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黒い伝説  作者: 長瀬
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伝説とのであいⅡ

 驚きの表情を浮かべ、マリーナは立ち尽くしていた。驚きの表情と言っても、マリーナの表情は判りづらいのであまり変化は分からないが、確実に驚いていた。だがそれは、当然の話であり普通の魔術師でも驚くべき事だったのだ。


 “私は"記録"だ、トミーリィ・アライドフスキーの魔術で動かされている。君のような人を迎え入れるためにね。”


 そんなことを簡単に口に出したのだ、そんなことが可能なのだろうか。


「しかも、私には人格や知能が与えられ、こうしてお嬢さんと話が出来る。本を朗読させるくらいだったら、"師達"の連中も可能だがこれが出来るのはアライドフスキー博士くらいなものだ。元々は博士の研究の補佐役としてやっていたが博士が亡くなった後はこうして訪問者の対応をしているよ。」


「…私はマリーナ・チェルノヴァという。名前は?」


「…君、父称は?」


「…答える必要性はある?」


 突然、そんなことを聞いてきた…何ものかに、マリーナも少し困惑した様子である。


「あぁ、済まない。私は"ケイ"と呼ばれていた、それが私の名前だと思う。本にもそう書いてあるからね。」


「…私の名前はマリーナ・ミハイロヴナ・チェルヴァだ。」


「…そうか、そうだったか。君、お祖父さんの名前はニキータ・チェルノフだね?」


 突然の進展に、マリーナも多少驚くがここまで知られてしまっている物は仕方がないというように縦に首を振って頷いた。


「それなら、君に一つお願いしたいことがあるんだ。良いかい?」


「…頼み?」


当然、いきなりそんなことを言われても困惑するだけである。


「そう…頼みだよ。それが、君が知りたがっている事に一番近ずく方法だからね。」


「…だが…」


「そうだね…これは私が人間に頼む最後のチャンスになるかも知れないからね。強引にでも、頼みたいんだ。」


「…」


(…学園でもできることは少なくなってきた…頼みの内容によっては…)


「もし、受けてくれる事になったら、大陸を横断することになる。」


「…大陸を…」


「大変だとは思うけどね、学園の事もあるし。」


「…話は聞く…」


 そして"ケイ"は、こう言った。


「"道具"の存在を…残り二つの道具が本当にあるのか、確かめてきてほしいんだ。」


「…残り…二つ?まさか…」


 大体、想像はついていた。しかし"残り"と言う表現が何とも怪しいものだった。


「その通り、一つはここにある。銘刀"クトゥネシリカ"。どんな物体をも切り裂き、またその刃は美しい金と黒、そして切断することに特化した微妙に反った刀身。研がずにも一〇〇人を切り捨てた。とも言われるほどの剣となっている。」


 余り大げさな表現よりも何より、なぜ…


「…だが…なぜ名前を…」


 そうだ、名前を知っている理由がわからない。それは誰もが抱く当然の疑問だった。


「そうか、確かに気になることだな。」


 しばし、沈黙の時が流れ、"ケイ"は答えた。


「博士と君のお祖父さん、ニキータ・チェルノフは一緒に研究していた仲間なんだよ。勿論、私もね。」


 恐らく、マリーナは人生の中で二度目の、驚きを感じていた。まさか、こんな所で自身の祖父の…知り合いなどではなくの友人が語っているのだ。しかも、普通に生きていれば会うことはない、記憶をはっきりともつ人物…ではないのかもしれないが、それは確かに目の前で意志を持ち話しているのだ。


