十五歳の伯爵夫人第一話『初産』
十五歳の伯爵夫人が。生まれて初めて帝国の帝都の学院に通います。
『ふうっ』
私は激しい痛みとの格闘の後の、気怠さに身を任せていました。
『子供を産むのは大変だと、御母様や御祖母様から聞いてはいましたが…、こればかりは実際に体験しないと分かりませんね』
私はつい先程初産を経験しましたが、正直に言って二度と同じ体験はしたくないと思いました。
私は横を向いて、ベッドの横に控えている産婆の一人に対して。
『伯爵閣下はどうなされていますか?』
産婆は私に対して。恭しく頭を下げて。
『はい、伯爵夫人様、伯爵閣下は、御嫡男の誕生を事のほかお喜びになられまして、大広間で祝宴を催されています』
私は産婆に対して頷いて。
『それは良い事ですね、伯爵閣下にとっては家門と、自らの血筋を伝える男子の誕生なのですから、お喜びになられるのは当然…』
『バンッ』『我が最愛の妻よでかしたぞ』
ややお酒が入られている、伯爵閣下が御出になられたので、私はベッドの上で上体を起こそうとしましたが。
『そのまま、そのままで良い、我が嫡男を産むという大役を果たしてくれたのだから、自らの身体を労るように』
私は伯爵閣下の御言葉に甘えて、再びベッドに身を預けました。
『ありがとうございます、伯爵閣下』
伯爵閣下は、私が横になっているベッドの横に来られると。
『我が妻よ、其方が産んだ我が嫡男は、五体満足な健康な男子だ、本当に、本当によく産んでくれた』
お酒が入られている伯爵閣下は、涙を流しながら、優しく私の手を取られて下さいました。
『ありがとうございます、伯爵閣下』
伯爵閣下は、私の言葉に激しく頷かれて。
『先妻と、先妻が産んだ全ての子供に先立たれた時は、我が家門もこれまでかと一度は諦めかけたが、姉上の言に従い、姉上の孫娘である其方を、後妻として妻にして本当に良かった』
私の御祖母様の弟であられる、私よりも五十歳年上の夫の伯爵閣下は、子供のように涙を流され続けています。
『伯爵閣下の御嫡男が、健康に育たれる事を、私も願っています』
伯爵閣下は、御自分の涙を拭われると。
『うむ、それなのだがな我が最愛の妻よ、其方の産後の体調が回復しだい、帝都に移ろうかと考えている』
私は伯爵閣下に対して頷いて。
『分かりました、伯爵閣下、一日も早く体調が回復するように努めます』
伯爵閣下は微笑まれると、優しく私の髪の毛を撫でて下されて。
『我が最愛の妻よ、其方はいつも不満一つ言わずに儂に従ってくれるな、儂が其方と我が嫡男を連れて帝都に行くのは、帝都ならば我が嫡男が病に侵されても、直ぐに対応出来るからだが、楽しみにしているがいい、帝都では其方にも“贈り物”を用意しておくからな』
伯爵閣下はそう言われると、部屋から出て行かれました。
…贈り物ですか?、伯爵閣下のご領地は帝都の北方に位置していますから、帝国発祥の地である帝国の南方の産物かも知れませんね。
私は伯爵閣下に御約束したように、産後の体調の回復に努める為に、ベッドの中で目を閉じました。