこれで全部なんですか?」

 鹿菅井さんが問うと、エリス先輩は頷きます。

「ハイ。今年はなかなか順調デス♪」

「これで順調って……ちょっと少なくないですか? 強豪だし、もっと部員もたくさんいて、レギュラー争いも激しくて……ってのを覚悟してきたんですが」

「アハハ、強豪デスカ……」

 エリス先輩は少し困ったように笑いました。

「世間ではそう言われてるみたいデスけど、全然そんなことないんデスヨ。たまたま優秀な選手が入ってきただけで、毎年まずMemberを揃えるのに一苦労している有様のようで……。このご時世、やっぱり皆さん共学に通いたいみたいデスネ」

「……ちなみに、今の二・三年生の人数は?」

「三年生が部長一人。二年生がワタシ含め三人。合計四人デスね。ワタシ以外は今、他の部の新入生をHead-huntingに行ってマス」

「――はっ……?」

 言わずもがな、野球は最低九人いないとチームが出来ません。ここにいる私達新入生を含めても八人。一人足りません。

「……倉さん、さっきは『努力次第でいつか試合に出られる』みたいなこと言ったけど――」

 鹿菅井さんは口元を引き攣らせて私の肩に手を置きました。

「おめでとう。あなた早々に出番ありそうよ」

「……へ」

 私の頭は理解が追いついていませんでした。何しろ、少しでもエリス先輩の近くで高校生活を送りたいという情熱が先にあり、その為なら野球も、どうせ試合で活躍とかは無理な話で、それでもエリス先輩と同じグラウンドで汗を流したり、間近でプレーを見られるだけで最高で、たまーに二言三言会話でも出来たらもう一生モノの想い出だなぁとか、その程度の認識しか持っていなかったのですから。

 そんな私が……エリス先輩と一緒に……試合に出る……?

 急に両肩がずっしりと重くなった気分でした。

「期待してマスヨ、シホリ♪」

 ――やっぱり、さっき死んでおけばよかったですね。

 だって想像してみてくださいよ。エリス先輩は違うって言いますけど世間的な評価では金剛女子は立派な強豪です。去年の夏は関東大会ベスト4止まりでしたけど、内容はその後優勝した絶対王者・琥珀ヶ(こはくがおか)高校をあと一歩まで追い詰めた惜敗。その実力は折り紙付きだし、しかも主力打者のエリス先輩は今年も健在。そりゃあ注目度は凄いでしょうよ。

 そんなチームに、ひょっこりと初心者の私が紛れ込んでるんですよ?

 何かの間違いだと思うでしょうよ。

「ここがワタシたちのClubhouseデス♪」

 そんなふうに私が狼狽している間に、私達新入生はグラウンドの脇に立つレンガ造りの部室へと案内されました。『硬式野球部』と書かれたプレートの掛かった扉を開けると、制汗スプレーの香り漂う教室の半分くらいのスペースに、ロッカーや戸棚やパイプ椅子が並んでいます。そこに色々な野球用具や部員の私物と思われる物品が雑多に置かれ……お世辞にもキレイとは言い難い状態です。

「いやぁ、あんまり片付いてなくてお恥ずかしいデスガ……えーっと、ここからこっちのLockerが空いてマスので、一年生はそこを使ってくだサイ」

「はーい」

 経験者三人は早速自分のロッカーを決めて持参した野球道具などを放り込みますが、私は何も持ってきていないので、とりあえず唯一の手荷物である鞄を入れました。

「Captainが戻ってきたら体験も兼ねて練習を始める予定デス。経験者の三人は大体分かると思いマスが、シホリには色々とOrientationが必要デスネ」

「あ、じゃあ私達先にグラウンド整備してきますよ」

 鹿菅井さんが先輩にそう告げると、みなもちゃんが「ちょっと待って」と遮ります。

「そうするとしほりんが先輩と二人っきりになっちゃうけど……大丈夫? 死なない?」

「が、頑張る……!」

 まさかの即戦力ショックで多少頭は冷えたので大丈夫だと思います。

 三人が部室を出ていくと、エリス先輩は「さて、シホリ」と神妙な表情で切り出しました。

「今日は来てくれて本当に感謝していマス。ワタシ達は一人でも多くMemberが欲しいデスから、アナタは初心者でも貴重な戦力デス」

「は、ど、どういたしまして……」

 うう……どんどんプレッシャーが……。

「――デスが、もう一度、よく考えてみてくだサイ。本当に野球を続ける覚悟がアナタにあるのか」

「え……覚悟、ですか?」

「そうデス。野球は、アナタがやりたいからというだけで続けられる競技ではありマセン」

 先輩は鋭い視線で真っ直ぐ私を見つめます。思わず身震いしそうです。

「BatやBallは部の備品が使えマス。Gloveも最初はそれでいいデス。しかしゆくゆくは自分のを買わなければいけマセン。他にもShoes、Uniform、それとは別に練習着などなど……野球は必要な道具がとても多い。物にもよりマスが、高いレベルでやろうと思えばそれだけ値段も張りマス。他にも遠征費や合宿費など、何かとお金がかかるんデス」