「…考えさせて…」


「そうだね、じっくり考えてほしい。大陸を縦断することになるからね…君のお母さんもお父さんも考え抜いて、決めたからね。」


 もはや、マリーナは冷静さを欠いていた。あまりにも突然すぎる多くの事実の発覚にマリーナも驚いているのだ。とりあえず、自宅に帰って深く考えようと、家路についた。


「…ふぅ…」


 自宅に帰り、椅子に座る。何とか頭の中を整理して少しは落ち着いたようだが、心中は混乱真っ只中である。そんな所に、来訪者が現れた。


「マリーナぁー、居る?」


 クラリスであった。


「今日はずいぶんとあわててたからしんぱいしちゃったのよ。」


「…入って。何の用で来たの?」


「ま、用って程でもないんだけどね。」


 すると、大事そうに鞄から箱を取りだし、机に設置した。


「…何?これ」


 当然、謎の物体に対して疑問は持つだろう。


「むむっ、変なものかと疑っているのね?いいわ、見せてあげる…とっりゃあああぁ!」


 妙なかけ声とともに謎の白い箱の招待が暴露される。


「…?」


 どうやらマリーナには分からなかったようだ。しかしクラリスは気にもとめずその謎の物体…


「ただのお菓子だよ、ドーナツよ中身は甘いフェンティスクリーム。お母さまに教えてもらったのよ。」


「…食べろと?」


 半ば嫌々そうにも見えるがマリーナにとっては普通の対応であって、単純な疑問符である。


「そうよ!食べてほしくてきたの!早く!口に!投入!!ファイアー!!!」


 謎すぎるかけ声とともにマリーナの口元にものすごい速度で放り投げた。よい子のみんなと呼ばれる類の人物からは敬遠される行動だ。


「!?」


 当然、避けられるはずも捕まえられるはずもなく口に命中、しかしマリーナの口はそれほど大きくないので半分が口に入って咥えるような形になった。


「…」


「ネ、美味しい?ねぇ聞いてる?マリーナは喋らないからなぁ…」


 恐らく、喋らない以前に口の中がドーナツで一杯になっていることに問題があるのだろうが、クラリスは気付いているのだろうか。ようやく口の中のものが無くなった所で、会話が再開される。


「…驚いた。」


「え、おいしかった?」


「…うん。」


 こうして、クラリスの作り出した不思議な世界は幕を閉じた。


「でもさ、マリーナも何か悩み事とか迷ってることとかがあったら考えるのを止めて、やってみるっていうのもいいかもしれないよ。」


 ふと、クラリスはそんなことを言った。


「今日、少しらしくないっぽく見えるよ。私、分かるよ、マリーナのそうゆう表情。二年もずっといるもの、少しくらいはね…」


「…それが目的?」


 思わず、そんなことを言った。クラリスは、


「さあねー、あ、ドーナツ全部あげる!早く普段通りにもどってね!」


 そう言うと駆け足でどこかへ行ってしまった。しばしの間、マリーナは立ち尽くしていたが一つドーナツを口に放り込む。(…迷いは、振り切る…か。…クラリスらしいが…そうゆう事も考えなくてはならないのか…)そう考えるのもつかの間、ドーナツを飲み干すとまた樹海の奥へと向かっていった。


「早いね、答えは決まったのかい?」


 少し、ほんの少しだけ言葉を詰まらせるが、マリーナは言った。


「…やらせてもらう。今から準備する、何が必要?」


 言い切った。それはこの地を離れ、大陸であてもない探し物をするのに等しいにもかかわらずだ。


「いいのかい?本当に…」


「…」


 無言で頷き、先程の指示の扉を開けた。そこに入っていたのは、一振りの変わった形の剣だった。概ね説明通り。だが真っ黒な鞘に入っているせいで刀身は見えなかった。


「…重い…」


「それは君が使っていい。ただし、絶対に他人の手に渡らないようにね。」


 剣を持ったことのない、しかも力はある方でないマリーナにとっては重く感じて正解だろう。


「注意してほしいのは、本当に剣を切れる剣だと言うことと、研ぐ必要は無いということだ。あと鞘をつけたままでも武器になるから、それを覚えておいて。」


「…他は?」


「剣術は分かる?」


 首は横に振られた。ノーである。


「じゃあ本棚の下に剣術の資料があるから、それで覚えるんだ。私には物体の形状認識はできないからね、それが君の先生になる。その資料も誰にも見せてはいけないよ、博士の大切にしていたものだから。」


「…」


 何も言わずに、その本を鞄にしまう。


「本当に、やるんだね。命の危険もあるし、残り二つは無いかも知れない。君の両親達もやらなかったことだ。」


「…ある友人が、迷ってるくらいだったら何も考えず決めてみるのもいいかもしれないと…」


「そんな簡単に決めてしまっても良いのかい?一ヶ月でも一年でも待っていたのに、学園もやめなければならないし…そこにいる友人とも離れなければならないんだよ?」


「…っ!?クラリス…サムも…」


「私達を置いてくなんて…ゆるさないわよ。」


「"も"ってなんだよ…」


 マリーナは、驚愕の表情を浮かべた。目を見開き、何が起こっているのか理解できていないようだ。それもそのはず、この二人は魔術と勉強以外の様々なことを教えてくれた、大切な"友人"であるのだ。今着ている服だって、クラリスに選んでもらった物なのだ。


