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シンデレラ

ペロー童話(ディズニーもこちら側かと)を元にしています。ちらっとだけグリム童話も。

国の名前も、人物の名前も、ペローやグリム童話の登場人物とは、一切関係ありません。

童話パロディー第4弾。

登場人物は、いつものあの人たちです。

第1〜3弾の童話っぽい感じとは少し違いますが、息抜きに、また少しでも笑っていただけたなら、幸いです。


 昔々、ベアトリクス王国の、ある貴族の家には、紫色の瞳を持つ、かわいい女の子がいました。

 名前を、マリスといいました。


 お母さんが病気で亡くなってしまうと、マリスを可哀想に思ったお父さんは、やがて、新しいお母さんエリザベスを連れてきました。


 そのお母さんには、二人の娘がいました。

 背の高い、綺麗なお姉さんの方はサラといい、背が低く、まだあどけない顔をした、マリスよりも少々年下の女の子は、マリリンといいました。


 家族が増えて、一気に賑わった家の中でしたが、間もなく、なんと悲しいことに、お父さんは、仕事で外国を訪問中に、亡くなってしまったのです。


 マリスが悲しみに明け暮れていると、エリザベスと二人の義理のお姉さんたちは、途端に態度を変え、マリスを屋根裏部屋に追いやり、家事を押し付けるだけではなく、いじめ始めたのです。


 美しかったマリスは、ドレスの代わりにボロを着せられ、お姉さんたちの考え出したいろいろないじめや、口汚く罵る言葉にも耐えていました。


 お姉さんがわざわざ暖炉にぶちまけたエンドウ豆を、しょっちゅう拾わせられていたため、常に灰だらけだったので、家族だけでなく、近所の人たちからも、『シンデレラ(灰かぶり姫)』と呼ばれていました。


「シンデレラ、早く食器を片付けなさい」


 母エリザベスが、冷たい目を向けています。


「はい、ただ今。お母さま」


 マリスは、テーブルの上の銀の食器を重ねて運びます。

 洗い物が終わると、床の掃除が待っていました。


「シンデレラ、この間注文した私のドレス、受け取ってきてちょうだい」

「シンデレラ~、マリリンのリボン、探してよ~」


 サラが両手を腰に当てて踏ん反り返り、マリリンはソファで寝そべり、退屈そうに、ブラブラと足を振りながら、命令します。


 掃除中であったマリスは、持っていたバケツを置き、柄の長いモップで、ドン! と床を突きました。


「ちょっと、いい加減にしてよねっ! 今、あたしが掃除で大変なの、見ればわかるでしょう? 自分のことくらい、自分でやってよ!」


 長身のサラが、上からマリスを見下します。


「なによ、あんた、お母さまの言うことは聞けても、私たちの言うことは聞けないっていうの?」

「そ~だよ~!」


 マリスよりも背の低いマリリンは、ソファでお菓子をつまみながら、ニヤニヤしています。


 キッと、マリスは、マリリンをにらみました。


「だいたいね、あんた、あたしより年下じゃないの! それで、なんで、あんたの方が『姉』なのよ、おかしいでしょ!?」


「だぁ~って~、お母さまがそう決めたんだから、マリリンに文句言わないでよ~! ……あ」


 マリリンの手から、焼き菓子がポロポロとくずれて、床に落ちました。


 それを見たマリスの目が、「それを、誰が片付けると思ってんのよ?」と、鋭い視線をマリリンに送りますが、マリリンは、フッと鼻で笑って、肩をすくめました。


「掃除は、シンデレラの仕事でしょぉ~? 片付けといて」


 マリスの手から、モップの柄が離れ、床に倒れました。


「もー、我慢ならないわ! いつも、いつも!」


 マリスが手を振り上げると、マリリンが慌ててソファから下りて、サラの後ろに回ります。


「サラちゃぁ~ん、コワいよ~! シンデレラが、ぶとうとするぅ~!」


「よしなさいよ、シンデレラ! まったく、乱暴なんだから!」


 サラが、マリスの腕を掴んで止め、嫌がるマリスを、無理矢理、屋根裏部屋に連れていくと、外からドアの鍵を閉めてしまいました。


「しばらく、そこで反省するのね!」


 マリスは、悔しさのあまり、涙を流していました。

 窓から入ってきた小鳥も、壁の割れ目から顔をのぞかせたネズミたちも、心配そうに見ています。


「泣いてばかりは、いられないわ。いつか、こんなところ、出て行ってやるんだから」


 行く宛などありませんでしたが、マリスは、姉たちに仕返しをしてから、出て行ってやろうと思いつくと、それを実行する日のことを楽しみにしていれば、日頃の仕打ちにも耐えられる気がしたのです。


 買い物に出かけたついでに、マリスは、町の鍛冶屋に寄ると、余った鉄で作ってもらった靴を、こっそり持ち帰り、屋根裏部屋に隠しました。


 ドーン、ドーン……!


