「選ばれなかった世界」のあらすじ(ロマン大賞 二次通過)
2010年コバルト・ロマン大賞応募 二次通過
青の王国の下級貴族リアノ・セレストは、婚約者アレイ・セイラントとの挙式のため、十年ぶりに父の領地セレストを訪れる。
セレストでは母ノーマと再会するが、彼女は夫や娘リアノに関する記憶を一切失い、孤児たちの母がわりとなっていた。
左手の薬指の欠落を隠すため、常に手袋をはめているリアノ。
セレストに到着した夜、引き出しの中から、落し物を拾った、という不思議な手紙を見つける。
拾い主が待つという庭に出掛けたところ、シュロと呼ばれる朱い眼の鬼に遭遇する。追い立てられるようにして迷い込んだ奇妙な城は茨に覆われており、最上階には、子どもを身ごもった姿の女神ルシカがいた。
そこで出会った朱い眼を持つ青年ひだか陽高はリアノをあさひ朝緋と呼び、リアノ自身には覚えのない朝緋のことを口にする。
紅茶に映った見覚えのない自分の顔に驚き、陽高にけがを負わせて逃げ出したリアノは、追いかけてきた陽高から小さな卵を贈られる。
朝、部屋で目を覚ましたリアノは、陽高も茨の城も夢であったと認識し、日常に戻っていく。しかしその夜、引き出しの中で卵を見つける。
再びルシカに入り、陽高と再会したリアノだったが、茨姫の劇に興じる子ども達に巻き込まれ、悪い魔女の姿に変えられてしまう。
ルシカでは、影の形によって実物の姿形が変わるという。影を編む紡錘の暴走により、茨はリアノ達を襲う。陽高は魔女の姿をしたリアノを見つけ出し、雨を降らせて茨を消し去る。
セレストで目覚めたリアノは、婚約者として自らアレイの元を訪れるが、従者から手厳しい言葉を浴びせられ、リアノという名を疎ましく思うようになる。
リアノではなく朝緋になりたいと願うリアノ。ルシカへ入るための鍵が卵であると知ってから、卵を引き出しの宝石箱の中に隠していたが、偽者のリアノによって持ち去られてしまう。
彼女を追って庭に出たリアノは、ルシカに存在する陽高の妹のひよりが犯人だと知る。卵を取り戻したものの、呪いにより、影をほどかれ縫いぐるみの姿に変えられてしまう。
影を探して森へ出向いたリアノと陽高の弟ひがの。影をくわえた鴉を見つけたのも束の間、雨によってルシカが溶けたため、現実世界の他国の領地に侵入してしまう。
国境を警備する黒の王国の軍人に取り押さえられるが、ひがのが自らをアレイと名乗って油断させ、ルシカに逃げ込む。
ひがのの影を辿って城に戻ったリアノだったが、朝緋のことを好きか、との問いかけに首を振る陽高を目撃し、涙を流す。
リアノの涙は侍女リエナによってすり替えられた雨乞鳥の卵に当たり、孵化させる。
現実に戻ったリアノ。孤児院での茨姫の読み聞かせの最中、寝台で眠る陽高と瓜二つの少年を見つける。
彼は十年もの間昏睡状態に陥っており、リエナは、彼こそがリアノの兄ユークだと告白する。
遺書を置いて失踪したアレイを探していた従者によって、自らが孤児だと知ったリアノは、現実を捨て、ルシカで生きることを選んだユイと共に、ルシカに渡る。
ルシカは、雨乞鳥の翼から生じる雨によって崩壊していた。シュロの姿をした陽高は、リアノを救ったのち、姿を消す。
リアノは、九才以前の記憶をルシカの中に落としていた。それはひよりと呼ばれ、十年もの間、ルシカにあった。ひよりを受け入れ、指と記憶を取り戻したリアノ。現実ではユークが目覚め、リアノを温かく迎える。しかし、陽高とユークが別人であると気づき、陽高を探すためルシカに飛び込む。
海岸にいた陽高は、影を編んでルシカを作ったこと、養子にいくリアノを引き止めようとして、リアノ達の影を千切ったことを明かし、津波に呑まれる。
現実では、アレイからの謝罪の手紙と記憶を取り戻した母が待っていた。
ユークは、陽高の正体が、かつてリアノが拾った卵の雛であることを明かす。
憎むことで陽高を忘れようとしていたリアノは、自分は陽高の母だったことを思い出し、焼けた銀木犀の根元に埋められた本物の陽高を探し出す。
母の協力もあり、陽高に再会したリアノ。幸せになること、また会うこと、その約束を交わし別れる。
二年後、リアノの腹の中には、陽高が宿っていた。