 先輩は「それに」と続けます。

「金銭面だけでなく、泥だらけの練習着の洗濯、身体を作る為の食事――いくらアナタにやる気があっても、そこを無視することは出来マセン。親御さんに負担をかける覚悟はありマスカ? ちゃんと話し合って、納得していただけるだけの情熱がありマスカ?」

「は……はい。親とは、もう話しました。納得も、してくれたと思います。でも、覚悟は問われました。うちの親、なんて言うかその……アスリート気質なので、本気で競技に挑んで、続ける気持ちがあるのかとか、そういう……」

「ホウ……シホリはそれでなんと?」

「……初心者だし――人数がギリギリとは知らなかったので――レギュラーになれるかとか、そういうのはちょっと自信が無いけど……でも、きっと私は野球を好きになれると。好きなものの為なら、どんなに練習がキツくても、三年間続けられる自信はあると……あの、そう、答えました……」

 最初はエリス先輩への憧れでしたけど、彼女のプレーを見ていると、本当にこの人は野球を愛しているんだなぁと分かるのです。そんな彼女が愛する野球を、私も愛してみたいと思ったその気持ちに、嘘偽りはありません。

「――Great」

 先輩はにっこりと優しく微笑んでくれました。

「厳しい言い方をしてすみませんデシタ。ではさっそくOrientationを始めたいところデスが……シホリは野球のことはどれくらい知っているんデスカ?」

「あ、基本的なルールとかは大体……。その、マンガで読んでるので……」

「ホウホウ、なら話は早いデスネ。ちなみに希望Positionなどは?」

「あ、そ、そういうのは……空いてるところで大丈夫です」

「HAHAHA! ウチは今ガラガラなので選り取り見取りデスヨ♪」

 はわわ……今私、あのエリス先輩と普通にお喋りしちゃってますよ!

「でもまあ、おそらく外野手をやってもらうことになると思いマス。えーっと外野手用のGloveは……これデスネ」

 先輩は段ボールに詰め込まれた古いグラブの中から一つを引っ張り出し、手渡してくれました。

「へー……これがグラブ……」

 左手に嵌めてみましたが、少し小さいような……やっぱり自分のを買う必要はありそうです。

「あの、新しいのっていくらくらい……?」

「Brandにもよりマスが、一番安いのでも定価で三万円から五万円くらいしマスネ」

「そんなにするんですか!?」

「他の用具にも言えマスが、値引き品を探せばもう少し抑えられマスよ。他に必要なのは――」

「えっと……ユニフォームと練習着と、スパイク……?」

「そうデスネ。あとShoesはWarm up用のRunning Shoesも必要デス。それとBeltとStockingsと帽子とBagとGround Coatと――」

 野球ってそんなに色々と用具が必要なんですか。エリス先輩はあれやこれやと次々にグッズを引っ張り出して見せてくれますが、私はもう目が回りそうです。

「――あとはUnderwearデスが……そういえばワタシまだ着替えてマセンデシタネ。丁度いいので着ながら説明しマス」

「……ふぇっ?」

 言うが早いか先輩は、鼻歌を歌いながら手早くブレザーを脱ぎ、スカートを下ろし、シャツのボタンを外して……えっ、ちょちょちょ、えっ!?

「せせせせ先輩!? そんな、いきなり……! はわわわ……っ」

 す、すごいです! 色白っ! 脚長っ! 胸は……ア、アメリカンサイズっ!

「んもー、これから毎日ここでみんなと着替えるんデスからこのくらい慣れなきゃ駄目デスヨ」

「ま、毎日っ……!」

 ごめんみなもちゃんやっぱり死ぬかもしれない私。

 エリス先輩はそのままセクシーな下着姿になると、当然のようにブラとショーツまでポイポイ脱いでしまい、なんと私の目の前にはあんなところやこんなところも丸見えの先輩が――

 ああ! スケッチブックは鞄の中! なぜ手に持っておかなかったのか! 今なら世界最高の裸婦画が描けるというのに! 仕方ないからこの目でじっくりぐへへへへ――

「ミ、ミナモ? 説明続けてもいいデスカ?」

「じゅるっ……あ、はいはい! 大丈夫です! 元気です!」

「はあ……えっと、まずこれが野球用のShorts――スライディングパンツというものデス」

 先輩がバッグから取り出したのは、スパッツのようなもの。

「略してスラパン。太ももの横のところにPadが付いているので、Slidingしても痛くないようになっていマス」

 そう説明しながら、先輩はスラパンに片足ずつその肉付きの良い締まった脚を通していきます。両足通って腰まで上げると、彼女の大きなおしりが伸縮性のある生地に包まれ、そのヒップラインや、鼠径部の食い込みが強調されていて、なんだかとっても――