「マリーナ、私達もついて行くわ。」


「はぁ…俺"も"ついて行こうかなぁ…」


「…だが…死ぬかもしれないし…あなた達を巻き込むわけにも…」


「あのなぁマリーナ、お前そうゆう事、足りてないんだよ。勘違いしてるよ全く…」


「…」


 サムは言った。


「友達ってのはな、確かに、友達を心配するものだ。だからと言って、友達を置いて自分だけ危険を犯すなんて間違ってる。友達は楽しい時間を共有するだけじゃない、危険な事や大変な事でも一緒に協力して一蓮托生の気持ちで乗り越える。それが友達…いや、"親友"てもんだろ?だから…」


「だから、私達は手伝いたいのよ。マリーナの事をね…」


「いいだろ?マリーナ。三人でいれば成功の確率も高い、そうだろ?」


「…」


 マリーナの肩は、小刻みに震えていた。このような事は、両親が"消えた"時以来だろう。唇も震え、声も途切れ途切れにこう言い始めた。


「…怖かった…また…失うのが…」


「失う…?どうゆう事だ。」


 突然のマリーナの告白に、空気が張り詰める。


「…両親は…この国を守って死んだんだ…五年前に…」


「五年前の戦争…カッサル帝都の侵攻…通称"死の行進"…」


 サムは、そんな事を呟いた。しかしクラリスはもちろんのこと、"ケイ"までもが頭に疑問符が付いた表情…といっても"ケイ"は人でもないし表情も見えないが…をしている。


「五年前にそんなことが…」


 なぜならクラリスは二年前にこの町にやってきているし、クラリスのいたジェルッツラントから見れば辺境の地である。"ケイ"も外部の情報は殆ど入ってこないため、情報を持ってくるマリーナの両親がいなくなってしまっては知ることもできないのだ。


「でもなんでマリーナの親たちは戦争に?」


 クラリスの疑問に答えるように、マリーナはやはり震えた声で続けた。


「…あのとき…帝都軍は町のすぐそこまで迫っていた…」


「かなり町は緊張していたな…」


「…その…時に…」


 ついに、マリーナの足元には数粒の涙が落ちていた。


「マリーナが泣いてるとこなんて始めt痛っ…クラリス…」


「サム…やめなさい…」


 しかしマリーナは話し続けた。


「…"許して"と…一言だけ言い残して…行ってしまった…」


「それで…戦死してしまったというわけか…」


 しかしサムは堂々と、言葉を放つ。


「心配ない、俺もクラリスもお前の前からいなくなったりしない。絶対にな。」


「そうよ、でもマリーナこそ私たちの前からいなくなろうとしたわよね。でももう私たちは運命を一緒に走るのよ…」


「"歩む"だろ。」


「う、うるさいわね。とにかく!私とサムはあなたと一緒に行動する、そう決めたから!」


 そう言って、クラリスとサムは手を差し出した。


「…ありが…とう…二人…共…」


「マリーナ、これでいいのかい?」


「…」


 マリーナはうなずいた。そして、二人の手を取ると、言った。


「…必ず見つけ出す…」


「私もしばらく、お休みのようだね…マリーナ、クラリス、サム、必ず帰ってくるんだよ。何年かかってもいい、必ず生きて…三人そろって帰ってくるんだ。」


「…はい」


「わかったわ」


「当然」


 そう言うと、小屋を後にした。


「…ありがとう…明日の朝、私の家に集合でいい?」


「わかった、じゃあな。」


「うん。またあしたね。」


 二人が最後の家路についたのを見送ると、マリーナも小屋から荷物を運んで帰ろうとした。


「待って、一つ忘れていた。棚の下、統一通貨が五〇〇〇ドゥーラある。旅にお金は必要だ、忘れないでね。」


「…わかった…じゃあまた…」


 こうして、"道具"を探すための旅が始まりを迎えるのだった…

第二話です。まだまだ拙い文章ですが、ご意見等あればお願いします。

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