「弟の影を探しています。」のあらすじ(ノベル大賞 一次通過)
2010年コバルト・ノベル大賞応募 一次通過
一つ年下の弟、智弘と同居している大学生の千晴。
姉に似ていない弟の容姿は女学生たちに好かれているが、道端で見かける幽霊を影と呼び、ごく当たり前の存在として受け止める弟の性格は、姉にとってはまともとは思えなかった。
失恋をきっかけに、弟の送迎係を不服に思った千晴は、友人の里美から誘われた手芸サークル入部を口実に、送迎係を辞退。
手芸サークルを見学した際に、編み物を得意とする男性部員の高野と出会う。
数日後、弟と同居するアパートに帰宅した千晴は、言葉も感情も失くした異常な姿の弟を発見する。弟は影を失くしていた。
世間の常識から逸脱した弟のことを誰にも話せず、思い悩みながら、弟の影を探す千晴。大学を休み、バイトも辞め、世間から孤立していく中で、弟に怒りをぶつけ、実の家族にも救いを求められずにいた。
ある日、深刻な面持ちで里美が訪ねてきて、弟の持ち物である手帳を見せる。
影を失くしたその日、里美と高野先輩は弟を見かけていたのだ。
弟の体にとりついた優太という小学生と共に先輩の家に向かった二人は、白い猫を見かける。猫の足には、優太の姉の由香と智弘の影が絡みついていた。
優太と由香の二人を天国に見送った千晴は、布切れのような弟の影を補修し、体に縫いつける。
翌朝、元に戻った弟から振る舞われた料理に、千晴はいつものように嫌味を言う。
お礼を言うため先輩の家に向かう二人。
道中、弟は影を失くした経緯を説明し、春になったら結婚することを明かす。弟が自立することを淋しく思う千晴だったが、高野先輩という存在により、思わぬ形で春が訪れようとしていた。