「エ、エロい……(ゴクリ)」

「……シホリ?」

「ひっ! べ、別に何も!」

「なんだかアタルみたいなことを言いマスネ……」

「アタル……?」

「なんでもありマセン。コホン、で、上はまずスポブラを着てから……」

 先輩の大きなバインボインがスポブラで覆われていきます。またいつか会いましょう。

「このUndershirtを着ます」

 アンダーシャツは辛うじて知ってます。ユニフォームの下に見えるピッタリとしたやつですね。まあそのピッタリのせいで先輩の豊満な部分はさらに強調されてマニアックなエロティシズムを醸し出しまくっていますが。うひひ。

「――とまあ、この上にUniformを着ていくわけデス。ここまでOKデスか?」

「はい! 心のスケッチブックに刻み込みました! 全てをッ!」

「OK! それでは次に――」

 そんなエリス先輩の艶姿に全神経を集中していたが故の隙を突かれました。突然背後から何者かが抱き着いてきて、両手で私の胸を乱暴に揉みしだいてきたのです。

「ひぃっ!?」

「げへへへへへへっ!」

 その何者かは下卑た笑い声を上げながら、驚き固まる私の両胸を容赦なく攻め立てます。

「おおこれは……! さすがにエリスには及ばないがすげぇな! 手のひらに収まりきらねぇよ! いい新入生連れてきたなぁ! ぐへへへっ、ぐひひひひっ」

「ひ……や、やぁっ……!」

「アタル!? アナタ一体どこに隠れて……!」

 咄嗟のことに何も反応できなかった私でしたが、変質者がジャージの中に手を突っ込んで直接胸を揉もうとしてきて――もう駄目です! これ以上は駄目です! 進入禁止です!

「――きゃああああああッ!」

 私は上半身を勢いよく横回転させ、私の背中にくっついている変態のこめかみに左エルボーを思い切り打ち込みます。

「ぐぺっ」

 ゴスッという鈍い打撃音と共に右側へ跳ね飛んできた変態の頭。今度は上半身を逆に回しながら右の腕でこめかみを挟み込み、力の限り締め上げます。

 サイドヘッドロック。頭蓋骨固めです。

「あががががががいっででででででえええ……!」

 変態は苦悶の表情を浮かべて苦痛を訴えますが容赦はしません。腕を解き、へろへろになった相手の胸目がけ逆水平チョップです。

「オラァ!」

「オゴポッ!?」

 ぶっ飛んだ変質者は背中からロッカーに激突しぐったりと崩れ落ちます。さあトドメです。髪を掴んで無理やり立たせ、頭をお辞儀させるように下げて私の両太ももで挟み込み、上から両腕を変態の胴に回してクラッチ。

「おらあああっ!」

 そこから背筋力で変態の身体を引っこ抜くように持ち上げ、勢いをつけて半回転させながら目線の高さまで振り上げます。

「どりゃあああああああッ!」

 そして私自身が尻もちをつきながら振り下ろし、床に変態の背中と後頭部を叩きつけます。

 シットダウン式パワーボムです。

「ガッハ……ッ」

 動かなくなった変態の腰を持ち上げて体をくの字に折り曲げ、そのまま体で押し潰すように押さえつけます。エビ固めでフォールです。

「レフェリー! カウント!」

「ハ、ハイ!」

 私が急かすと、エリス先輩はその場の勢いで床を叩きます。

「ONE! TWO! THREE!」

「しゃああああおらぁ!!」

 聞こえます、私の勝利を告げる高らかなゴングの音が! 正義は必ず勝つのです!

「あ……あの……シホリ……?」

「――――はっ!? 私は何を!?」

 我に返りました。目の前には、白目をむいて気絶している痴漢――金剛女子の制服に、ぼさぼさの髪の毛。

「――って女の子じゃないですか!」

「Uh……それがさっき言ったアタルデス。ユウギリアタル。野球部の二年生デス」

「二年せ……先輩じゃないですか!? あわわわ……私はなんてことを……」

「い、いえ……彼女は普段からこういうセクハラ野郎なので当然の報いデスから気にせず……そんなことよりアナタの方デスヨ! 何ですか今のWWEみたいな技……っていうか、実は最初に会った時から気にはなっていたんデスが――」

 エリス先輩は私を立たせ、ジャージの上から体中をペタペタ触ってきます。

「あっ……先輩そんないきなり……っ!」

 え? 変態の時と反応が違うって? 当り前じゃないですかエリス先輩ですよ?

「やっぱり……!」

 先輩は何やら興奮を隠しきれない様子です。

「骨格がガッシリしていて背も高い……そして何より体幹その他全身に無駄なく発達した強靭でしなやかな筋肉……! アナタ一体何を……?」

「その……昔から親に鍛えられてて……」

 おかげで無駄に力ばっかりついて、山のように鉛筆を折ってしまうのです。

「ご両親は何を……?」

「父はプロレスラーで、母は管理栄養士をしています」

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