十五歳の伯爵夫人第八話『乳母』
『んくっ、んくっ、んくっ』
外出先から戻った私は、メイド達に手早く外出着から室内着へとの着替えを手伝わせて、子供部屋で伯爵閣下の御嫡男に乳を与えています。
『伯爵閣下と私が留守にしている間、伯爵閣下の御嫡男に変わりはありませんでしたか?』
長年伯爵閣下にお仕えしている、初老のメイド長は私に対して深々と御辞儀をすると。
『はい、伯爵夫人様、一度オムツを替えた以外は、大変良くお眠りになられていました』
『んくっ、んくっ、んくっ』
私は元気に乳を飲んでいる、伯爵閣下の御嫡男の顔を眺めて。
『それは良かったです、メイド長、貴女のように子育ての経験が豊富な女性が、この子の側に居てくれて、心強く思っています』
『勿体無い御言葉です、伯爵夫人様』
『入るぞ』
伯爵閣下が子供部屋に入ってこられましたが、手振りで私には、そのまま伯爵閣下の御嫡男に乳を与え続けるように指示されたので、私は椅子に腰掛けたまま、伯爵閣下の御嫡男に乳を与え続けました。
『んくっ、んくっ、んくっ』
『良き子だ、良き子だ、今日も元気に母の乳を吸っておるな』
伯爵閣下は、慈愛に満ちた眼差しで、伯爵閣下の御嫡男を眺められた後に。
『メイド長、儂と妻とメイド長の三人だけで話したい』
メイド長は、伯爵閣下に対して深々と御辞儀をすると。
『はい、伯爵閣下、お前達は下がりなさい』
『はい、メイド長』
メイド長の部下のメイド達は、頭を下げると子供部屋から出て行き、子供部屋の扉を閉じました。
『さて、我が妻よ、先程宝飾店でも話したが、この子の為の乳母を雇おうと思うのだが、実はメイド長の姪が最近娘を産んだばかりでな、その姪を乳母として雇おうかと考えている』
私は伯爵閣下の御嫡男に乳を与えながら、メイド長の方を見て。
『メイド長の姪は、伯爵閣下のご領地に住んでいるのですか?』
メイド長は、私に対して頭を下げて。
『いえ、伯爵夫人様、私の妹が帝都の商家に嫁ぎ、妹の娘である姪の家も帝都にあります』
『けふっ』
『もうお腹一杯ですか?』
私は伯爵閣下の御嫡男の背中を優しく叩いてゲップをさせると、赤子用のベッドに優しく横たえて、毛布をかけてあげて、私の胸元を整えてから、伯爵閣下に対して。
『伯爵閣下が問題無いとお考えでしたら、私にも異存はありません、メイド長の家族でしたら、安心して伯爵閣下の御嫡男を任せる事が出来るかと思います』
私の言葉に、メイド長は深々と御辞儀をして、伯爵閣下も頷かれて。
『うむ、其方がそう言ってくれるのであれば、直ぐに雇うとしよう、メイド長、頼んだぞ』
『はい、伯爵閣下、伯爵夫人様。お任せ下さい』
メイド長はそう言うと、私達夫婦に対して、深々と頭を下げました。