十五歳の伯爵夫人第七話『髪留』
『伯爵夫人様の髪形に一番お似合いになられる髪飾りとしましては、髪留をお薦め致します』
私のお兄様でもある侯爵閣下がお帰りになられた後、伯爵閣下と私は、夫婦二人でクリムゾン宝飾店の店員が薦める髪飾りを見ていました。
『髪留か、確かに我が妻の髪形には似合うな、其方は何か気に入った品はあるか?』
私は伯爵閣下に対して頷いて。
『はい。伯爵閣下。そうですね…』
宝飾店の店員は、伯爵閣下と私の前に複数の髪留を並べたため、正直に言えば目移りがしてしまいますが、その中の一つが特に私の目を惹きました。
『その髪留は、白金に青玉を嵌め込んであるのですか?』
私が指し示した、灰白色の白金で出来た髪留に、碧色の青玉を嵌め込んである髪留を確認した、皇室御用達のクリムゾン宝飾店の店員は、私に対して深々と御辞儀をして。
『流石は伯爵夫人様、お目が高いと感服致しました』
伯爵閣下も、私が関心を持った髪留を気に入られたようで、頷かれながら。
『其方の髪の色は灰白色、瞳の色は碧色、確かにその髪留は其方に良く映えると思うぞ。我が妻よ』
私は伯爵閣下に対して頭を下げて。
『ありがとうございます、伯爵閣下』
『うむ、ではその髪留をもらうとしよう、箱に入れて包んでくれ』
宝飾店の店員は、伯爵閣下に対して深々と御辞儀をして。
『お買い上げ、誠にありがとうございます、伯爵閣下、伯爵夫人様』
伯爵閣下と私は、宝飾店の店員が髪留を包んでいる間、夫婦二人で、店内の他の品々も見て歩きました。
『他にも何か気に入った品があったら、遠慮なく言うがよい』。
私は伯爵閣下に対して小さく首を横に降り。
『今日はとても素敵な髪留を買って頂きました、これ以上を望むのは罰が当たるかと思います』
伯爵閣下は、私の言葉に穏やかに微笑まれて。
『其方は本当に弁えた、良き妻だ。儂は恵まれた男だと思うぞ』
『大変御待たせ致しました、伯爵閣下、伯爵夫人様』
伯爵閣下は、伯爵家の臣下に髪留を入れた包みを受け取らせると、小切手にサインをされて店員に渡されました。
『ありがとうございます、伯爵閣下、伯爵夫人様、またの御来店を心より御待ち致しております』
伯爵閣下と私は、深々と頭を下げる宝飾店の店員に見送られながら、伯爵家の臣下と護衛と共に、帝都の伯爵邸へと帰りました。