十五歳の伯爵夫人第三話『入浴』
『最低でも後十五年、出来れば二十年は生きて、儂と其方の間の大切な息子の成長を見届けてから死ぬつもりだが、人生一寸先は闇だ、何が起こるか分からぬ』
伯爵閣下と私は、帝都の伯爵邸の大浴場で、夫婦二人で、伯爵邸に引き込んである温泉に浸かりながら話しています。
『儂は今年六十五歳、其方は今年十五歳、どう考えても儂は最愛の妻である其方と、大切な息子を置いて先に死ぬ事になる』
伯爵閣下は、沈痛な表情をされながら話されています。
『儂の姉弟は其方の祖母である姉上唯一人、無論其方の実家である侯爵家は、其方の後援を行ってくれるではあろうが、それだけでは不安でな』
ここで伯爵閣下が、私の事を手招きされたので、私は浴場の中で身体を伯爵閣下に御預けしました。
『我が最愛の妻よ、どうか儂の我儘を聞くつもりで、帝都の学院に通って欲しい、同年代の友人や知人を作っておく事は、儂が死んだ後にも、其方と息子の立場を守る為にも役立つし…、儂が其方から奪ってしまった時間の埋め合わせをさせてもらえると嬉しい』
私は…、私の髪の毛を優しく撫でられている、私の夫である伯爵閣下に対して。
『伯爵閣下、私は何一つ伯爵閣下に奪われたと思ってはいません』
伯爵閣下は、私の髪の毛を撫でる手を止められて、私の身体を優しく抱き締められて。
『ああ…、儂は何と幸せな男なのだろう、我が最愛の妻よ、儂は其方と出会う為だけに、この世に生を受けたのだな』
『伯爵閣下、私も伯爵閣下の妻となる為だけに、この世に生を受けました』
伯爵閣下と私は、浴場の中で、優しくも激しく口づけを交わしました。