「勇者のいらない国」のあらすじ(ノベル大賞 選外)
2012年コバルト・ノベル大賞応募 選外
勇者アレックスを父に持つ少女、リゼットは、十二歳のある日、魔王が棲む〈西の森〉に入り、迷子になる。
そこで出会った少年に、森を騒がせた詫びとして、中に銅貨が入っているパイ生地と葡萄酒を渡したところ、無事に森を出ることができた。父はその少年は〈西の森〉の魔王だと云う。
それから五年。父を亡くしたリゼットは、窯で焼き上げたパン生地を『体』として売る魔女、ノアンナの店で働いていた。
ある日、店に落ちていた銅貨を誤って貯金箱に入れたところ、貯金箱が喋りだす。クオンと名乗るその貯金箱は、銅貨に寄り付いて店を訪れていた客だった。
クオンの腹の中には、一年かけて貯めた金が入っている。それは、借金の肩にギルマン子爵の養子になった弟、トーマスを買い戻すために必要なものだった。
トーマスは、雪像に命を宿す力をもっていた。体の弱い弟にギルマン邸で面会した帰り、リゼットは子爵から〈西の森〉の魔王を捕獲するための協力を求められる。
渋々承知したリゼットが森で出会ったのは、魔王の振りをするため、魔王の仮面をかぶったトーマスだった。
そのまま、魔王として棺に囚われる弟。なすすべなく店に戻ったリゼットは、ギルマン邸の夜会で魔王が展示されると聞き、弟を取り戻す決意をする。
夜会の晩、弟をおさめた棺の錠を解いたところ、奇妙な液体があふれだし、会場は混乱に陥る。クオンは、腹の中の金をばらまき、光沢のあるものを食す銀燕を〈西の森〉から呼び寄せて、液体を食べさせる。
クオンの正体は〈西の森〉の魔王であり、リゼットに見合った体を手に入れるため、店を訪れていたのだった。
森に帰るクオンに、餞別として貯金箱を譲るリゼット。その中には、まだ銅貨が残っていた。