十五歳の伯爵夫人第九話『移動』
帝都にある皇宮で開かれる、晩餐会に出席する為に、伯爵閣下と私は自動車で皇宮へと向かっています。
『儂が其方と同じ歳だった五十年前…、半世紀も前だな、当時は帝都内で貴族が移動する際は馬車で移動したが、今では帝都では、すっかり馬車を見かけなくなったものだ』
自動車の窓から、帝都の様子を眺めていられた伯爵閣下が、どこか昔を懐かしむ感じで言われました。
『伯爵閣下は、自動車がお嫌いなのですか?』
伯爵閣下は、私の言葉に苦笑を浮かべられると、窓から目を離して私の方を向かれて。
『いや、決してそんな事はないぞ、我が最愛の妻よ、儂は十八歳の時に帝国軍に入隊して、それから三十五年間、五十三歳の時に退役して予備役中将となるまで、常に最先端の技術を導入する帝国軍に属しておったが、技術革新により、多くの兵士の命が救われたのは、紛れもない事実だからな』
私は伯爵閣下のお話に頷いて。
『帝国軍に所属している侯爵閣下も、伯爵閣下と同じ御意見なのでしょうか?』
伯爵閣下は、顎髭を御自分の手で撫でられながら、私の言葉を暫し考えられて。
『其方の実の兄である義兄は、儂が帝国軍を退役した後に、帝国軍で必要とされる物を可能な限りお教えした人物だからな、帝国東方の紛争地帯でも、義兄は勇名を馳せているらしい、儂のかつての部下達からの手紙でも、【流石は伯爵閣下の薫陶を受けられた御方です、極めて広い視野を持ちつつ、現実的な手を着実に打たれる、沈着冷静な名将だと、感服致しました】と、嬉しい内容の手紙を送って来ておる』
私は伯爵閣下に対して頷いて。
『母は侯爵閣下が、最前線での任務を志願したと聞いた際は、大変心配をしていました』
伯爵閣下は、私の言葉に深く頷かれて。
『母が息子の事を心配するのは当然の事だな、だが帝国男子たるもの、帝国軍に所属したからには、皇帝陛下と帝国の為に身を捧げる覚悟が必用だ』
『…はい、伯爵閣下』
伯爵閣下は、俯いてしまった私の手を優しく取って下されて。
『案ずるな、我が最愛の妻よ、義兄が東方から帝都に帰還されたと言う事は、東方も落ち着いたと言う事だ、それに儂は今では退役して予備役の中将だ、余程の事がない限りは、其方と息子の側を離れぬと約束しよう』
『ありがとうございます、伯爵閣下』
私は笑顔を浮かべて、伯爵閣下に対して御礼を言いました。