 いつしか、家の中では、大きな音が鳴り響くようになりました。


「なんなの、あの音は?」


 母エリザベスが顔をしかめて二人の娘を見ますが、サラもマリリンも、わかりません。


「なんだか、上から聞こえてくるみたいだねぇ~」とだけ、マリリンが呟きました。


「ちょっと、シンデレラ! 何を騒々しい!」


 階段の下から、エリザベスが大きな声で言いました。


「何でもありませんわ、お義母さま!」


 屋根裏の扉の中からマリスの返事が聞こえると、音は止みましたが、しばらくして、また、ドーン、ドーン! と鳴り出しました。


「うるさいわねっ、シンデレラ! 一体何をしてるのよ?」


 今度は、サラが下から怒鳴りますが、返事もなく、音は止みました。

 ですが、また、しばらくして、鳴り出したのです。


「ちょっとぉ~、うるさいよぉ~!」


 今度は、マリリンが、階段の下から言いました。


 ガチャッと扉が開くと、シンデレラが階段を下りてきます。


「ごめんなさいね、マリリンお姉さま」


 にっこり笑顔でそう言ったものの、マリリンは怖がって逃げてしまいました。


 朝早く、窓にやってきた小鳥が、マリスを起こします。


 マリスは、起きると、まずは、義母エリザベスの飼っている黒ネコのジュニアに、ミルクをやります。

 そして、にわとりや、アヒル、ガチョウには、トウモロコシをやると、大急ぎで、朝ご飯のしたくに取りかからなくてはなりません。


 お母さんもお姉さんたちも、まだ眠っています。

 したくが出来たら、お母さんたちを起こし、食べ終わったら食器を片付け、洗濯と掃除が待っています。


 それが終わり、やっと自由な時間になると、屋根裏部屋に戻ります。


 すると、ドーン、ドーン! と、家の中に音が響き渡るのです。


 始めは何事かと不審がっていたお母さんとお姉さんたちでしたが、マリスにいくら文句を言ってもおさまらず、わざわざ屋根裏部屋の階段を登ってまで見に行くのは面倒臭かったので、放っておくうちに、慣れてしまい、何の興味も持たなくなりました。




 そんなある日のことです。


 ベアトリクス城で、舞踏会が開催されるという、お布令ふれが出されました。

 お城の王子様が、結婚相手を見付けるために、国中の娘たちが招待されるのです。


 町で、それを聞きつけたシンデレラは、自分も行ってみたいと、お母さんに言いましたが、お母さんは、冷たく言い放ちました。


「家の仕事がたくさんあるんだから、無理に決まってるじゃないの。だいいち、お前には、着ていくドレスもないのだから」


 マリスは、がっかりしてしまいました。


 対するお姉さんたちは、とても贅沢なドレスを購入し、きゃっきゃ喜んでいます。


「シンデレラー、ちょっと手伝ってよ!」

「シンデレラ~、リボン結んで~!」


 サラのドレスの背にある留め金をはめるのを手伝い、マリリンの髪を結い、リボンで結びます。


「王子様って、どんなお方なのかしら」


 マリスが、溜め息混じりにそう言うと、サラがウキウキとしながら答えました。


「第一王子のセルフィス様は、超イケメンで、性格も穏やかで、お優しくて、超人気者なんですって! なんとしてでも、射止めなくちゃ!」


「マリリンも~! イケメン王子様と、絶~っ対、踊るんだぁ~!」


「あら、マリリンちゃん、王子様は、お一人じゃないのよ。今夜は、私に譲って、あなたは、第二王子にすればいいわ。そうしたら、私たち姉妹は、結婚後も姉妹のままよ!」


「あっ、そうだね~! ナイス・アイデア~! でも、第二王子って、どんな人? セルフィス王子の噂しか、聞いたことないよ~?」


「そうよね。でも、兄弟なんだから、きっと、第二王子もイケメンなんじゃない?」

「そっか~! じゃあ、マリリン、第二王子様でもいいや~!」

「ねーっ!」


 二人の会話を聞いていたマリスは、だんだん呆れ顔になっていきました。


 お母さんと、二人のお姉さんが馬車で出かけてしまっても、マリスの仕事は終わりませんでした。


 マリスは、王子様と結婚までは出来なくてもいいと思っていました。


 毎日のこんな生活から、ほんのひとときでもいいから、夢のような気分を味わってみたい、と思いましたが、出かける前に、お母さんが暖炉の灰にばらまいていった、大皿いっぱいの豆を拾う、途方もない作業は、ちっとも終わりそうにありません。


 自分には、お城の舞踏会などというきらびやかな世界を、のぞいてみることさえ出来ないのかと、悲しくなってきました。


 幸い、豆を拾う仕事は、小鳥たちや、屋根裏に一緒に住むネズミたちも手伝ってくれたので、なんとか終わりました。


 ですが、馬車もなく、着るドレスもなくては、どうしようもありません。


 日が暮れ、暗くなり始めた庭に出て、ぼう然と月を眺めていると、宙に、小さな光が浮かんでいます。


 それは、ゆらゆらと、揺れながら大きくなっていくと、マリスの目の前で、はじけるようにして光が散り、そこには、人の姿をした者が現れたのでした。


 現れたのは、誰なのでしょう?


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