十五歳の伯爵夫人第五話『侯爵閣下』
『奇遇だな伯爵、このような所で出会うとは』
伯爵閣下と私が、帝都にある皇室御用達のクリムゾン宝飾店へ夫婦二人で出向くと、偶然居合わせた侯爵閣下がお声をかけて下さりました。
『侯爵閣下、御無沙汰しておりました』
伯爵閣下と私は、侯爵閣下に対して深々と一礼を行いました。
侯爵閣下は、伯爵閣下と私に対して頷かれて。
『昨年の伯爵の婚儀以来になるな、自分も昨日帝都に着いたばかりだが、伯爵夫人、産後の体調は如何かな?』
私は再び侯爵閣下に対して、深々と御辞儀をして。
『御心配頂き、誠にありがとうございます、侯爵閣下、産後の体調の回復は順調です』
侯爵閣下は、私の言葉に頷かれて。
『伯爵、伯爵夫人、今日自分がここに来たのは、以前帝都に居た際に頼んだ品を取りに来たのだが、もう少し時間がかかるようでな、どうだ、頼んだ品の準備が済むまで、奥のゲストルームで話し相手をしてくれぬか?』
伯爵閣下と私は、侯爵閣下に対して深々と頭を下げて。
『喜んで御相手させて頂きます、侯爵閣下』
侯爵閣下は、伯爵閣下と私に対して頷かれて。
『奥のゲストルームを借りるぞ』
『はい。侯爵閣下』
侯爵閣下はクリムゾン宝飾店の店員に一声かけられてから、伯爵閣下と私を先導されてゲストルームに入られると。
『誰も入れるな、扉にも誰にも近付けるな』
『はい、侯爵閣下』
侯爵閣下は、侯爵家の護衛にそう命じられて、ゲストルームの扉の鍵を閉められてから。
『“先生”おかわり無さそうで嬉しいですね、僕の可愛い妹も元気そうで何よりだと思いますね』
侯爵閣下、昨年お父様から爵位を継承された私のお兄様は、人前で被られていた、侯爵としての仮面を外されました。
伯爵閣下も笑みを浮かべられて。
『“義兄”もお変わり無いようですな』
侯爵閣下であらせられる私のお兄様は、私よりも十歳歳上の二十五歳ですが、妹の私が伯爵閣下の元に嫁いでいますから、帝国婚姻法の規定に従えば、六十五歳の伯爵閣下よりも、四十歳歳下の二十五歳の侯爵閣下が、伯爵閣下の義兄となります。
『どうぞお座り下さいね』
伯爵閣下と私は、侯爵閣下にゲストルームのソファーに座るように奨められたので、夫婦二人で並んでソファーに腰掛けました。
『しかし、本当に奇遇ですね、“先生”、クリムゾン宝飾店には、今度皇宮で開かれる晩餐会の際に、伯爵夫人が身に付けられる装飾品をお求めに来られたのですか?』
伯爵閣下は、侯爵閣下に対して頷かれて。
『はい、義兄、妻の髪に似合う髪飾りはないかと思いまして』
侯爵閣下は、私の方を見られて。
『伯爵夫人の髪の毛はとてもお綺麗ですからね、僕も幼い頃から、自慢の妹でしたからね』
私は侯爵閣下の御言葉に対して、深々と頭を下げました。
『しかし、今度の晩餐会の装飾品でしたら、紅玉は避けるべきだと思いますね』
『何故ですかな、義兄?』
『今度の晩餐会では、皇女殿下が、紅玉を中心にした新しい首飾りを身に付けられて御出席されるそうですから、紅玉被りは避けた方が賢明だと思いますね』
伯爵閣下は、侯爵閣下に対して頷かれて。
『確かにそうですな、お教え頂き、ありがとうございました、義兄』
侯爵閣下…お兄様は。優しく微笑まれて。
『僕の可愛い妹の為ならば、いつでも宮廷の事情を提供しますからね、遠慮なく頼って下さいね』